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蒟蒻は生暖かく、藁は詰まっている

 ブレス…!?

 僕の脳裏に、火を吹くドラゴンの姿が浮かんだ。

 次の瞬間。

 ブオオオオオオ!と、壁モンスターが大きく息を吐き出した。

 やば!直撃する!

 咄嗟に両腕で顔を覆う。

 モンスターの肺活量は無限とも思える程に強く、叩きつけるような生暖かい暴風が僕らを襲った。

「ヒイィィィィ!」

「きゃあ!」

 その息は後衛のネズミ君や妙子にも届いた。

 大丈夫か!?でも、僕も人のことを心配している余裕はない。なんとか吹き飛ばされないように必死で堪える。

 でも、も、もう、限界!!

 くっ、くっせえ〜〜〜!!

 吐き出したのは正真正銘、息だけだったけど、これがくさいのなんのって。

 まるでパックから出したばかりの蒟蒻を百倍濃縮したような強烈なにおいだ。

 壁のモンスターかと思ったけど、こいつ蒟蒻のモンスターか?

 ようやく強い風が止んだが、においはまだ強烈だ。鼻をつまんで睨みつけると、モンスターは短い手を額の部分に当てて、ゼーハーゼーハーと大きな息をして呼吸を整えていた。オイ、無理しなくてもいいぞ。ここ換気が悪いんだから。

 でも、大きくゼーハーやる度に、蒟蒻のにおいは益々強くなっていくものだから、たまったものではない。

「勇者さん、逃げよう。アタシもう限界!」

 そういや鉄子は人一倍くさいのに弱かったな。

「勇者、先に進むぞ!戦っても勝ち目はねえ!」

 人の答えを待たずに、ネズミ君が奥の扉へと向かって走り出す。

 しょうがない。退路が塞がれてしまったが、先に進むしか。というより、早くくさくないところに避難したい。

 通路は奥まで蒟蒻のにおいが充満している。僕らは北側の扉を開けて、中に逃げ込んだ。バタンと扉を閉める。あ〜、くさかった。蒟蒻は食べる前に水洗い必須だ。

 駆け込んだ先は、右手(東)と正面(北)は壁で、通路が左(西)に伸びていた。

「ふうん。とりあえず西に行けってことか?」

 ネズミ君を先頭にして、しばらく進む。そうして4ブロック目に差し掛かったところだった。

「ウヒョ!ワッ、ワワワッ!」

 急に何かに驚き、彼は僕の後ろに隠れた。

「何?なんかいたの?」

「わ、分からんが、人影のようなものが見えた気が」

そう言われて、前方の暗がりを覗き込む。が、どうしたって光がないと見えない。

「あのねえ、あんたがランプで照らさなきゃ、アタシたちにも見えないでしょ!」

 鉄子に尻を叩かれ、盗賊は渋々といった感じで恐る恐る前に出た。右手に持ったランプを出来得る限り前方に突き出して、体の左半分は後ろを向いて、いつでも逃げ出せる格好だ。

 素晴らしい、これぞへっぴり腰だ。まさにへっぴり腰のイデアがここにあった。さっきの宝箱に、彼がなくした勇気と羞恥心が入っていることを望む。

 おや?確かに人影みたいなものが見えてきたな。

「ウヒ!」

 再び逃げ出そうとするネズミ君だったが、今度は鉄子に首根っこをガッチリと抑えられた。

 人影は二人あった。部屋の西壁を背にして、二人いる。壁には扉がある。その扉を守るようにして、誰かが立っている。

 僕は警戒してナマケモノの剣を構えた。

「ほら、もう一歩前に出なさい!」

 鉄子が強引にネズミ君を突き出すと、全貌が良く見えるようになった。すると。

「な、なんでえ。びっくりさせんなよ。案山子じゃないか」

 人影に見えたのは、二体の案山子だった。

 十字に組んだ竹の棒に、藁で胴体を作って、頭に傘を被せて顔にへのへのもへじを描いた、典型的な案山子である。

「へっ、虚仮威しが!俺らはカラスじゃないっつの!」

 相手が案山子と分かって、急に態度がでかくなる盗賊。カラスに対する効果は不明だが、少なくともネズミには効果があった。

「こんなとこ、とっとと先行こうぜ」

 このフロアは通路と言うより、横長の部屋と言った方がいいかもしれない。東西4ブロックに連なった長方形の部屋だ。さっきの壁モンスターが嵌っていた狭いところの丁度一つ北に、壁があり扉がある。

 案山子たちを無視して、扉に向かった盗賊の背中に、不吉なものを感じた。

 このパターン、前にもあったような。

「おひぃあ!」

 毎度情けない悲鳴が聞こえ、二体の案山子が急に動くのが見えた。案山子たちは間を詰めて、手を繋いだような格好になる。

 ネズミ君の行く手を通せんぼするように塞いでから、前方に飛んだ。

 間一髪、リンボーダンスの要領で案山子タッグのクローズライン攻撃を回避するネズミ君。

 んも〜。ガーゴイルのときにやったでしょうに。

 この盗賊に学習能力がないことは薄々感付いてはいたが。ランプを落とさなかったことだけは評価してあげよう。だいたい、一本足の竹の棒が、バランス良く石床の上に立っている時点で怪しい。

 なんて悠長なことを言っている暇はない。

 最初の合体攻撃をかわされた案山子タッグは、今度は個別に攻撃してきた。ピョーンと大きく跳ね上がって、着地点にいる僕らを狙う。

 それをかわすと、またピョーンと大きく跳ね上がる。空中から落下傘攻撃を見舞おうという算段だ。

「気をつけろ!そいつらただの案山子じゃないぞ!」

 んなこたあ、分かっている。

「スケアクロウって言って、ゴーレムの一種だ!」

「ゴーレムって何!?」

「異世界生物学、予習しとけよ!要するに、石とか鉄とか木なんかで、でかい人形造って、敵と戦わせるようにした、ロボットみたいなもんだ!」

 ふうん。良く分かった。

 ネズミ君の話が本当だとすれば、ゴーレムというのはかなり手強そうである。

 だが、案山子をゴーレムにしたのは浅知恵だったと言えるだろう。

 この案山子たち、さっきからピョーンと跳ね上がっては、降下攻撃を繰り返してはいるのだが、藁と竹ばかりで出来ていては、幾分胴体が軽すぎるのだろう。

 フワッと舞い上がっては、フワッと降りるものだから、落下地点の予測がしやすい。避けるのは簡単である。戦闘員の僕と鉄子だけでなく、妙子までが、ヒョイヒョイと余裕で避けていた。

「ざけんじゃないわよ!!」

 バシュッと、鉄子が竹竿を一閃させた。

 ボスッと鈍い音がして、スケアクロウの頭が吹っ飛んでいくと、胴体も力を失って床に倒れた。

 もう一体は僕が受け持つ。着地した瞬間を狙って、ナマケモノの剣でバキッと叩いてやった。芯棒が折れたようで、こっちも倒れて動かなくなった。

らくしょうよね!」

 鉄子が勝ち誇った。

 僕は悪いとは思ったけど、案山子の頭の中身を確かめてみた。案の定、藁しか詰まっていなかった。

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