23 不思議な王国へ(2)
「サルドゥスト。兄貴が嫌いなのか?」
私の言葉に廊下を歩く全員の足が一様にピタリと止まった。
「「「「…………………………」」」」
全員が沈黙を貫く中、一人声を上げて笑うものがいた。
「ハハハっ。アリスよく言ってくれたよ」
笑い声の主はウルドゥストだった。
「ウルドゥストは弟が嫌いなのか?」
「クッ………………」
息を飲んだのはサルドゥストだった。
「まぁその件も含めて話し合いが必要なようだな。
歩いている最中に済まなかった。
まずは部屋へ向かおう」
「助かるよ。アリス……」
アリスが言うとそう言って流し目でこちらに視線を寄越すウルドゥストを先頭に再度歩み始める。
チラリとサルドゥストを見れば表情に変化はないが口の端がヒクヒク動いていた。
チーシャはと言うと額に手を当て「あちゃー早速っすね」と小声で言いながらうなだれていた。
部屋に通され、ウルドゥストは自らの茶を出す。
こちら側はサルドゥストが出した。
私はその行動を不審に思う。
「何故こちらの茶をサルドゥストが準備するんだ?
普通ウルドゥストが準備してくれるだろう?
それがこちらの世界の常識か?」
「ははは。そうだね。
普通は来客をもてなす側が準備するものだ。
なあ? サディー?」
サルドゥストは苦虫を噛み潰した表情のまま自分が出した茶を一口飲む。
それを当たり前のように受け入れるウルドゥスト。
「さぁそれはさておき。
アリスは何故、僕に会いに来たのかな?」
「あぁ。サルドゥストはこの国の王子だったと聞いてな。
ん? 今も王子なのか? 王弟?
まぁいい。
肉親がいるならば、私はまだこの国に世話になることになりそうだから挨拶をと思ってな」
「なるほど。では挨拶はすんだな」
ウルドゥストの言葉にサルドゥストが立ちあがる。
私の腕を取り「行くぞ」という。
ふとウルドゥストの顔を見ると少し切なそうに瞳を揺らした。
私はサルドゥストの腕を力いっぱい……。
そう……私の力いっぱい引いて座らせた。
ドスンという重い音と共に再びサルドゥストがソファに沈み込んだのを横目で確認する。
サルドゥストに変わって私が立ちあがる。
「サルドゥスト。グラスでも何でもいい。出せ」
「は?」
「サルドゥストが出せないならいい。
ウルドゥスト。三つ出せ」
「こんなのでいいかな?」
机を指で二回トントンと叩いたウルドゥストが出したのは三つのロックグラスだった。
「ああ。悪いが後、水と氷も頼む」
「分かったよ」
そう言って再び机をトントンと叩くとピッチャーに入った水とアイスペールに入った氷が出てきた。
「こんなのもいるかい?」
そう言って机をたたいて出したのは、スナックやオリーブ、チーズと言ったつまみだった。
「ああ。気が利くな。サルドゥスト。
乾き物が必要だ。
知っているお前しか出せないだろう?」
「…………分かったよ!」
そう言って視線一つで、スルメや柿ピーと言った和風のつまみが出てきた。
私はそれを確認してドレスの異様に膨らんだポケットからあるものを出して掲げる。
「さぁ。盃を交わせ!!」
「「………………………………」」
私が取り出したのは、喫煙所で出会ったゼミキールさんから頂いた芋焼酎『魔王』だった。
ゼミキールさんが『飲みたがる者がいるだろう。その時には自然ともとのサイズに戻るようにしているから安心しなさい』
と言っていた。
恐らく誰かが酒を飲みたいと思ったのだろう。
私はそう拡大解釈して酒盛りを始めることにした。
意気揚々と私は三つのグラスにロックで焼酎を注ぐ。
私を含めそれぞれの前にグラスを置く。
「盃を交わせと言ったが別に契りを見すべと言う意味ではない。
このままでは埒があかない。
酒飲んで腹を割って話すぞ!!」
そう言って私は自分のグラスを仁王立ちのまま一気に呷った。
強いアルコールが喉を焼くように通っていく。
それを見てチーシャが慌てたように私に近寄ってくる。
「お嬢っ!! 酒飲めないんじゃなかったんすか?」
「そうなのか!?
そう言えば晩餐の時にそう言っていたな!!
大丈夫かアリス!!」
「別に私は飲めないわけじゃない。
禁止されているだけで、これくらいなら平気だ。」
チーシャとサルドゥストの剣幕に私はケロッとしたまま答えた。
一人私の一気飲みに「おお」と言いながら手をパチパチと拍手しているのはウルドゥストだ。
私は再び自分のグラスに手酌で酒を注ぐ。
「さぁ。女に飲ませておいて大の男が二人とも飲めないとかないよな?
乾杯するぞ!!」
「乾杯!」
「乾杯」
「……乾杯」
私の掛け声にウルドゥストはやけに上品に、サルドゥストはしぶしぶといった様子でグラスを合わせる。
「初めて飲んだけど、なかなか癖があるね。
でも美味しい。他にも違うお酒も準備しようか」
そう言って指をトントンと鳴らし、様々な酒瓶を出すウルドゥストに向かって私は微笑みながら言う。
「おお。兄は行ける口のようだ。サルドゥストはどうだ?」
私の言葉になぞに対抗心を燃やしたのか、グラスの中身を一気に呷ってサルドゥストも視線一つで様々な日本酒や焼酎を出す。
「サルドゥストも良い趣味しているな。さぁ飲め」
私はそう言いながら二人のグラスにも次々と酒を注いだ。
チーシャの「まるで……もうアルハラっす…………」との言葉は聞かないことにした。




