2.色づく世界-06
「えっ、すごい! すごいです月読様! これって神様のお力ですか?」
「さあ、どうであろう? 少し、願いを込めたが」
月明かりに照らされたキキョウは鮮やかな紫色で世界を彩る。そよそよと夜風に煽られ、儚く揺れた。
「綺麗だな」
「はい、とても。また、お花を持ってきてもいいですか?」
「かまわぬ。私も綺麗な花が見られるのは嬉しいからな。だが育て方は知らぬゆえ、お主が面倒をみてくれ」
「はい、ありがとうございます」
躊躇なく受け入れてくれるので、私の方が嬉しくなる。これで伴藤家でこそこそ花を育てなくてもよくなった。伴藤家では否定されるものが、ここでは受け入れられる。そして、私を必要としてくれる。なんてありがたいことなのだろう。
「月読様、本当にありがとうございます。私、胸がいっぱいで――」
感謝の気持ちを伝えたいけれど、ありがとう以外の言葉が思いつかない。
月読様は目を細めてにっこりと微笑んだ。
「そういえばお主の名を聞いていなかったな」
「はい、私は喜与と申します」
「喜びを与えるで、喜与か。まさにその名の通り、私に喜びを与えてくれたな。礼を申す」
瞬間、目の前のモヤが晴れるように風が吹き抜け、世界に色が付いた。満天の星空の下、鮮やかなキキョウが柔らかく揺れる。それはまるで月読様の心のように優しくしなやかで、そして儚かった――