12 不思議な3:00pmへ(2)
「……あっあのー……ちょい聞きたいっす……」
ホストクラブ3:00pmの店内は薄暗くとても静かだった。
チーシャが恐る恐る声をかけた先にはボッスク席のテーブルに突っ伏しているシルクハットの男。
その横にはソファに体育座りをしたままボーッとしている茶色の毛艶が無いパサパサしたウサ耳男。
そしてソファに横になりグースカと居眠りをしている男が3人いた。
チーシャの声に1番最初に反応したのは茶色のウサ耳男。
「サイエン! サイエン!
落ち込んでいる場合じゃないよ! お客さんだ!」
シルクハットの男をゆさゆさと揺すりながら、私たちと男を交互に見ながらシルクハットの男を揺らす。
怠慢な動きで身体を起こしこちらを見るシルクハットの男。
そして目が合う。
「「…………………………」」
「せめていらっしゃいませとかないのか?」
しばらくお互い沈黙したのち私が口を開く。
シルクハットの男が立ち上がり踵をコツンと鳴らす。
音楽がなり始めるほんのりとホストクラブ独特の間接照明が照らす空間に変わる。
「いらっしゃいませ。姫」
私は急な雰囲気の変わりように彼が差し出す手を取らず自分の顔の前で手を振りつつ口を開く。
「いやもういい。私は客はやらない主義だ」
私の言葉にシルクハットの男はがっくりと肩を落とすと同時に音楽が止み照明も落ちる。
トボトボと席に戻る男を見ながら私はチーシャの服の袖をくいくいと引く。
「なぁなんなんだ? ここ?」
「…………ホストクラブっす……」
「えっ? 違うだろ?」
「…………潰れかけの……っす……」
私があぁなるほどと納得していると、チーシャの声が聞こえたのかシルクハットの男が声を出しながら泣き始める。
茶色のウサ耳男もうるうるとし始めたようだった。
「おい……話くらいは聞いてやろう」
私が彼らにそう声をかけ近寄ろうとすると、チーシャが私のスカートの裾を引っ張って言う。
「お嬢……やめた方がいいっす……」
「どうせここで時間潰さないといけないなら一緒だろ」
「あぁ……まぁそうっすね……分かったっす」
私のスカートの裾を持ったままチーシャはビクビクしながらついてくる。
彼らがいるボックス席の空いている場所に2人で腰掛ける。
「お嬢……まぁ一応水っす」
「ありがとう」
そう言ってチーシャがどこから取り出したか分からないが、グラスに入った水を私に差し出してくれる。
クンクンと匂いを嗅いでいるとチーシャの眉間に皺がよる。
「何も入れるわけないっすよ。
ちゃんと置いてあったものを出したっす」
「いやいやすまん。癖みたいなもんだ。
こういうところで出されたらやってしまうんだ。
気を悪くさせてすまんな」
「……あぁそれなら分かったっす。俺こそすんません」
私はチーシャのくれた水を一口コクリと飲んで頷いた。
それを見てチーシャは嬉しそうに尻尾で私の腕を撫でる。
「いい加減そろそろ話してくれないか?
泣かれても私は事情も知らないんだ。
慰めるつもりはないぞ」
私の言葉にピタリと泣き止む2人。
「「慰めてくださいよぉぉおお」」
私に縋りつこうとしたのをチーシャがパッと腕を出して止める。
「お嬢に触らないでくださいっす」
「あぁありがとうチーシャ。大丈夫だ」
そう言って私は立ち上がり2人を指さして言う。
「早く話せ。慰めるかどうかは私が聞いてから判断することだ」
「「はっ……はい」」
返事をして口を開いたのはシルクハットの男だった。
「姫。私はサイエンです。
このホストクラブの代表です。
こっちのうさぎ耳はクレス。
寝ているネズミ耳はリーピーです」
「私は有栖川牡丹だ。こっちはチーシャ。
呼び名はなんでもいい」
「アリス姫……とりあえずウチの事情を聞いてください……」
聞けばまぁなんとも悲惨だった。
最初は上手くいっていた営業だったが、いつの日か姫達の売掛が増えそしてそれを払わず飛んでしまう。
そしてその売掛をかけられたホストもいつの間にか飛んでしまう。
気づいた時には遅かったそうだ。
そのホスト達は別のホストクラブからここにやって来ていて、この店を潰すつもりで姫にそうやって遊ばせていたそうだ。
残ったのはこの店の代表のシルクハットの男サイエンと幹部の茶色のうさぎ耳クレス。
そして新人ホストでお酒の飲めないリーピーだけだそうだ。
黒服や内勤はサイエンの魔法でネズミを働かせていたが、報酬のチーズさえ買えなくなったことでこの近くに言葉に通りネズミ一匹いなくなったらしい。
「なるほどな。まぁ同情はできんな」
「えぇーーーそんなぁーーー」
机に突っ伏すサイエンをクレスが背中を撫でながら宥める。
「面接に来るホストをしっかり調査しなかったお前が悪いだろう。
お前は代表なのだからそれに伴う責任はある。
そしてその責任を果たしていないお前が悪い。
そしてそのホスト達の姫は良いとして、お前達の姫はどこに行った?
代表と幹部なら太客の5人や10人ついていただろう?」
「「……………………」」
2人は黙り込む。
私は顎に手を置いてふむと考え口を開いた。
「指名変更されたな?」
私の言葉に2人はギクリと肩を揺らす。
「どうせ最初のウチは同情から来てくれていたんだろうが、それに味を締めて無茶な営業かけたんだろう?
そして接客よりも愚痴大会が開かれて姫が離れた……そんなところか?」
「見てきたように言わないでくださいー」
机に突っ伏したまま涙声で言うサイエン。
チーシャもさすがに可哀想と思ったのか「大丈夫っすか?」と声をかける。
「なぁチーシャ?
さっき公爵邸で金をもらっただろう?
あの金で、ここで遊ぶとなればどのくらい遊べる?」
「えっ? お嬢……ここで遊ぶんっすか?」
「いや? 遊ぶつもりはないが、一応こいつらの接客を見てから判断しようかと思ってな」
「まぁ……全然余裕で遊べる金額っすけど……」
2人の目が私たちに期待の眼差しを向ける。
「まぁ私は酒が飲めないからチャージぐらいしか使わんがな」




