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ボクに溺れて?  作者: 天塚
9/10

おやすみ

 やっぱり風呂はいいものだ。そうしみじみ感じてから寝間着を着て部屋に入る。もう彼女は寝たのか電気は消えており、体が温まったのも加わって眠気がしてきた。暗くて何も見えないので電気をつける。倉田さんは私のベットで静かに眠っている様子だ。寝ていることを確かめるため彼女に近づく。話しているときは気づかなかったが、繊細できれいな肌をしている。たぶん私が接してきた中で一番かわいい顔だったということも再認識させられた。そんな人が自分のベットで寝ているのである。一瞬邪な考えが頭の中をよぎったが、私の理性はそこまで軟弱ではない。そんな目で彼女を見るのはやめろ。自分の頭にも上がっていた心拍へもそう言い聞かせて振り返る。ここで日記をつけていなかったことを思い出し、彼女を起こさないように天井の照明を落とし、デスクライトのみをつけた。そしてペンのキャップを外し、日記をつけ始める。

『今日はその場の成り行きで倉田さんを家に泊めてしまっている。今後ろで彼女が寝ているところだが、もしこれを見たらどう思うだろう。すやすや眠っている彼女は美しく、一瞬だけ邪な考えが頭の中をうろついた。一個下をそんな気持ちで見るなんてどうかしてる。それ以外にも、過去の日記を見られたらたまったものではない。何とか早く起きて見つからないようにしなければ。』筆はいつもよりかは速く進んでいる。『綾音には本当に申し訳なく思う。だが、どうにか責めないでほしいと思うのは甘えだろうか?彼女ならきっと許してくれる。そう思っている堕落した自分が怖い。ずっとそうだった。堕落した、クズな自分を誰よりも恐れているのに一切の行動を起こさない。いや、起こせないのであろう。それなりに客観視できている方だと思ってはいるが、時々自分を振り返ると本当にろくでもない男だと思う。このままではだれからも見放されるのは確定事項なのかもしれない。』駄目だ。たまにやってしまう懺悔のようなものは書いている途中こそいいものの、いざ後になって見てみると相当な駄文だし見ていて辛くなってくる。直視できないのも今の自分を形作っているのかもしれない。

 しばらく考え事をしていたら目が覚めてしまった。先に例の入眠改善薬を飲んでから、また古い日記を開けた。

 どこから読もう。確かこの前は夢か何かを見ていた時の記述だったはずだ。ということは、彼女に振られた時のはまだ見ていない。じゃあ今日はそれを見てから寝ようとするか。

 『今日であの日からちょうど一週間だ。やっと返事を聞けたのでその内容をできるだけ詳細に記しておく。』例に漏れず小説のように描いたらしい。見てるだけで恥ずかしいからやめてほしかったものだ。

 『最近私の目の周りにクマができている、部活は順調だなどと世間話をしてからまず言われたのは結論からで、私は振られたことになる。』あれ、どうやら小説のように書くのはやめたようだ。それなら多少見やすくて助かる。それと、目の周りのクマは例の悪夢のせいだろう。それにしても、結論からストレートに書かれているのは少し驚いた。

 『それよりも大きなことがいくつか彼女の口から語られた。先に私を振った理由を書くが、それは主に二つで部活もとっくに引退した今、次第に疎遠になるので付き合ってるけど離れるという微妙な雰囲気になりたくない。もう一つは先輩の受験に迷惑をかけたくない、ということだ。その理由が私個人、例えば性格に由来するところではなかったのは非常に意外だった。そのあといくつか話してくれたことが、まず彼女が一年生の時、私に恋心を抱いていたとのことだ。なぜ今冷めてしまっているのかまで聞けばよかったと今になっては思う。曰く漠然と「格好いいから」とのことだ。具体的にどの部分かまではわすれたが、ともかくそういうことだったらしい。つまり、少なくとも彼女は私に対して悪い感情は抱いてなさそうだ。』

 ――本当に意外である。倉田さんは私のことが好きだった……?それなら確かに今こうしてるのにもある程度合点がいくが、それだけにしては長く続いているものだし、ではその時なぜ振ったのかという疑問も湧き上がってくる。とりあえずページを進めた。

『そしてもう一つがこういう風に告白されたのが初めてだということ。これはそこまで私にとって関係あることではないと思う。しかし、彼女にとってこれから私がある程度の基準になると考えるとなんだか申し訳ない。こんなクズで申し訳ない。今日の夜、信頼のおける友人とこれを大まかに話したら、「俺の知ってる恋愛小説じゃない」とのこと。そりゃここまでこっちのことが好きそうならうまくいくだろう、とのことだった。ただ、受験への憂いも断ち切れたからこれはこれでよい結果なのかもしれない。明日からまた勉強に励んでいこう。』

 ここまで読んだ時点でさっき飲んだ薬が効いてきてもう眠りに落ちそうだった。ライトを消して床に置いてあるクッションを枕にして寝始めたのであった。

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