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ボクに溺れて?  作者: 天塚
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おはよう

「せんぱーい。もうとっくに八時過ぎてますよー。起きてくださーい。」

 倉田さんの声で目が覚めた。昨日は床で寝たので腰が痛い。ふわぁとあくびをしながら体を伸ばし、眼鏡をかけてから起き上がる。

「おはようございます。朝ごはんできてますよ。冷めないうちに早く食べちゃってくださいね。」

 キッチンから私のエプロンを着た彼女が出てきた。ちゃぶ台には米と味噌汁、卵焼きに納豆という質素な朝食が湯気を立てて並んでいる。意外にエプロン姿も似合っている。

「ふぁぁ……おはよう。悪いね。朝ごはんまで作らせてしまって。」

「いやいや全然。むしろ勝手に冷蔵漁ってすみません……。まぁでもできたことですし食べちゃいましょう!」

 そういって彼女は私のそばに座って朝食を食べ始めた。私は普段朝食を食べないからこれを言える立場ではないが、彼女が用意したものは『こういうのでいいんだよ』と言いたくなる質素で素朴な味だ。別に対して目新しくもない。だが、それでいい。そんな感じだった。黙々と食べていると、私の文机の上にかなりの数のノートが散乱しているのが目に入った。まさか。私は直ちに問いただした。

「なぁ、俺の机の上にノートが散らばっているんだけど……見た?」

 彼女はさも当たり前のように言った。

「ん?あぁ、あの日記ですよね。全部読ませていただきまし。今日は早めに目が覚めたからご飯作ってる間にです。」

 私は何も言えなかった。逆に何が言えよう。叱ればよいのか?そんなことはできない。私はただうつむいて考えこんだ。その沈黙を破ったのは彼女だった。

「あー……。すみません。勝手に見ちゃって。本当にごめんなさい。見られたくないものも沢山あったでしょうに。」

 気まずそうに言われた。こうも言われたら雰囲気は最悪だ。こっちも取り繕うように苦笑して何かしら言葉をかけようとしたが、彼女は続けた。

「あ、でも見ていて嬉しかったんですよ!こんなに守屋先輩がボクのことを考えてくれていたなんて知りませんでしたし。もうちょっと感情を前に出してきてもいいんですよ?先輩って結構奥手なことあるんですから。」

 何か褒められたような気がして少し照れくさくもあるが、それよりも個人的な情報を見られたことに対しての苛立ちを感じる。流石に怒りたくなった。

「あのなぁ……昨日も机のものには触れるなって言っただろ?悪いけど流石に看過できないな。」

 怒りたくはなったが怒り方を忘れた。だから怒るにしてはずいぶんと迷いのある言い方だったと思う。

「はい……すみません。」

 彼女も気まずそうに頭を下げるばかりだ。非があるのは彼女であるということはわかっているのに、強く当たれない自分は奥手でも何でもないヘタレなのだろう。

「いや……わかってくれたらそれでいい。どうせ見られたんだ。聞きたいことがあるなら何でも聞いていいよ。」

 これが男友達だったらとっくに家から追い出していただろう。しかし彼女との距離感は私にそうさせなかった。むしろなんで許したのか気になる。だが重苦しい空気感に逆らう必要があったのもまた事実だ。それにしても今考えられる中で最悪の話題を選んだものだ。

「そうですねぇ……。先輩の日記、たまにあるポエムみたいなところも、ただの事実の記述も見やすくてとっても面白かったですよ!綾音さんの記述も見ていて楽しかったし、まるで恋愛小説みたいだなって。ボクのところも結構なページ割かれていましたし、振られた後でもいろいろ書いていたじゃないですか。だからこそほかのところも見たくなるし、先輩のことをもっともっと知りたいって思っちゃうんですよ。その点は本当にすみません。悪いと思っています。」

 一方的に押し付けられた感想ほど反応に困るものはない。しかし彼女も反省はしているようだ。その後も質疑応答のような形で色々と聞かれては答えた。もちろん答えたくなかった部分は回避していったが、自分を探られてる感覚は少しこそばゆい。自分のことを知ってほしい、という欲望こそあれど彼女には不信感を覚えるし、あくまで知ってほしいのは私の知っている範囲の自分である。自己分析によく使われる『ジョハリの窓』で言うところの『秘密の窓』の部分だ。普段の振る舞いでは意図的に隠している私の深層的な部分。そこを受け入れてくれる人がいい。それが私の恋愛観だが、彼女を見るとなんだか信頼できない。信頼できないからこそ深くまで喋りたくない。のらりくらりと大学も綾音のことも少しずつ話していった。曖昧な答えを繰り返していくうちに少しずつ彼女の声に張りというか元気が消えている感じがする。もちろん喋ってくれない私に対する不満だろうが、知られたくないことの方が重要だ。

「じゃあそろそろ帰りますね。聞きたいことは大体聞かせてもらいましたし。でも、またいろいろ話してもらいねますからね!」

 なんだか不満げな彼女を送り出したのは11時になってからのことである。やっと帰ってもらった。そう思って大きなため息をつき、ベットに倒れこんだ。綾音からまだメッセージが届いているし、色々大変なことをしでかしてしまった。これからはこんな軽率な行動を慎んで断るときはきっぱりと断ろう。そう思って昼ご飯を作り始めた。

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