23 不思議な王国へ(3)
2人のグラスに次々と酒を注ぎ、私も合間に自分のグラスを傾ける。
その間、ずっと無言だった。
時々ウルドゥストが私に話しかけているが、サルドゥストもウルドゥストもお互い視線を合わせようともしなかった。
「これ美味しいね。なんて言うの?」
ウルドゥストは柿の種が気に入ったようでグラスを傾けながら熱心に柿の種をほおばっていた。
「これは柿の種だ。このスナックが柿の種という。
それとピーナッツと合わせれば柿ピーと呼ばれるものになるんだ」
私の言葉にサルドゥストの手が止まる。
私はそれをニヤリと見て「ほぉ?」とサルドゥストに笑いかける。
「なんだ?」
「サルドゥストもそれが好きだもんな?
やはり兄弟なのだなと思っただけだが?」
「………………うるさい」
「なんだ?反抗期の中学生でももっとマシな返しをするぞ?」
「……………………」
先ほどからサルドゥストが柿の種を熱心に食べていたのを私はこっそり見ていた。
からかうようにサルドゥストに声をかけると拗ねたようだ。
黙りこむサルドゥストをそのまま放っておいて私はウルドゥストにはなしかけた。
「まずはウルドゥストに聞きたいことがたくさんある」
「あぁいいよ」
かなりのペースで酒を飲ませていたので二人とも、頬と目元がうっすらと赤く染まっている。
もちろん空瓶がかなりの山になっているが……。
「まずは根本的な話から聞きたい。
何故ハート辺境伯領を攻撃するんだ?」
私の質問にピクリとサルドゥストが反応を見せる。
私はサルドゥストが変に反応しないようにテーブルの下で彼の手をしっかりと握る。
サルドゥストはそれにびくりと肩を揺らしたが、私の指に絡めるように手を握り返してきた。
「それはね……。サディーのためなんだ」
「はぁ!?」
「サルドゥスト。最後まで聞け」
私の言葉に「うぅ」っと黙り込み、より一層私の手を強く握る。
「僕はね国王になりたくてなっているんじゃないんだ。
もしサディーがなりたいならなればいいと思う。
でもハートがある限り、君はあの場を見捨てることはできないだろう?
それなら消しちゃえば君は戻って来られるんじゃないかって……」
「ウルドゥストは……俺が目障りでハートを潰そうとしているのではない……?」
サルドゥストの言葉にウルドゥストが立ちあがり抗議する。
「そんなわけない!!
僕は……僕は……君が8歳の時にアリスの世界に行って……。
帰ってきた後、その力が認められた事を誇りに思っていたんだ……。
けれど……父上が君の力を恐れてハートに追いやった。
そのことが悔しくてたまらなかったんだ。
僕は弟である君ともっと一緒に過ごしたかった……。
ただ……それだけなんだ……」
話の途中でソファに座り込み、両手で顔を抑えて泣き声混じりでそう訴えるウルドゥスト。
それを呆然と見るサルドゥスト。
その場はシーンと静まりかえる。
「まぁやり方は褒められた事ではないが、ウルドゥストはサルドゥストの事を嫌っているわけでは無いということだな?」
「当たり前だ!
僕はただ……サルドゥストに戻ってきてほしかっただけだ!!」
「だそうだぞ? サルドゥスト?」
「…………………………そうか」
なんとか絞り出したかの様なその声と同時に、私の手を強く握っていた力が抜ける。
私はサルドゥストの手を握っている手の親指で彼の手の甲を軽く撫でる。
「俺は、兄上が俺を邪魔に思っているものだと思っていた……」
「そんなことない……」
「じゃあ……もし俺がハートでの生活が気に入っていて、あの場所を大事にしていると言えばどうなんだ?」
「そりゃ……時々こちらに顔を出してくれるなら……必要なことがあれば手助けする……」
「そうか…………」
2人は兄弟らしく同じように視線を彷徨わせて、まるで迷子の子供の様に不安そうな表情をしていた。
「……サルドゥストはあそこで過ごしたいんだね?」
「あぁ。確かにあの場所は他の者から見れば忌むべき場所だろう。
けれど、俺以外にもハートで根を降ろし生活するものがいる。
あの場所を好むものがいる。
俺もその一人だ」
「そっか…………今まで……ごめん……」
「……あぁ」
再び沈黙が訪れる。
2人は何度か口をパクパクと開いたけれど言葉が見つからないようで結局閉じる。
「わかった。お前たち、今こそ兄弟盃を交わせ」
私の言葉に4つの赤い瞳がこちらを見る。
「やり方を知らないのか? チーシャ来い!」
私はチーシャを呼びつける。
私はグラスに入った酒を一気に8分目まで飲み干す。
「さぁ飲め。チーシャ」
「はいっす!」
チーシャが私のグラスから残りの酒を飲み干す。
「こうだ。ただそうだな。
お前たちはちょうど半分ずつ飲んで、お互いのグラスを交換しろ」
「なんでやり方を変えるっすか?」
「私とチーシャはパワーバランスがあるからな。
私の方がそれだけ上だということだ」
「……ひどいっす……でも仕方ないっす。受け入れるっす。
それじゃぁお二人は?」
「二人は本物の兄弟だ。
私たちと違いパワーバランスは必要ない。
お互いがお互いを補い合えばいい。
だからグラスはお互いの物を半分飲んで交換すればいい。
ただ見えない約束をするより目に見える契りがあればウルドゥストも安心だろう?」
私の言葉にハッと顔を上げ赤い瞳を見開いてウルドゥストがこちらを見る。
「やるか?」
私は二人をじっと見る。
すると二人とも同時にコクリと頷いた。
私が二人のグラスに並々と酒を注ぐ。
それを二人に手渡す。
二人は目を合わせる。
初めて二人が目をきちんと合わせた瞬間だった。
ヘラリと笑うウルドゥストにぎこちないながらも微笑み返すサルドゥスト。
「ウルドゥスト。サルドゥスト。
2人は今後、本当の兄弟として理解し合い譲り合い、尊敬しあいながら年を重ねろ。
そして時々けんかをしてもいい。
しかし必ず話し合って、今日ここに交わした契りを違えないよう。
見届け人は私、有栖川牡丹。
盃を交わせ」
2人は一気にちょうど半分飲み、グラスを交換する。
そして残りもしっかりと飲み切った。
「今までごめんね。サディー……」
そう言ってウルドゥストは机に突っ伏して寝息を立て始めた。




