22 不思議な王国へ
「お前の兄に会いに行くぞ」
私の言葉にこの世の終わりを見たかのような、愕然とした表情を見せるサルドゥスト。
せっかくの容姿が台無しだ。
「「…………………………」」
数分の沈黙の後私が先に口を開いた。
「行かないのか?」
「行かないと言ってお前は納得するか?」
「しないな」
私の言葉にサルドゥストはしぶしぶだが旅立つ準備を始めてくれた。
私のドレスはそのままでいいということだったので、サルドゥストの着替えを先ほどの部屋で待っていた。
「…………お嬢マジであの人に会いにいくんすか?」
「ああ。一応サルドゥストに呼ばれてきているからな。兄にも挨拶しようと思ってな」
「……お嬢マジでぶれないっすね……」
「あちらに伺う旨を伝えて了承の返事が来たんだ。
なんら問題はないだろう?
この世界に時間の概念はあまりないだろう?」
「……いや。そういう問題ではなくて……陛下からウルドゥストの話は聞いたんっすよね?」
「もちろん聞いたが?」
「この辺境伯領をぶっ潰しに来てる人っすよ?」
「あぁそれもやめてもらうように言っておかなければな」
私は頭に話す内容としてメモしておいた。
そんなやり取りをチーシャとやっているとサルドゥストが部屋に戻ってきた。
最初に見た赤い軍服を纏っている。
「本当に行くんだな?」
「もちろんだ」
「…………わかった。それではエントランスに向かおう」
私はサルドゥストにエスコートされながら、後ろにチーシャを伴いエントランスに向かう。
するとそこにはジャックが待っていた。
「ジャックも行くのか?」
「はい。私はサルドゥスト様の近衛騎士ですから」
「行くのはこの四人だ。
チーシャは何かあれば俺よりもアリスを守ることを優先しろ」
サルドゥストの言葉にチーシャが初めて真面目に
「御意」と答えていたことに私はこちらに来て今までで一番驚いたかもしれない。
「さぁ行くぞ。飛んでな」
と言う言葉とともに私はサルドゥストにいきなり抱き上げられた。
所以お姫様抱っこと言うやつだ。
私がそれに抵抗を見せ始めるとサルドゥストは更に私をきつく抱きしめる。
「今、落とせばアリスはどこに落ちるか分からないぞ」
サルドゥストのその言葉に私は一旦おとなしくすることにした。
なんせものすごい竜巻の中にいる。
それにしても『飛んでいく』というのが揶揄ではなくまさか本物の竜巻に乗って飛んでいくということだと誰も思わないだろう。
おそらくだが、兄へ会いに行くと言って譲らなかった私への嫌がらせだろう。
私はジト目でサルドゥストを見上げた。
激しい風の中で「なんだ?」とニヤリとするサルドゥストにイラつき肩に頭突きをした。
しかしサルドゥストは笑うだけで私の神経を逆撫でしてくる。
「落とされたくないだろう?
この竜巻は慣れていないものが乗るとあっという間に吹き飛ばされてどこかに落ちてしまう」
その脅し文句が怖かったわけではない。
わけではないが……サルドゥストの襟首をしっかり握った。
ストンと降り立った場所はどこかの庭園のようだった。
ハート辺境伯領は常に曇ったようなどんよりとした天気だったが、ここは青空が広がる気持ちのいい場所だった。
私は地面にそっと降ろされる。
すると私たちの後ろから男の声が聞こえた。
「やぁやぁ。我が弟とその一行。
わざわざトランプ王宮に何用かな?」
その言葉にサルドゥストが跪き、ジャックもチーシャもそれに倣う。
私はそのまま立った状態で声をかけてきた男を見る。
真っ白の軍服に私たちの世界でいうアルビノのような真っ白な髪を長く伸ばしている。
それを風にさわさわと揺らめかせる。
目はサルドゥストと同じ真っ赤な瞳だが、サルドゥストとはほど違い線の細いイケメンだった。
身長もサルドゥストより少し低いのでかなり小柄に見える。
「君がアリスかな?」
「あぁ。挨拶が遅れて申し訳ない。私が有栖川牡丹だ。
この度は急な申し出を受けてくれたことを感謝する」
「お前!! 国王様に何たる口の利き方!! 跪け!」
その態度に思わずと言ったように、チーシャをはじめサルドゥストも反応したがすぐに白髪の青年が動いた。
「クロード。彼女はサルドゥストが呼んだあちら側の世界の者だ。
こちらの常識を押し付けるな」
そう言ってサルドゥストの兄と思わしき男は私に立ちふさがろうとした緑の髪の男を手で制しながら言う。
クロードと呼ばれる緑髪の男を睨みつける目をこちら向け、優しく微笑みながら再度口を開く白髪の青年。
「せっかく挨拶をしてくれたのに申し訳なかったね。
失礼をした。私がサルドゥストの兄でこのトランプ国を治める王ウルドゥスト・ダイヤだ。
よろしくね。まずはお茶をしようか。
君たちもいつまでもそんな恰好をしてないでついておいで?」
そう言ってウルドゥストが歩き始めたので、サルドゥストもチーシャもジャックも立ちあがり彼についていく。
私はサルドゥストにエスコートされるように歩き始めた。
前を歩くウルドゥストがこちらを見て少し微笑んだ気がする。
しかしサルドゥストは私に心配のまなざしを向けることに忙しいようで気づいてもいなかった。
「サルドゥスト。兄貴が嫌いなのか?」




