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4 不思議な喫煙所へ




「お嬢は酒飲まないんですよね?」


「あぁそうだ。けど飲まないだけで飲めるのは飲めるぞ」


「なんで飲まないんすか? 美味いじゃないっすか」


「いやなんか……ウチの若い衆と成人の祝いに飲み交わしてな。

なぜかそこから『絶対飲むな』と組総出で禁止されてから飲んでいない」


私とチーシャはまたシャンシャンと不思議な足音を鳴らしながら暗い道を再び歩いていた。

歩くたびに自分の靴跡が淡く光るのにももう慣れた。


「タバコとか葉巻もしないんっすよね?」


「あぁしないな。昔、喘息だったからな。

組のもの全員で禁煙したらしい。

それ以来、屋敷でそういう類の物を見なくなった」


「今も喘息あるんすか?」


「いや。もう治ったから別に周りが吸っていようがどうって事ない。

自分は吸わないがな」


私の返答に「あぁよかった」と嘆息するチーシャを横目に少し明るくなっている場所が目に入る。


「あそこ明るくないか?」


「あぁあそこが目的地っす。

お嬢がこの世界の事とか知りたいって言ってたんで詳しい人のところに連れて来たんっすよ」


「なるほど」


「ただし……ちょいと煙たいかもしれないっすけど……そこだけ……」


「分かった」


そう言って明るい場所に足を踏み入れると、そこはガラス張りで空間が仕切ってある場所だった。

ガラスの扉には[smoking area]とステッカーが貼られている。

なるほど、喫煙所か。

チーシャが扉を開けてくれて中に入る。


チーシャがコホンコホンと咳き込む。

タバコではなく水タバコの甘い香りが立ち込めている。

それならば水蒸気かと納得しつつチーシャの方を向く。


「チーシャ。苦手なら外で待っててもいいぞ」


「いえ大丈夫っす。久しぶりに来たからびっくりしただけっす」


「まぁ無理そうなら外に出ていいからな」


「あざっす」


チーシャと話していると煙っていた空気がブォンっという音とともに薄らぐ。

どうやら空気清浄機が稼働したようだ。



ガラス張りの部屋には応接室のような……ソファ? キノコ? がところどころに生えている。

そのキノコの上に50代くらいの緑のスーツを綺麗に着こなしたロマンスグレーのおじさまが座って水タバコを蒸していた。


「おや? こんなところにレディーが。

失礼。ちょうど休憩時間でね」


「お邪魔いたします。

わたし有栖川牡丹と申します。

こちらのチーシャにこの世界に詳しいという方がおられると聞きまして、お話を伺いに参ったのですが……」


「お嬢……そんな話し方できたん……グアっ」


チーシャの足を踵で思いっきり踏む。

チーシャは痛さのあまり蹲り悶絶していた。

そんなチーシャをにこやかな笑顔で見ながらロマンスグレーのイケオジは私とチーシャに話かける。


「ご丁寧にご挨拶ありがとう。

それでここまで来たんだね。

それは多分僕のことだね? そうだね? チーシャ」


「はいそうっす」


「それじゃまずは自己紹介から。

僕はゼミキールと言うんだ。よろしく頼むよ」


「はい。こちらこそ。

何か手土産の一つでも持参するべきでしたのでしょうが……。

申し訳ございません。突然こちらに落とされたもので……」


「あぁ気にしないでくれ。と言っても気にするかな?

じゃぁ君のポケットに入っているマドレーヌをもらおうか。ちょうど糖分が欲しかったんだ」


そう言ってウィンクをするイケオジことゼミキールは私のポケットを指さして言う。

見えないものを知っている事にも、もう驚きも何もない。

私は素直にポケットからマドレーヌを取り出してゼミキールが座っているキノコの軸の近くまで行きハンカチを広げる。


「それじゃあ、いただくね」


そう言ってゼミキールが指をパチリと鳴らすとマドレーヌがふわふわと浮き上がり、ゼミキールのいる場所まで飛んで行く。

そしてもう一度ゼミキールがパチリと指を鳴らすと私の前に、キノコがうごうごと動いてソファとテーブルの形になる。


「チーシャ、レディーを席にご案内して。

そしてお茶の準備を取りにおいで?」


「りょーかいっす」


チーシャにソファ座るように促され私は大人しくキノコに座る。

チーシャはそのままゼミキールのいる場所までキノコをポンポンと飛びながら近づく。

そしてまたぽんぽんと飛びながら降りてきた。

先ほどまで持っていなかったトレイを片手に持っていた。


「ほい。お嬢。お茶っす。あと茶菓子っす」


「ありがとうございます。いただきます。

ありがとね。チーシャ」


そう言って一口お茶をいただき、茶菓子のケーキを一口食べる。

そしてまた一口お茶を飲んでゼミキールの方を見上げる。


「美味しいですわ。ご配慮感謝します」


「いいえ。素敵なレディーにお会いできて嬉しいのはこちらだ。

あぁ失礼だったね。こんな場所にいると君の華奢な首が痛くなってしまう」


そう言って再びパチリとゼミキールが指を鳴らすと、ぐんぐんとゼミキールの座っているキノコが小さくなり私の前まで降りてきた。


「これで話しやすいかな?」


「ええ。ありがとうございます。素敵なお召し物ですね」


ダークグリーンのセットアップのスーツに黒のシャツ。

グレーのネクタイをつけている。

ロマンスグレーの髪は綺麗に後ろに撫でつけられている。

そしてゼミキールは銀の細い縁のメガネをつけたイケオジだった。


遠目から見てもイケオジだが、近くで見てもイケオジだった。

長い足を組んで座る姿も様になっている。


「ありがとう。気に入っているんだ。

じゃあ。この世界の話を聞きたいと言うことだが何から聞きたい?

君の質問にできる限り答えよう」





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