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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第二部

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82/206

恋に恋して、幻想は醒める

「そ、そう?どの辺が?」

 自分で聞いといてなんとも間抜けな質問である。

 問一。勇者と魔王の共通点を30文字以内で述べよ。

「独立独歩なところかな。自分の道を貫くためなら、相手を敵に回しても構わないって感じ」

 大幅に文字数オーバーしてる。減点だ。

「独出君じゃないの?それを言うなら」

 闇野さんは、口に出してはいけないことを聞かれてしまった、というように苦笑いした。

「独出君。彼は、アレじゃない」

「アレって、何?」

「ちょっと、女子から見て魅力にかけるというか」

 略して女子力にかける。っていうんじゃないね。その反対。男性フェロモンが自己完結してるとでも言おうか。

 やだなあ。女子って残酷だよな。

「僕だってそうだよ」

 そそ。僕だって女子にモテる方じゃない。

「そんなことないよ。無学君は、魔王タイプだよ」

 タイプ診断。Aになったあなたは、魔王タイプです。魔王タイプのあなたは、自分の生き方を貫いて、同じ世界に住む人を恐怖のどん底に陥れます。

「パーティにも、かわいい女の子連れてるし」

 妙子のことか。彼女の愛はゲンちゃんに一心に注がれている。

「ねえ、どっちがいい人なの?」

「え?どっちって」

「だから、眼鏡の子かセーラー服の子か」

「どっちもそんなんじゃないよ」

 闇野さんの目がキラキラしてきた。どっかでこういう目は見たことがある。そうだ。クラスの片隅に集まって、恋バナに夢中になっている女子中学生だ。

「そう?あの二人、無学君といい感じじゃない?」

「き、気のせいだよ」

「そっか。良かった」

 よ、良かった!?

 こ、これはもしや、もしやするというアレか?アレなのか?

「私、無学君のこと、気になってたんだ」

「闇野さんはどんなパーティ組んでるの?」

 僕は無理矢理話題を変えた。まだ、この手の攻撃に耐え切れるほどの耐久力を身につけていないのだ。

「ウチのパーティはね」

 と、闇野さんは話し始めた。その声の調子は、平常のようでもあり、不満を隠しているようでもあり。

「僧侶の女の子が一人。その子は小学校からの親友の子」

 なんだ、地元に友達いるんじゃん。

「へえ、二人だけで冒険してるの」

「勇者科の三年生に先輩がいて。今はその人のパーティに入れてもらってる」

 地元に先輩もいるのね。しっかり現実世界に適応していらっしゃる。しかし、同じ地域から三人もこの学園に入っているのか。相模原では、現実逃避が盛んらしい。

 えっ、ってことは。

「闇野さん、もう異世界行った?」

「うん」

「じゃあ、魔王にも会った?」

「うん」

 会ってたの?え、会ってたんだ!?

「どうだった?」

「なんか、思ってたのと違ってた。先輩が近くの村で貰った巻物に書いてある呪文唱えたら、弱くなっちゃって」

 魔王に会って、幻想から醒める少女。

「そうなんだ」

「あれはきっと、私の魔王じゃなかったんだと思うな」

 魔王はきっと誰のものでもない。それは解釈の問題なんだ。

「会えるといいね。君の魔王に」

 今日はなんて夜だろう。人生でこんなことを言うとは思わなかった台詞を連発している。

「うん。紅茶、おいしかった?」

「ありがとう。温まったよ」

 焚き火が熾火になってきた。ほぼ完全な暗闇の中、そこだけが赤黒く光っている。まるで闇に潜んで獲物を狙う蛇の舌のように。

「そろそろ寝なきゃ」

 明日の朝も早い。朝食を食べたら、すぐに撤収する予定だ。入れ替わりで戦士科と武闘家科の生徒たちがやってくるのだ。

「うん、おやすみ」

「おやすみ」

 ふう。やっと解放された。ほっとするような、名残惜しいような。

「無学君、優しいから。気を付けないと、変なものもやってくるよ」

 か。

 なんかもう、変なものと正常なものとの区別が付かない。

 星明かりを頼りに、慎重に駿野君のテントまで戻る。

 あれ?ファスナーが閉まってるな。僕、出るとき閉めていったっけ?

