11 不思議な3:00pmへ
「まぁ許容範囲無いでしょう」
表情も変えずに懐中時計を見ながらそうのたまうビアールに私は木刀片手に走り寄る。
そのまま木刀を構えて切りかかった。
あっさりと上半身を逸らして避けるビアールに苛つく。
「おい避けるな」
「避けなければ怪我をするでしょう?
ところで次に向かっていただくのは『3:00pm』です。
そちらで少々お待ちいただきましたら迎えが参ります」
「どこだよ! そこ!」
「あぁもうこんな時間だ。急がなければ」
そう言うとまたもやすぐにビアールは消えていた。
「チッ!!」
盛大に舌打ちをした私を慰めるようにチーシャが近寄る。
「お嬢。とりあえず『3:00pm』に案内するっすから! 落ち着いてくださいっす!」
私は苛立ちを落ち着けるため木刀をぐさっと地面に刺しつつ言う。
「絶対あのうさぎ……締めてやる……」
「お嬢! お嬢! 落ち着いて!
とりあえず次に行くっす!!」
「ふぅーーーー……そうだな」
私とチーシャはまた扉の前に立つ。
そして私は案の定というかデフォルト的に扉を蹴破った。
「…………お嬢……普通に開けるって言ってたっす……」
「これはあれだ。ストレス発散だ」
「だろうと思ったっす……」
次の道は暗がりの中、電灯がところどころ立っている普通の砂利道だった。
「おい……予想以上に普通だ。また何かあるのか?」
「見た目は確かに普通っすね。
でもこの道はこの砂利道から外れると電灯が猛ダッシュで追いかけてくる『マラソンの電灯通り』っす。
鬼コーチばりに立ち止まれば、電灯に尻を蹴られて電灯が満足するまで走らされるっす」
「…………そうか……気をつけよう」
「頼むっす……俺そんなスポ根したく無いっす……」
2人で夜の電灯の中を歩く。
時々、電灯が興味深気に生きているかのように首? を振ったり私の顔を覗き込もうとしてきたりする。
それを無視して道を歩く。
「なぁ、すっかり流してしまっていたが3:00pmってなんだ?
午後3時という意味だよな?」
「そうっすね。午後3時っすね。
意味は全く関係ないっす。
でもあの店にお嬢を連れてくのは……」
「店なのか?」
「あーまぁ……店っすね……」
歯切れの悪い物言いをするチーシャの目を見るように覗き込む。
するとチーシャは焦ったように口を開く。
「ダメっす! 今そんなことしたら…………」
『ポカリ』
「「ちゅっ」」
「「……………………」」
「少し待っていろ。チーシャ」
私は木刀を構えてすぐ後ろの電灯に向かって走ろうとした。
するとチーシャが私の前に立ち両手を広げて立ち塞がる。
「ダメっす! ダメっす! あっ……」
『ポカリ』
また何かに背中を押されて思わず前によろめく。
今度は、私はチーシャの胸の中に飛び込んだ形になる。
私は一気に殺気立つ。
それに気づいたのか電灯達がプルプルと震える。
「ダメっす! ダメっす!
お嬢落ち着くっす!
口に当たって無いっす!!」
チーシャが私を抱きしめるような形で引き止める。
「離せ……」
「無理っす! 俺の説明不足っす!
すんませんっす!」
チーシャの必死の様子に私は顔を上げてチーシャを見ると顔を赤く青く器用に染めながら
「一旦離れるっす……」
と言って私を腕からそっと離す。
「俺の説明不足っす……」
「なんだ? 話せ」
「……こいつらスポ根気取っている割には男女でこの道を通ると揶揄うんっすよ……。
だからああやってイタズラしたりするんす……」
「中学生男子か……」
「なんかよくわかんないっすけど、多分そんな感じっす……」
「分かった。理由は知らなかったとしても安易にお前に近づいた私も悪かった。
それで……っくっくっくっくちびるっ……」
「大丈夫っす! 唇じゃないっす!
俺はお嬢のおでこに! お嬢は俺の鼻先っす! 未遂っす!!」
「そうか…………」
「もしかしてお嬢……ファーストキ…………イダっ!」
チーシャの脛を思いっきり蹴っておいた。
あまりの痛さに蹲って悶絶するチーシャ。
そして私達の話を聞いて先ほどの白っぽい灯からオレンジや赤に点滅する電灯にイラっして私は木刀を地面に叩きつける。
「すぐに元の色に戻れ……」
私の言葉に元の白の電灯に代わる。
先ほどとは違い微動だにせずしっかりと立ち上がる電灯達に一言告げる。
「調子のんなよ?」
電灯がコクコクと振られたので私もそこまでにしようと落ち着きを取り戻す。
「チーシャ。早く立て。行くぞ」
「…………はいっす……」
2人とも無言で先を急ぐと道の先にやけに明るいカラフルな電気がついた場所が見え始めた。
「まさか?」
「そうっす。ここがホストクラブ3:00pmっす」
ボロボロの看板にところどころライトの切れた看板が見える。
「ホストクラブ……」
「そうっす。ホストっす。
ここで待つらしいっすけど……お嬢……どうするっすか?」
「まぁいい。入ろう」
そう言って私は今度こそ扉を手できちんと開けた。
扉はギギギと音を立てて開く。
表の看板には『open』の札がかかっていたが誰も出てこない。
「なぁ。私が知っているホストは入り口ですぐ話しかけられるが?」
「お嬢ホストに行ったことあるんすか?」
チーシャが私の言葉に目を見張りながら驚く。
まぁそりゃそうかと思い答える。
「あぁ何度かな。若い衆で兼業しているやつのサクラとして何度か行った。
それに私に姉妹のように可愛がってくれた姉さんが銀座のホステスだったからな」
「銀座が何か分からないっすが、ホステスさんということは高級クラブっすか?」
「あぁそうだ。この世界にもあるのか?」
「あるっす! 俺もいつかいってみたいっす!」
「機会があれば姉さんの店に連れてってやろう」
「マジっすか!? 楽しみっす!!」
そんな会話をしていても誰1人やってこない。
私たちは顔を見合わせて奥に勝手に入っていくことにした。




