21 不思議な王宮へ(6)
「さぁ。どこまで話しただろうか?」
上着を脱いでシャツ姿になったサルドゥストは、はちみつ色の液体が入ったグラスをカランと傾け、声を出した。
眼福だが……。
……おかしい…………。
それはこの距離だ。
サルドゥストは私と同じソファに座り、グラスを持っていない腕を私の背後の背もたれに回し、太ももはくっつくほど近かった。
「話す前に言いたい。もう少し離れろ」
「なぜだ? いやか?」
整った切れ長の赤い瞳で私を覗き込むサルドゥスト。
それを手で押しのけながら私は口を開く。
「いやか、いやではないかの問題ではない。
こんなに人と密着することが無かったから困るんだ……」
「そうか。しかしこれに慣れるのも大事だ。
だから慣れろ」
私の言葉により一層、笑みを深める。
そんなサルドゥストに私はこれ以上問答を続けても本題に入らなくなると諦めた。
「…………分かった。話を始めよう。
とりあえず、クソ親父がお前に私をやると話したところまでは聞いた」
「お前じゃない。サルドゥストだ」
「…………サルドゥスト……」
私が名前を呼ぶと嬉しそうに私の肩に手を置き、甘く微笑む。
もうこれ以上、サルドゥストの行動に何か言うのを諦めた私はおとなしくサルドゥストの行動を受け入れた。
「あぁそうか。
じゃあ、25歳の時に迎えに行くと言ってその時期にそちらに行けなかった理由を話そう。
これには俺の昔話に付き合ってもらう必要があるがいいか?」
「あぁもちろんだ」
私は紅茶を飲みつつ頷いた。
「俺は陛下と呼ばれているがここは正式にはハート辺境伯領だ。
国としてはトランプ王国の一部で俺はその王国の第二王子だ。
トランプ王国の王は俺の兄。ウルドゥストだ」
「第二王子…………」
私は母が私に教え込んでいたプリンセスと王子の話を思い浮かべた。
そしてサルドゥストと出会った時、私は彼を王子だと思い込み、憧れに似た感情を持っていたことを思い出す。
しかしそのことを言えば、またサルドゥストが調子に乗ると思い、黙り込む事を選択した。
私の言葉に頷き、私の考えていた事には気づかずサルドゥストは話を続ける。
「俺はもともと魔力が異常に強かった。
そして魔法の研究に幼いころから興味があった。
だからこの地で魔法の研究を始めたんだ。
当時、ここは前辺境伯も投げ出すほどの魔力の溜まり場で、今もある程度この地に馴染みがある者しか住むことができない」
「なるほど。だから私は異様に人と会うことが無かったのか。
では私はここに居て大丈夫なのか?」
「ああ。アリスに渡しているそのクイーンレッドダイヤに俺の何年分もの魔力を注ぎ込んでいるからな。
それに凝り固まったとはいえ、アリスのもともとの魔力量はアリアから遺伝したのだろう。
なかなかなのものだから問題は無い」
私は問題が無いことに密かに胸をなでおろした。
そしてサルドゥストに話の続きを促す。
「このハート辺境伯は、魔力の溜まり場として王国からは忌避される場なんだ。
俺がこの場を預かってからも処分されそうに何度もなっている。
だからこの場に住むものはトランプ王国を忌み嫌いハート王国として認識しているから俺の事を陛下と呼ぶんだ」
「…………なるほどな。処分とは具体的にどうされるんだ?」
「…………簡単に言うと魔法で『ドガーーン』だ。
大型魔法を打ち込んでくる。
俺がそれを今は防いでいる。
ちょうどアリスを迎えに行こうとしていた俺たちが25歳の2年前にかなり激しくされたからな。
俺の魔力に余裕が無かった。
その余裕ができたのが最近だったから急いでアリスを呼び寄せた」
「タイミングの事は、今は置いておこう。
そのトランプ王国の国王はサルドゥストの兄なんだろう?
何故、弟が収める土地をぶち壊そうとするんだ?」
私の質問に苦虫をかみつぶしたような顔をしながら手に持っていたグラスを一気に呷るサルドゥスト。
私はテーブルに置いてあるボトルを取り、彼のグラスにさりげなく氷と共に液体を注ぐ。
香りからしてなかなかのウィスキーだと悟る。
「それは……おそらく俺の事が気に食わないのだろう。
俺は兄よりも魔力量があるからな。
アリスを呼び出したことも、どこからか嗅ぎつけられてお前を迎えに行く余裕がなくなってしまった。
阻止されることは無かったが、小さい嫌がらせをされてしまい、それに手間取っていた」
私は別にサルドゥストが迎えに来ようが来まいが、あまり関係なかったとは思うがそれを声に出すことは控えた。
なぜなら、今度は私の考えを読んだのかグッと私の肩に置いた手に力を入れられ、先ほどよりも更に引き寄せられてしまったからだ。
「なんとなく……今アリスが俺にとってよくないことを考えたのではないかと思ったんだが。
まぁいい。続きをはなそうか」
「あぁ頼む」
「一旦、この世界で過ごしてもらって、その後アリスの父上に会いに共にあちらの世界に行こうと考えている。
しかし、トランプ王国がまた嫌がらせをしてきているから今どうなるか分からない。
すまない……」
肩を落として落ち込んだ様子を見せるサルドゥストに私は彼の太ももをパンっとたたき立ちあがる。
「よし事情は分かった。行こう」
「は? どこに?」
「は? 当たり前だろう。お前の兄に会いに行くぞ」




