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2 不思議な森へ



「ねぇねぇお姉さん。時間あるならお茶しない?」


その調子のいい声にすぐさま振り向き木刀を喉元に突きつける。


「名を名乗れ」


「……へ?」


「名を名乗れと言ったんだ」


「チーシャ……です」


「なるほど。チーシャ。ここはなんなんだ」


喉元に突き立てられた木刀に思わずと言った雰囲気で両手を上げるこの男。

髪はピンク色に紫色のダウンを着て目がチカチカするようなチャラい出立ちをしている。


…………そして頭には紫色のネコ耳。


「あの……僕怪しい……いやっ怪しいっすよね。

でもお姉さんを害するつもりはないっす!

もしお困りならご案内するっすよ!」


「ほぅ。どこに」


「どこにでも」


ニヤリと笑う男に私は渋々ながら木刀を下げる。


「怪しい事をすれば……」


「分かってるっす!! 姐さん!」


「おい今『ねえさん』の変換おかしくなかったか!?

私はまだ誰とも結婚してねぇぞ」


「分かりました! お嬢と呼ぶっす!」 


まぁそれならと一応納得した。


「それでお嬢は何を知りたいんっすか?」


私の周りをぴょんぴょんと跳ねながら楽しそうに言うチーシャ。

私はそれを目で追いながら答える。


「まずはここがどこか教えろ。

そしてここの詳しい状況と……。

私がどうすれば元の世界に戻れるのか……だ」


「なるほどなるほど。

それでは詳しい人のところへ連れてくっす!

着いてきてくださいっす。その道すがらお嬢の話も聞きたいっす」



私は頷き、チーシャに着いて暗い森の中を歩き出した。

風も吹かず動物の声も聞こえない。

なぜか聞こえるのはこの淡く光る道を踏み締める時の『シャン』という音だけだ。

だが静かすぎて怖いと言うこともない。

なぜなら私の横に立つチーシャがやかましいからだ。


「それでー俺の好きな女の子のタイプはー……」


「おい」


「なんっすか? お嬢」


「お前の話はもう分かった。

好きなものは女の子で好きな食べ物は甘いもので好きな飲み物はテキーラなのだろう?」


「さすがお嬢っす!

俺のことよく覚えてくれてるっすね!」


「なぁ……どのくらい歩くんだ?」


「まだ結構ありますねー」


「あっお嬢! お名前聞いてなかったっす!」


「有栖川だ。有栖川牡丹」


「アリスガワボタン……」


「言いにくいならもうお嬢でいい。年齢は27歳。

趣味は読書。友人はいない。

好きな食べ物はヒラメの刺身。酒は飲めない。以上だ。他に聞きたい事はあるか?」


私の言葉にピンク頭がさらりと揺れてわたしの事を覗き込む。

頭の上でぴくぴくと動くネコ耳に思わず手を伸ばそうとする。

するとチーシャはサッと一歩後ろに引いて頭のネコ耳を押さえる。


「ダメっす! お嬢! 耳は触らせられないっす!

あっもちろん尻尾もっす!」


先ほどまでゆらゆらと揺れていたピンクと紫の縞模様の尻尾がピンと立つ。

私は思わずその仕草がおかしくなりクスクスと笑う。


「あぁすまない。勝手に触ろうとして悪かった。

で? 私に聞きたいことは?」


「もういいっす……。

好きな男性のタイプでもと思ったっすけど……。

なんか代わりに触らせろとか言われそう……」


「あぁ。よくわかっているじゃないか」


私は声を出して笑った。

チーシャはそんな私を嬉しそうに見ながらぴょんぴょんと私の周りを飛び跳ねる。


「お嬢! 笑った顔可愛いっす! もっと笑うっす!」


その言葉にスッと私の表情が無意識に戻る。

頭の中に父親から言われた『お前は外では笑うな』と言われた言葉がよぎる。


「可愛かったのにぃー」


残念がるチーシャを置いてスタスタと歩き始める。


「さっき友達はいなかったと言ったが……そういえば1人だけいる」


「えっ!? 女の子っすか!? 紹介してほしいっす」


「残念。男だ」


「なーんだ」


男と聞けばすぐに興味をなくしたチーシャはまた1人で自己紹介という名の好き勝手に自分の事を話し始める。

その話をぼーっと聞きながら私は昔家の隣に住んでいた男の子の事を思い出す。


『いつか迎えに来るから』

と言っていたがいつまで経っても来ない。


もうそんな事も忘れてしまっていたくらい時間が経っている。

子供の約束と言えど私には初めての友達。

この先ももう出来ないだろう。

唯一の友達。

もう顔も覚えていない。

あの頃、毎日毎日男の子が迎えに来てくれるのを待っていた。

家の玄関で座り込んでずっと待っていたのを思い出し少し胸が苦しくなる。



「……ぅ……う……嬢……お嬢!!」


「びっくりするだろう」


「全然びっくりした様に見えないっすけど……。

そのまま行くと森の中に入っちゃいますよ?」


「あぁ。すまない。ところでこの森なんなんだ?」


「この森は『気まぐれの森』っす。

気まぐれで地形が変わるっす。

この光る道以外に足を踏み入れて森の中に入っちゃえば、森の気まぐれで元に戻れるかもしれないし、一生この森で迷うことになるかもしれないっすよ」


「ふーん。わかった。気をつけよう」


「もう慣れたっすけど……。

お嬢やっぱり……『きゃー怖いー』とかないんすね……」


肩を落として残念そうにいうチーシャの頭がガクリと落ちる。

私は耳に触れないように優しく頭を撫でてみた。


「期待していた反応じゃなくてすまないな。

けれどチーシャがいれば私は安全だ」


私の言葉にパッと顔をあげ尻尾がゆらゆらと嬉しそうに揺れる。


「嬉しいっす! お嬢!」


「あぁ頼んだよ」


チーシャとなんとなく上手く交流できているが、これはうちの組の若い者との交流と変わらないのか……。

少し落ち込んだのはチーシャには内緒だ。

そんな事をしていると道の先から騒ぎ声が聞こえてきた。


チーシャは「あぁ……」と項垂れる。


「どうした?」


「いやぁ。この先ちょっとした休憩所があるっす。

お嬢に休憩してもらおうと思ったんすけど……。

どうやら面倒くさいやつらがいます……。

でも道はこの一本道しかないんで……行くしかないっす……」


「私は大丈夫だ。行こう」


2人で足を進めると、騒ぎ声の内容が聞こえてきた。



「僕の方が優雅だ!」 「いや!僕の方が美しい!」




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