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4.本物の愛-01

連れて来られたのは、拝殿の奥にある神様を祀る本殿だった。こんな神聖な場所、入ることを許されるわけがない。それなのに――


「私の神殿だ。誰も文句はあるまい」


神職でもないのに、入ってしまった。

月読様は神様じゃないって思ったけれど、前言撤回。月読様はやはり神様だったようだ。


人肌のちょうど良いお湯に手拭いをくぐらせ、固く絞る。それを顔に当てると、温かさにほうっとため息が漏れた。


「見せてみろ」


月読様へ顔を向けると、切れた口元を手拭いでそっと拭ってくれる。


「痛くないか?」


「はい、こんなの何でもありません」


「馬鹿者。何でもないわけないだろう。喜与の綺麗な顔を傷つけおって、許せぬ」


怒ってくれることが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。この世界で私のことを気遣ってくれるのは、きっと月読様だけ。それに、綺麗だって言ってくれるのも月読様だけ。


世界がまた、少しずつ色を帯びていく。


「……何か可笑しいか?」


「はい、怒ってくれることも綺麗だって言ってくれることも、全部可笑しくて嬉しいです」


「喜与は綺麗だよ、とても」


柔らかな明かりに照らされた月読様はとても幻想的で、見惚れてしまう。頬を撫でてくれる手がとてもあたたかい。


引き寄せられるように近づいて、唇が重なった。

柔らかで優しい口づけに、涙がこぼれる。

胸が張り裂けそうになる。


「月読様……」


「すまぬ」


「謝らないで。どうかこのまま私を抱いてくださいませんか」


「だが、喜与……」


「私は月読様とのお子がほしいです」


旦那様ではなく、月読様の。

大好きでたまらない、あなたとの子がほしい。


月読様は困惑した表情を浮かべた。


「喜与と私は生きている世界が違うのだ。これ以上お主を愛すると、取り返しがつかなくなってしまう」


「愛してくれているのですか?」


「ああ、愛しているよ。愛しているに決まっていよう」


ああ、涙が溢れる。

この淀んだ世界に、私を愛してくれる人がいたんだ。それがたとえ人ではなくとも、私にはかけがえのないほど嬉しいことだ。

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