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27 夢の続きは人生の途中



それからしばらくはハート辺境伯領で過ごした。

そもそも、しばらくの間はサルドゥストの魔力が溜まるまでこちらで過ごす予定になっていた。

しかし実際のところサルドゥストの魔力は3日で私を元の世界に送る程度に戻っていた。


「…………………」


「だからすまない。

兄上の妨害が無くなったから予想より早く溜まったんだ」


「しかしこの状態では帰れないだろう?

お前は私の父親にこの状態の私を連れて顔を合わせることができるのか?」


私の言葉に顔色を一気に悪くさせたサルドゥスト。

それもそうだ。

私が酔った日にサルドゥストがつけた赤い痕が紫になり、首筋や胸元に残っている。

一線は超えていないが、さすがに私もこの状態で親の前に出られるほど厚顔無恥ではない。


「…………本当にすまない。

だからではないが、今回あちらの世界に戻った時に父上に話してもいいか?」


「何をだ?」


「何をじゃない。俺とアリスの結婚についてだ」


「……っ!!」


サルドゥストの予想外な言葉に思わず自分の顔が熱くなる。

私はそれを誤魔化すように咳ばらいをする。


「その反応は良いと取るが?」


ニヤニヤと私を試すように私を見るサルドゥストに苛立ち紛れに近くにあったクッションで顔を押さえつける。


「ぐふっ‥‥‥‥…」


呻くサルドゥストの耳元で仕返しの様に囁く。


「私と結婚してくれ」




♢♢♢♢♢




「ほら。アリス目を開けろ」


そう言われて目を開けると見慣れた庭だった。




「牡丹……」


「…………………………(ドスッ)」


「ぐはっ!! 相変わらずいい蹴りだ……」


「親父。私に言ってないことが多すぎる。

母上があちらの世界の人間だとは知らなかったじゃないか。

サルドゥストの事も」


「……だって……牡丹ちゃんに説明したってどうせ『そうか』で終わらすじゃん!

実際に自分の目で見て経験しないと考えてくれないじゃん!!」


「……まぁそうか」


親子喧嘩のゴングが鳴ったと思いきや、そこに割って入る者が居た。


「お父上お久しぶりです。サルドゥストです」


「あぁ大きくなったね。

おっとすまないこんなところで立ち話なんて。

中でゆっくり話そうか」


「ありがとうございます」


サルドゥストが空気をぶった切って入って来てくれたことで、私も少し落ち着くことができた。

屋敷の応接室に入り、私とサルドゥストが並んで座る。


「親父。私はあっちの世界で暮らすことにした。

まぁ時々帰ってくるから安心しろ」


「…………サルドゥスト君……説明を頼んでいいかい?」


とりあえず二人に茶の準備でもするかとキッチンにやってきた。

茶菓子は……と手を伸ばすとヒョイっと横から箱が取られた。


「チーシャ。なんでお前がこっちにいるんだ?」


「俺はお嬢の護衛っすから。

こっちの世界初めて来たっすけどあんまりあっちと変わんないっすね。

ところでこれはなんっすか?」


「あぁそうか。でもここでは危険なことは無いぞ。

それはどら焼きだ。貸せ。一個食べてみろ」


私がチーシャにどら焼きを手渡すとチーシャを不思議そうに手に取ってパクリと口にする。


「…………っ!! なんすか!!

