5.それが約束だから-04
いくらお義母様と旦那様の機嫌がいいとはいえ、結局のところ私は伴藤家に監視されている。昼間は家事に明け暮れて、自分の時間などないに等しい。だから名月神社に行くことができない。
はやる気持ちを押さえながら、夜になるのを待った。
ちょうど雨も夕方には上がった。
すべての家事を終え、深夜になった。
静かな夜に、虫の音が響く。
伴藤家が寝静まった頃、私はひとり屋敷を出た。夕方まで降っていた雨のせいで、ところどころぬかるんでいる。転ばないよう慎重に足を運び、名月神社の石段の前まで来る。石段の先の鳥居の上を見上げる。いつもそこに月読様は座っていた。
でも、今日は、いない――。
ドキンと心臓が嫌な音を立てた。やっぱり私は見えなくなってしまったのだろうか。
あの夢は正夢だったのでは……?
石段を登る。身ごもったからだろうか、大した事ない石段なのに息が切れる。はあはあと息を切らしながら登った先にも、月読様の姿は見えなかった。
「月読様……、どこにいますか? 出てきてください。お願いだから……」
くらり、と立ち眩んで体が前のめりになる。お腹だけは守らねばと必死に手を伸ばした。だが、その手は地面につくことなく、ましてや体を打ち付けることもなく、ふわりと抱えられる。
朦朧とする意識の中で、月読様の香りを感じた。
ほんのり甘い、白檀の香り。
「月読……様……?」
「喜与……」
ああ、会えた。
月読様に会えた。
月読様の透き通るような声。
私はまだ、力を失っていなかった。
ああ、よかった。
ぽろりと涙が溢れる。
安心したからか、そのまますうっと意識が途切れた。