お泊りデート?
すでに時刻は零時を過ぎ、帰れという時機も見当たらずにだらだらと雑談を続けていた。
「あっそうだ、先輩。もう十二時過ぎてるんですしこのまま泊まっちゃってもいいですか?」
突飛な言動に思わず麦茶を吹きそうになりむせてしまった。
「ちょっと、流石に女の子を泊めるわけにはいかないな……見ての通りこの部屋狭いし、逆に聞くけど君はここに泊まって嫌じゃないの?家もそこまで遠くないんだし俺が送って行くよ。」
「いやいや、全然嫌じゃないですよ!別に泊めてくれるなら床でだって寝ますし。一回先輩の家に来てみたかったんですよ。」
最近ものすごく積極的な彼女がいまさら帰るだなんて言うはずもなかった。正直底まで泊まり怠惰なんて思いもしなかったが、ここにきて実は最初から彼女はこれを狙ってきてるのではないかと心当てし始めた。
「あ、でもお風呂は借りてもいいですか?」
駄目だ。とっくに彼女は泊まるつもりでいる。じゃぁせめてある程度満足させて帰らせねばなるまい。
「それぐらいならいいよ。一応風呂は別だしゆっくり入って。あと着替えはどうする?まさかそれのまま寝るわけにもいかないだろうし。」
腹をくくったからか少し自信が沸いたというか行動に迷いがなくなった気もする。一方で彼女は服の問題に直面し少し考えている様子だ。私はその様子を何か言うわけでもなくじっと見ていた。
「じゃあ先輩のジャージ借りますね。確か棚の中に入っていた気がします。別にもう大学生なんですから使いませんよね?」
しばらく考えたのちに彼女は言った。勝手にクローゼット覗かれていたのかと少し落胆したが、いまさら後には引けない。
「おっけー。それだったらクローゼットの中の棚に入っているから適当に着てって。今からお風呂沸かすからしばらく待っててもらってもいいかな?」
「了解でーす。」
お風呂を沸かすスイッチを入れ、そのまま寝る用意をするためにちゃぶ台を畳んでから端に寄せ、寝る前の薬を飲んで歯を磨き、ベットの用意をしておいた。彼女はそんな私に目もくれずにやにやしながらスマホをいじっている。やってもらうのもなんか申し訳ないから何も言わないでおいた。
お風呂が沸いた合図の音楽が鳴る。
「先入ってていいよ。」
「先輩も一緒に入ります?」
流石にこれ以上はまずい。譲れない一線はあるので猛烈に拒絶しようとしたが、彼女は私の『狭いから無理』という答えにあっさり折れた。
「もう、冗談ですって。じゃあ入ってきますね~。」
そう言って洗面所に消えていった。寝る前の準備もさっき風呂を待っている間にすべて終わらせたので、さっきからつけていた機内モードを解除してみると、鬼のように通話履歴が来ていた。もちろん綾音からのものである。よくある小説とは違って独り言は胸の中で完結させる主義だから声にこそ出さなかったが、頭の中にはたくさんの思考が行き来していた。謝らねばならないのは確実だし、なんて弁明しようかと迷う。そもそも倉田さんを家に上げなければ済む話だったし、まだ切っていないまま部屋に入るのも悪かった。反省まみれの頭の中を突き刺してきたのは、いつの間にか風呂から上がっていた彼女の声だった。
「お風呂あがりましたよー!先輩も早く入ってくださいね。」
相変わらず元気な声で呼んできた。彼女が来ている私のジャージは二回りくらいサイズが大きく、袖は長すぎて手がほとんど隠れている。丈も長すぎてかなりダボっとした印象だ。
「じゃあ俺も入ってくる。君はベットで寝て。俺は床で寝ても大丈夫な人種だから。」
やっぱり自分だけベットで寝て後輩を床で寝かせるのはなんだか性に合わない。彼女は何か言ってる途中だったが、私は風呂のドアをぴしゃりと占めて湯船に入った。
投稿する順番を間違えてしまいました。申し訳ありません。