この世界のものは……なんてうまいんすか!!」


青い猫型ロボットもどら焼きが好きだったが、ピンクと紫の猫耳男もどら焼きが気に入ったらしい。

私はそれを横目に見ながら親父とサルドゥストへの茶の準備をはじめた。


「お嬢のお父上ってクミチョウサンってやつなんっすか?」


「ああ。そうだ」


「クミチョウサンって強いんっすか?」


「あぁ…………親父は……」

と言いかけた時。


庭が騒がしくなり始めた。

私は何が始まったか思い当たり「はぁぁぁぁぁあ」と大きなため息をつく。


「チーシャ行くぞ……」




庭に出れば親父とサルドゥストが向かい合っていた。

親父は着物を肩から抜き竹刀を手に持っている。

サルドゥストはごちゃごちゃと装飾のついていた軍服の上を脱いで、シャツ一枚になり腕まくりをしているところだった。


サルドゥストをおろおろと見ているジャックに声をかけチーシャと三人で縁側に腰掛ける。

2人に茶を淹れてやり、どら焼きを勧める。

チーシャは嬉しそうにどら焼きを手に取り、嬉しそうに頬張る。

ジャックは相変わらずおろおろとしているので、湯呑を手渡してやる。


「あっあの……アリス様……これは……?」


「あぁ……ただの喧嘩だ」


「………………」


屋敷からワクワクと若い衆か出てくる。

そこに若頭である斎藤がいた。

斎藤は私を見て、目を見開き急いで私の元にやってくる。


「お嬢! あっあの! これは!?

あっ!! おかえりなさい」


「ああ。ただいま。

これはあれだ『俺を倒さないと娘はやらん』というやつだ」


「ああ。なるほど……?

えっ!? お嬢結婚するんですか?」


「まぁ……そうだな。とりあえず親父がさっきから斎藤の合図を待っているぞ?」


親父が先ほどからこちらをチラチラ見ているので、斎藤にそう言ってやると斎藤は転げるように二人の元に走っていった。


「…………それでは。…………はじめっ!」


斎藤の合図に二人がぶつかり合う。

親父は竹刀を持っているがサルドゥストは素手だ。

まぁサルドゥストは手足が長いから、あまりリーチはないだろう。

親父はまぁ強いが私ほどではない。普通だ。

親父が竹刀を上から降りぬいた時、サルドゥストがあっさりと背後を取り、手で銃の形をとる。

背中に人差し指を当てて「バーン」と口で言った……。

開始一分も経たずに終わった喧嘩に若い衆たちは腹を抱えて笑い出す。

親父は顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら大声で叫んだ。


「野郎ども!! 宴会の準備だ!!」


親父がドタドタと若い衆の元に足音を大きく立てて行く。

それを目で追っているとサルドゥストが苦笑いを浮かべながらこちらにやってきた。


「アリス……少しいいか?」




私とサルドゥストと二人で昔、サルドゥストが住んでいた隣の洋館の庭にやってきた。

時々、我が家の若い衆が掃除に来ているので、比較的綺麗に保たれている。

その庭を二人で歩く。

チーシャとジャックは宴会の準備に駆り出されていった。


「懐かしいな……」


「ああ……」


「父上からアリスをあちらの世界に連れて行ってもいいと許可をもらった……。

アリスは本当にいいのか?」


「あぁいいぞ。こちらにも年に数回は戻ってこれるんだろう?」


「ああ。もうウルドゥストとのことも落ち着いたしな。

あとは嵐があれば俺の魔力が必要だが、さほど回数もない。

俺も魔力をある程度は放出しないといけないから年に最低二回はこちらに戻れる」


「それなら問題ない。こちらで結婚したとしても婿を取らずに嫁に行けば同じようなものだ」


「…………そうか。連れて行く俺が言うのもなんだが、父上は寂しいだろうな……」


「まぁそうだろうが、そこまででもないぞ?」


不思議そうな顔をして私を見るサルドゥストに「フッ」と笑いかける。

 

サルドゥストの手を引っ張り屋敷が見える場所に連れて行く。

そこには若い衆に囲まれて泣いたり笑ったりしながら楽しそうにしている親父の姿が見える。


「うちの組は本当に仲が良いんだ。

もちろん上下関係はあるが、あいつらは親父が拾ってきたやつらだ。

だから奴らは親父を本当の親父だと思っている。

だから……大丈夫だ」


「…………そうか」






「おーーーーーーい。牡丹ーーーサルーーーー宴会をはじめるぞーーー」


こちらに向かって子供の様に手を振る親父を二人に顔を見合わせて笑い屋敷に向かって走った。


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