18 不思議な王宮へ(3)
「そうだな……。
アリスの隣の家に同い年くらいの男の子が住んでいたの覚えているか?」
「あぁ……。急に引越ししていなくなったが」
「あれば俺だ」
「は?」
私はもぐもぐとしていた口を止めてサルドゥストを見る。
首をこれでもかと傾げる私を見て笑いながら話を続ける。
「まぁ見た目が全然違うだろう?
当時は細くて小さかったしな」
確かにその男の子は私と同い年だと言っていたのにとても小さく、とても細かった。
私が守ってやらねばと当時は思っていた。
「たった一年だったな。8歳だったか。懐かしい」
当時を思い出し懐かしむサルドゥストを横目に私はクッキーをなんとか飲み込み、お茶を飲む。
「ん? 待てよ?
男の子は黒髪だったぞ?
それに名前も……日本の名前だったぞ?」
「…………アリス……お前もしかして名前覚えてないのか?」
「……たける……いや、かける……いや……」
「覚えてないな。サトルだ。
サトルと名乗っていた。
日本で赤髪は目立つだろう?
もちろん魔法で黒に変えていた」
じっとサルドゥストを見て思い出そうとする。
こちらを向いて微笑むサルドゥストにふと当時の男の子の顔がよぎる。
「あっ!! あぁ確かにサルドゥストだ。
笑った顔が昔のままだ。立派になって……」
「いや……そんな親戚のおばちゃんみたいな反応は求めていないぞ……」
「それでなんで私を呼んだ?」
「約束しただろう?
俺が引っ越すと言った時。
『必ず迎えに来る』と」
確かに約束した。
私の唯一の友達だった男の子。
当時はまだ私もそこまで強くなかった。
離れたくなくて泣きじゃくる私に、彼も泣きながら私と指切りをして約束してくれた。
『必ず迎えに行く』と……。
それにしても……だ。
「まぁ言いたいことは色々あるが、とりあえず約束を守ってくれたことには感謝する。
だが何から言えばいいのかもうわからん」
「そうだな。長くなるが最初から話そう。
まずはお前の母親は外国人ではない。こちらの人間だ」
「………………は?」
「お父上はご存知だぞ。
母上の戸籍やうんぬんの手続きをしたのはお父上だからな。
俺はそちらに行った時にお父上とお話したからな。
なんでも行方不明者の……」
「いやその辺の事情はどうでもいい。
母がこちらの人間?」
私はサルドゥストの言葉に唖然とした。
私の記憶にある母は綺麗な人だった。
私が5歳の頃に亡くなったが優しくて温かくて……ちょっと変な人だった。
「そうだ。嵐であちらに飛ばされてしまったんだ。
嵐で飛ばされたことが判明するまでかなり時間がかかった。
迎えに行った頃にはもうアリスが8歳になっていた。
そもそも嵐で飛ばされた人間は100年近くぶりだったからかなり国は混乱したぞ」
「確かに母はおかしなところがあった。
世間に疎いというか……常識外れというか……」
「まぁもともとこちらの人間だからな」
なんともない様子で言うサルドゥスト。
私は滅多にない呆気にとられると言うことを体験していた。
サルドゥストの話では母はサルドゥストとまた従兄弟の関係だったらしい。
母は公爵家の娘だということで当時はかなり大騒動になったそうだ。
母の魔力を辿っても綺麗に消えたようにいなくなったとしか思えない状況だったらしい。
何年も経ってサルドゥストが嵐について研究していると母が嵐で飛ばされたのではないかと判明したらしい。
母が居なくなって10年経っていたそうだ。
そこで膨大な魔力を持つサルドゥストが母の魔力を辿って飛んだ。
すると母はすでに亡くなっており、母の魔力だと思っていたものは私のものだったそうだ。
「ちょっと待て。私にも魔法が使えるのか?」
「いや使えない。
昔はまだ使おうと思えば使えただろうが、使わなさすぎると凝り固まって使えなくなってしまう。
だからアリスは、魔法は使えない。
けれどその名残はあるぞ。
体力や力なんかはあちらの世界の者に比べたらあるだろう?」
「…………確かに」
「それが魔力の名残りだ」
なるほどと頷きつつ思い出すと、私は同年代の女性より、いや男性よりも力も体力も異常にあった。
それについても隠していたので友人を作るという希望はどんどん遠ざかったのだ。
「まぁそれは仕方がない。
今更悩んでもどうにもならないことだしな。
それよりも、サルドゥストが8歳の時に既にその嵐というものの研究をしていたのか?」
「……あぁ。まぁその話は別になるからまた話す。
先に話を進めよう」
「そうだな。頼む」
「お前の母上……アリアの魔力をたどってそちらの世界に言った俺は驚愕した。
まさかあのアリアに伴侶がいた。そして子供が居たことに。
その子供がお前だ。
そして当時俺は今ほど魔力が強くかったから、すぐにこちらに戻ることができなかった。
だから、お前の父上が用意してくれた隣の洋館に住んでいたんだ。
捜索のため数人連れてそちらに渡っていたが、もちろん生活や常識が違うのでお前の家の若い衆たちが俺たちの生活のサポートをしてくれていた」
我が家は昔からある日本家屋で隣にあるのは立派な洋館だった。
小さな頃はその洋館を城だと思っていた。
母はプリンセスが出てくる童話が好きだったため、そこには王子が住んでいると信じ込まされていた。
そして、そこに現れた男の子を私は当時……。
そこまで思い出してハタとし隣の男を確認する。
サルドゥストは私の様子に気づかず話を続ける。
「まぁそれで、数か月で魔力は元に戻り、いつでもこちらに帰れるようにはなったんだが……。
何かと離れがたくなってしまってな。
結局一年そちらの世界に居たんだ。
そして帰ると決まった時にアリス……お前があまりにもかわいくて俺はお前の父上にお願いしたんだ。
そしたら快諾してくれたんだ」
「……何をだ?」
私は嫌な予感がする。
背中に汗がつぅーっと流れた。
母上もそうだったが私の父もなかなかの破天荒さを持ち合わせている。
『ちょっと出かけてくる』と気軽な様子で出かけて、敵対する組の組長と朝まで酒盛りをして仲良くなってかえってきたり……。
まぁ話せば切りがないほどに父は組長と言う立場の癖に破天荒で自由な人だ。
そんな人に私は初めてできた友達に浮かれに浮かれて、当時毎日のように彼の事を父に話していたのを思い出す。
そんな相手に父が言うのは……。
「いつかお前をもらい受けたいという話だ。
父上は『もしアリスが25を過ぎても恋人も友人もいなければいつでも持って行け』と笑っておられた。
だから迎えに行ったんだ」
「…………」
私はその返答に固まるしかなかった。