 ジーッと開けると、案の定、人型の物体が寝袋に入って、スヤスヤと寝息を立てていた。

 僕はそっと毛布を引き出すと、中の人を起こさないようにファスナーを下ろした。

 駿野君のテントは広いから、二人が寝れないことはないけど。

 満天の星空の下、僕は毛布にくるまり横になった。

 あー、落ち着く。最初からこうしとけば良かったんだよなあ。


 翌日、ザビエル暦五月第二週二日目の朝。

 僕は小鳥が活動を始める音で目を覚ますつもりが、けたたましい電子音で目を覚ますことになった。

 駿野君のテント内から聞こえてきた、目覚まし時計である。自然はどこに行ったんだ、自然は。

「やあ、おはよう。なんだ、そこにいたのか。自然派の君には、テントはあまりお気に召さなかったかな」

 駿野君は爽やかに言い切ると、ガリガリとコーヒーミルのハンドルを回し始めた。

「昨日は君、お楽しみだったじゃないか」

「そ、そういうことじゃないよ」

 見てたのかよ。いやらしいな。

「邪魔しちゃいけないと思ってね。僕はテントに引っ込んじゃった」

 アハハハハ、と駿野君は高らかに笑った。多分この人、笑えば全てを誤魔化せると思っている。

「さて、昨日仕込んでおいた生地がいい感じに発酵しているぞ。自然の力に万歳だよ」

 と、チーズやらなんやらを乗せて、ホットサンドメーカーで焼き始めた。火種はもちろんガスバーナーである。

 僕はいそいそとパンの耳を食べる。あー、いいね、この味気なさ。いつもの味、いつもの味。落ち着くなあ。

「無学君、コーヒー飲まない?」

 と、そこに闇野さんがやってきた。とすると、昨晩のは夢ではなかったのだ。

「行ってきたまえ。僕のことなんて気にせずに」

 駿野君がわざとらしく寛大さを示す。こういうのも捻くれたマウントの取り方だろうか。

 闇野さんのテントまで行く途中、さりげなく独出進君の方を見たら、相変わらずの無愛想で乾パンを齧っていた。昨晩、女子高生の無邪気な侮辱発言があったことは秘密だ。

「はい、コーヒー。熱いから、気を付けてね」

「あ、ありがとう」

 闇野さんが入れてくれた、熱いコーヒーを啜る。

「おいしい」

 思わず本音が出た。水以外のものを、パンの耳と一緒に口にしたことがなかったから。

「インスタントコーヒーだから、駿野君のよりは劣ると思うけど」

「そんなことないよ」

 昨晩のことを、どう解釈していいのか、僕はうまく整理出来ていなかった。

 闇野さんに気に入られたような気もするし、彼女を少し失望させたような気もする。

 でも、どうすればいいのだ?君は魔王の子孫に間違いない、とでも言うべきだったのだろうか。それとも、もっとはっきりと、寝惚けたことを言っているんじゃない、現実はそんなに甘くはないと、言ってやれば良かったのだろうか?あるいは、僕が君の魔王になるよ…、無理だ。異常が強すぎる。

「無学君、ジャム付けない?」

「あ、ありがとう」

 闇野さんがブルーベリージャムをくれた。うう、甘い。甘くておいしい。ジャムを付けたパンの耳は、こんなにもおいしかったのか。勇者の胃袋を掴むのは簡単である。

 正直、闇野さんに対する印象は良くなかったのだが、彼女がかわいい女の子であることも、事実。

 駿野君は自然を愛し、文明に頼る。闇野さんは現実を否定し、幻想に失望する。勇者は初めての恋の予感に期待しつつも苦悩する。

 矛盾しているから人間なのさ、と、受け入れることが悟りなのだろうか。我がパーティにだって、猫を幻獣と言い張る人物がいる。

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