茶碗蒸しの隠し味
今日は、いつもより肌寒い。
それほど着込んでいないせいか、アラームよりも早く起きてしまった。
「おふぅ……」
私は、欠伸をしながらアラームを消す。
こんな日は、温かいものが食べたい。
……今日は休みだし、手の込んだものを作ろう。
▫▫▫
「材料は、とりあえずあるね」
用意しながら、私は呟く。
作るものは、『茶碗蒸し』。
ホカホカの茶碗蒸しは、私の好物だ。
「よし、作ろう」
私は、料理をし始めた。
▫▫▫
最初は、出汁を作る。
昆布と鰹節を用意している。
(既存のモノも良いけれど、本格的なのが好きだ)
手元にあるメモに目を通しながら、作業を進めていく。
これは、今は亡きお婆ちゃんから教わったレシピだ。
料理屋をやっていたから、味は本当に美味しい。
「……よし」
時間をかけて、ようやく出汁が出来た。
「それと」
冷蔵庫から、小さな壺を取り出す。
これは実家から毎年送られてくる、自家製味噌だ。
その味噌をお湯で溶かすと、出汁に入れる。
これが、我が家の『隠し味』。
しょっぱくなりそうだが、この味噌は甘味が強いからそれほど気にはしない。
むしろこれで味が決まる。
それから醤油を入れるのだが、これは一般的な量よりかなり少なめ。
味噌があるからね。
(ちなみに、塩は入れないとのことだ)
▫▫▫
出汁側が出来たところで、具材をカップに入れる。
今回は、三つ葉と枝豆だけのシンプルな具材。
そこに、出汁と卵を入れて蒸す。
蒸し器は、お母さんから譲り受けたもの。
結構立派なものなんだけど、もう大きなのは使わなくなったっていうから貰った。
蒸し器から、いいにおいがしてくる。
「……美味しいのが、出来るかも」
▫▫▫
そんな、こんなで……
茶碗蒸しの出来上がり。
出来映えは、抜群。
昨日の余り物と一緒に、朝ごはん。
「いただきます」
手を合わせ、朝ごはんを頂く。
出汁と味噌の風味がする茶碗蒸し。
これはこれで、美味しい。
これは、思い出の『隠し味』だ。
いつか、この味を引き継げればいいな……
そう思いながら、茶碗蒸しを頬張った。