表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/206

大怪獣は酔い、美女たちは遊ぶ

「なんか、外が騒がしいと思って、目が覚めて。そしたら鉄子が血相変えて飛び込んできて」

 おかっぱ頭の少女は、まるで悪い夢を思い出すかのように話した。

「いきなり悲鳴を上げて、テントを引きちぎって」

 暴れた。というわけである。

「ジャイアント汎田ぱんだ先生と酔虎伝兵衛すいこでんべえ先生は、遅くまで飲んでいたみたいです」

 デブでブスな(本人談)、金髪マスクの女の子が後を引き継いだ。

「あの人たちにとっちゃ、二時三時なんて、まだ宵の口ですから」

「それが、鉄子さんが聞いたっていう、天狗の高笑いの正体だね」

 鉄子軍団の子たちから聞いた話を元に綜合すると、さっきのようになる。少々僕の想像が混ざっているが、大体あの通りだろう。

「狐火っていうのは」

「鉄子の悲鳴を聞きつけた酔虎先生が、松明を持って見にいったそうです」

 あの先生、24時間千鳥足だからな。

「山男ってのは」

「ジャイアント先生ですね」

 だろうね。

 トイレのゴーストと見間違えたということは、おかっぱ頭の彼女には言わないでおこう。

 被害が大きくなった原因は、ジャイアント先生がしこたま酒を飲んでいたこと。

 何かを勘違いした汎田先生は、一撃で酔虎先生をのしてしまい、その後は怪獣映画のようになった。だからしょんぼりしていたのか。

「アマゾネス先生も、汎田先生を抑えるのに精一杯で。あ、アマゾネス先生っていうのは、天園音須代あまぞのねすよ先生のことですけど」

 うん、わかる。ウチのマタドール先生も、本名は又徹またとおるというのだよ。

 にしても、大怪獣パンダ対アマゾネスか。

 そしてその間に、もう一匹の怪獣がキャンプサイトを破壊し尽くしたと。

 錯乱した鉄子を止めるのに、戦士科と武闘家科の生徒総動員で、朝までかかったということであった。

 鉄子が聞いたという、山男がクラスメイトを食べる音は、彼女が破壊したテントのポールが折れる音である。

 だが、大立ち回りを演じた彼女のせいで、他に何本もの骨が折れたようだ。

 お陰でキャンプサイトはボロボロ。台風が通過した後のような惨状となり、比較的無傷な生徒たちで復旧にかかったが、それは先程まで続いたという。

 ご苦労なことである。今日の野営は中止となったが、明日のネズミ君たちは普通に行くことができる。

「じゃあ、あたしたちも保健室に行きますから、鉄子をよろしくお願いします」

「う、うん。色々とありがとう。迷惑かけたね」

 トボトボと、その場を後にする鉄子軍団の女の子たち。騒ついていたロビーも、正常に戻ってきた。

 さてと。どうするかだな。

 鉄子は相変わらず、大嫌いなお風呂に無理矢理入れられた仔犬のように、放心状態で酒のにおいをプンプンさせながら丸くなっていた。

「体は無傷のようですね。精神的に落ち着けば大丈夫かと。保健室の先生であれば、そういう魔法も使えるみたいですよ」

 僧侶の寛木くつろぎなごみさんが診断してくれた。

「そうなんだ。君にも悪かったね。今日の予定だったのに」

「お構いなさらないでください」

 と、寛木さんは柔らかに微笑んだ。笑うと目が線になる。

 なんか癒されるね、この子。

「とりあえず、保健室に連れて行くよ。えーっと」

 しょうがないな。あまり手は借りたくはないが。

「ごめん、闇野さん。鉄子さんを負ぶるの、手伝ってくれる?」

 闇野さんと、それから寛木さんにも手を貸してもらって、僕は自分よりも身長の高い鉄子を負んぶした。やれやれ。前にもあったな、こういうこと。

「やっぱり、私も一緒に行った方が良くない?」

 闇野さんから、ありがたくはないオファーが届いた。

「え!?あ、いや、大丈夫だよ」

「そう?私、少し代わるよ?」

「だ、大丈夫!いつものことだから」

 背中に女性がくっついているからか、それとも美女二人に挟まれているせいか。僕は顔が熱くなるのを感じて、ソッポを向いた。

 自らを魔王の末裔と語る少女である。闇野さんには人格的危険性がある。でも、かわいいことはかわいい。

「駄目よ、あかり。無学さんが困ってらしてよ」

「困ってないよ。変なこと言わないでよ」

「うふふ。でも、何だったら、私が付いてっちゃおうかしらね」

 く、寛木さんまで、何を言うか???

「ちょっと、なごみ!」

「だって、かわいいじゃない?」

 さ、三角関係勃発!?頂点の一つは、僕!??な、なんだ、この経験したことのないシチュエーションは!?これも破壊の女神に乗っかられているせいか?

「無学君。なごみなんか放っといて、早く保健室に行こうよ」

 袖に柔らかい感触が。

 勘違いされないように言っておくが、決してそういうことではない。女の子に袖を引かれた感触は、強さの中にも独特の柔らかさがある、ということである。

 それも、両袖に。いや、こっちは本物の柔らかさかな?ちょっとくっつき過ぎじゃない!?

「なごみ、今日忙しいんじゃないの?」

「私は予定がなくなって暇になったのよ。あかりこそ、何かあるんじゃなかった?」

「何もないわよ」

「そうかしら?先輩が何か言ってなかったかしら。確か、そうそう。今日は魔空艇まくうていに乗せてもらって、空を飛ぶ日じゃなくって?」

「そうだよ。でも、なごみが野営実習だから、私たちはまた次の機会にってことだったでしょ」

「でも、中止になったってことは」

「あ、そっか」

 フッと、両袖が急に軽くなった。

「無学君、ごめん。私たち急用思い出した。また明日、教室でね?」

 え!??

「うふふ。ごめんあそばせ」

 闇野さんたちは、風のようにその場を去っていった。

 なんなんだ…。

 闇野さんは、三年生の先輩のパーティに入れてもらっている。だからとっくの昔に異世界に行って、魔王退治も経験済みだ。

 そうか。魔空艇か。空を飛ぶんだ…。

 きっと異世界の空を、バビューンと。

 進んでるなあ、あの子たち。

 美女の暇つぶし。そういった言葉が、僕の脳裏に浮かんだ。

 ふう。

 なんか急に心が楽になった。そう思うと、ズシッと重みが感じられてきた。

 そうだった。三角形の頂点にいるのは、彼女だった。

「ゆ、勇者さぁ〜ん…」

 蚊の鳴くような細い声。

「な、何?」

「あたし、取り憑かれたのかな…?」

 どちらかというと、僕だと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