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14 不思議な3:00pmへ(4)



『男は笑顔と仕草で落とすのよ』


姉さんの言葉をしっかりと脳内に思い出す。

私はすくりと立ち上がり、ホールへ戻る。

真っ赤な体に沿ったドレスだが足元はふわりと揺れるように広がる。


決していつもの大股にならないように。

赤いヒールの音が響かないように。

頭から足の先まで意識して彼らの元へ歩み寄る。

それまで視線は斜め下へ。

近くまで来てから顔を上げ、うっすらと微笑みを浮かべる。

変に腰を折らないように膝が床をつくギリギリまでしゃがみ、サイエンの前へ名刺を差し出しながら挨拶をする。


「今日はようこそいらっしゃいました。

アリスです。お隣失礼してもいいかしら?」


「…………はいっ! もちろんです」


全員の視線を一気に浴びながら私はサイエンの膝につくかつかないかギリギリのところに手を出しサイエンとチーシャの間に座る。


「皆様何を飲まれているのですか?

よろしければ同じものをいただいてもいいですか?」


媚びた言い方にならないように。

しかし甘えた風を感じさせるように少しだけサイエンに上目遣いで尋ねる。


「もっもっもちろんです」


私は音を立てずにアイスペールから氷をグラスに移し水を注ぐ。

グラスをおしぼりでさっと拭き手に持つ。


「それではいただきます。乾杯」


そう言ってサイエンの持つグラスに音を無駄に立てないようにグラスを傾ける。


「皆さんもよろしければ私と乾杯していただけますか?」


チーシャをはじめクロエとリーピーとも乾杯をする。


「皆さんどのようなご関係なんですか?

お仕事かしら?」


「そうっす! そうっす!

この3人は仕事一緒で俺は今日知り合ったんっす」


「まぁそうなんですね!

みなさんとてもおしゃれだから。

皆さんのお名前も伺っても?」


「チーシャっす」 「クリスです」 「リーピー」


「お名前も素敵!」


「こちらのスーツはどこで仕立てられているんですか?

素敵だわ。

赤がアクセントになっていてサイエン様にピッタリ。

帽子もよくお似合いです」


「これは……クリスが……」


「クリス様が?

可愛らしい方なのにセンスもいいなんて羨ましいわ」


全員が顔を真っ赤に染めてモジモジしはじめる。





「こんなもんだ。どうだ?」


「「「「……………………」」」」


「お嬢……もうちょい楽しませて欲しかったっす……。

いきなり現実っす…………」


「現実を見ろ」


「「「…………」」」


これ以上やってもただのクラブごっこ遊びになると思い、出だしだけやってスッパリとやめる。

先ほどまで両足の膝を揃えて座っていたが足を組んで腕を組む。


「サービス業の基本はお客様に特別な時間を与えて夢の世界へ誘うことだ。

無理なく相手を褒め、非日常を味わってもらう。

これこそが醍醐味だ。

自分も楽しめなければ続けられん。

客は大金を出すんだ。

それ相応のものを返す。当たり前だ。」


「…………はい……」


「非日常を味わいに来ているのに、ボトルを迫られ愚痴を聞かされる意味はあるか?」


「…………無いです……」


元々白い顔をしているサイエンが更に顔色を白くする。

私はクリスに顔を向ける。


「元に戻せ」


「はいっ! すぐ!」


「えぇぇぇえ。

せっかく似合ってるのに、戻すんっすか!?」


「スースーする」


クリスが両手をパンっと打ち鳴らすと先ほどまでの水色のロングスカートに白のブラウスと言う出立ちに変わる。


「もう……ホストできそうにないです……」


私が元の姿に戻った時、ぽそりとサイエンが言う。


「……もう店を畳もうかと……」


「「……………………」」


サイエンとクリスそしてリーピーが項垂れる。


「一つ提案があるのだが」


「なんですか!?」


サイエンがガバリと顔を上げ期待の眼差しでこちらを見る。


「お前紅茶は淹れられるか?」


「あっはい!

ゼミキール様……あっあぁ! 私たちの親のような方なのですが……」


「あぁゼミキールさんには会っている」


「はっ! そうなんですね!

ゼミキール様に教えて頂いて得意なのです。

ゼミキール様は紅茶の輸入もお仕事とされているので」


私はふむと頷く。


「誰かお菓子は作れる、もしくは出せるか?」


静かに手を上げたのはリーピーだ。

お茶、お菓子、そして着替え……完璧だ。


「今日からこの店はコンカフェだ」


「「「「コンカフェ?」」」」


「そうだ。コンセプトカフェだ。内装はそうだな……」


私はサイエンに耳打ちをする。


「…………で…………な感じで…………だ」


サイエンはなるほどと頷き、すぐに立ち上がり踵を鳴らす。

すると先ほどまで薄暗い間接照明しかなかった店内、が緑を中心とした森の中の様な明るい雰囲気に変わる。

テーブルも黒い重い大理石だったのが木目調の可愛らしいものに。

ソファも革張りの重いものからパステルカラーの可愛い猫足に変わる。


「ふむ。こんなものだろう」


「あの…………それで……コンセプトカフェということはコンセプトは何にすれば……」


「午後3時、森でのお茶会だ。

本来、コンカフェとは店員がコンセプトに合わせたコスプレで接客する店の事を指すはずなんだが。

お前たちには魔法がある。

それを存分に活かせ」


「「「!!!」」」


「サイエンとリーピーは魔法でお茶やお菓子を出せるから接客もできるだろう?

しかし今までのようにずっと席についていなくていい。

普通のカフェのように運ぶだけでいい。そこで役立つのがクリスだ」


自分の事を指差し「俺?」とポカーンとしている。


「この世界の女性の服装はさほど知らんが。

私の世界とあまり変わらないのではないか?

チーシャその辺の説明を」


「お嬢の世界の服は知らないっすけど、こんな感じっすね。

流行りはあるっすけど」


そう言ってどこに入っていたのか女性用ファッション雑誌を広げるチーシャ。

私は数冊それをパラパラとめくり、ふむと頷く。


「私の世界とさほど変わらないな」


「よかったっす」


「まぁあのバカうさぎにこの格好にされた時になんとなく想像はついていた」


「あのぉ……それで俺は何を……」


おずおずとクリスが声をだす。


「お前はセンスがいい。

この内装に合わせた服装が想像できるか?

テーマは森の中で午後3時のお茶会だ。

全員をそれに合わせて変えてみろ」


しばらくそれぞれを見て思案するクリスを静かに見守る。

クリスがよしっと言った風に両手をバフっと叩いた。




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