表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/206

変態は手玉に取られ、勇者はお金を拾う

 賀茂野さんの部屋から今来た道を戻る。

 その間も王さんは、「アイヤー、憧れの人に会えたアル」とか、「あとでワタシのコピーにサイン欲しいアル」とか言って、賀茂野さんをおだてまくっている。

 明らかにお世辞なのだが、賀茂野さんはまんざらでもなさそうで、顔をカーッと真っ赤にして、嬉しさを隠し切れずにニヤニヤしていた。

 これって、王さんが完全に手の平に乗せている?若干15か16の少女が、二十歳過ぎのイケメンを!?

 実は来る道すがらに王さんが話してくれたことなのだが、賀茂野さんっていうのは、もの凄くシャイなのだそうだ。

 しかも、もの凄くシャイなくせして、超が付く程の女好きなのだという。だから女の子に話しかけたいんだけど、性格が邪魔して話しかけられないという。

 しかし、こんなにイケメンとは思わなかった。女の子の方も、イケメン過ぎると気が引けてしまうのだろうな。

 それで欲求不満が募って、悶々としてダンジョンに引きこもってしまったのである。

 でも本当は女の子と遊びたいのは山々なわけで。

 そこで玄室の扉に覗き穴を付けて、課外活動でダンジョンを訪れる女子生徒を穴から見ることで、欲求不満を解消していたのだとか。

 ううむ。心理学者であればこれを代償と呼ぶのだろう。逃避も混ざっている。だが僕ならもっといい言葉を見つけられる。変態だ。

 そしてどうして王さんがこんなことまで知っているかというと、なんとこの賀茂野さん、そのことを赤裸々にエッセイに綴っているのだ。

 なんだろう。精神的な露出癖があるのだろうか。むしろ引きこもって良かったような気もする。人に知られたくない特殊な性癖を顔にぶら下げて歩くようなものではないか。

 王さんが妙子を手招きしたのは、妙子の姿を賀茂野さんによく見せるためだった。かわいい女の子をダブルで見せられ、心が動きかけていたところに、更にもう一人女の子がいるらしい。妙子曰く「素敵な人」が。

 あとで鉄子と対面した賀茂野さんが何を思ったかは知らないが、なんにせよ王さんの策略に見事に嵌ってしまい、いてもたってもいられなくなって、ついに人前に姿を現したのだ。まさに欲望が羞恥を超えた瞬間である。

 あ、でも、随分と身なりを気にしていたようだったから、本当はやっぱり引きこもりたくなかったのだろうな。今までずうっと外に出たくても出れなくて、でも女の子に会ったときのために小まめに美容院に通って(ダンジョンのどこかにあるはずだ)、その日が来るのに備えていたのだろう。そう思うとイケメンの割に親近感が湧く。

 なんてことをいろいろ考えているうちに、さっきパスした扉の前まで来た。そこを開けると、大広間になっていた。

 羊飼い科の熱高清太あつたかせいた君が持つランプの光は、今僕たちが入って来た、扉のある側(東)と、左側(南)の壁を映し出していたが、他の二面は暗闇であった。つまりここは大広間全体の南東の角ということだ。

 ネズミ君たちがいるなら、向こうのランプも光の点として見えるはずだけど、それらしきものは見当たらなかった。

「う〜ん。もう移動しちゃったんだろうか」

 すると、蛍光灯で照らしたようにパアッと明かりがついた。

「うわぁ。広い」

 賀茂野さんの魔法だ。流石は年季の入った僧侶である。お陰で、部屋の隅々まで見えるようになった。

 大広間というだけあって、中は相当な広さがあった。南北に4ブロック、東西に7ブロックの大きさだから、60m×105mか。ほぼサッカー場並の大きさである。

 この広間にある扉は二つだった。入り口と、そこから真っ直ぐ行ったところにある扉だったが、それは開いていた。誰か通って行ったのだろうか?

「奥の扉から出て、グルと北に回り込めば、道なりに賀茂野さんの家まで行けるそうアル」

 賀茂野さんと顔を近付けて聞いていた王さんが教えてくれた。

 おや?床に何かキラッと光るものがある。近寄っていってそれを拾い上げると、異世界ゴールドのコインだった。

「これ、ゴールド小僧が落としたやつかな?」

「ゆ、勇者さん!こっちにもあります!」

 ゲンちゃんも一枚咥えてきていた。良く見ると、そこかしこにコインが散乱していた。

「ははあ。ゴールド小僧が撒き餌を撒いて逃げたアルな」

 なるほど。でも、あの金にがめついネズミ君は拾わなかったんだろうか。

 僕らは大広間で何枚かのコインを拾ったけど、ネズミ君たちはここにはいなかった。

 僕と妙子が引き離されてからしばらくが経つ。彼らもじっとしているとは考え難い。

 だとしたら来た道を戻っていったのか、それとも、ネズミ君たちも奥の扉から出て行ったのだろうか?

「どうするアル?先に進むアルか?」

 ううむ。覗き穴からじっと覗いていた賀茂野さんは、ゴールド小僧の足音は聞いたけど、他に生徒らしき人は通っていないという。

 となれば、やはりネズミ君たちはここでゴールド小僧を見失って、来た道を戻っていったのではないだろうか。でも僕らはおそらく道を間違えてワープゾーンに入り込んでしまったから、そこで行き違いになった可能性がある。

「いや、一度戻ってみるよ。王さん、ありがとう」

 そう言うと、王さんはまたニコッと笑って、タヌキスマイルを見せてくれた。

「困たときはお互い様アル。それに、ワタシ困てる人見ると応援したくなるアル。どんなに離れ離れになてても、パーティの心は一つアル。無学君、加油加油かゆかゆある!」

 またパーティみんなで加油加油してくれた。これは儀式か何かか?

「ワタシ、まだ賀茂野さんにお話したいこと沢山あるアルよ。人面魚スナクが冷めないうちにお茶にするアル」

 あの人面魚スナック、店内揚げだったのか。っていうか、王さんも食べるの?他のパーティのメンバーは複雑な表情だったが。

 しかし、まだ問題は解決していないとはいえ、偶然王さんに会えたお陰で助かった。丁寧にお礼を言って別れる。

「希望を捨ててはいけないアル。この世で闇が光を駆逐したためしはないアル。必ず最後に光は勝つアル。無学君、加油加油アル!」

 最後にまた加油加油してくれた。あ、ははははは。なんだろう、この真っ直ぐな感じ。

 やっぱり加油加油のところはみんなでやるのね。息ピッタリですこと。賀茂野さんが不思議なものを見るような目で見てたけど。

 王さんはありがたいことに、ランプまで貸してくれた。

「明日教室で返してくれればいいアル。ワタシたちには賀茂野さんがいるアル」

 そう言われて賀茂野さんはドギマギしていた。かわいいイケメンだな。嬉しいんだろうなあ。初めて自分の部屋に女の子が来るのだから。

 大広間の出口のところで別れて、王さんたちは北へ、賀茂野さんの部屋へと戻っていった。

 僕らが進むのは南である。ひとまずジムがあるところに戻ることにした。道なりに左(東)に行けば、さっきのちんぶり商店。王さんによると、右(西)に進めば、突き当たりを1ブロック南へ移動する形でぐるっと壁を回り込んで、僕らが通って来た通路に出るという。

 あ、そうそう。僕らは見つけられなかったけど、ジムにはシャワー室まであるんだそうだ。賀茂野さんが清潔でいられるのも、そのお陰なんだとか。

 王さんに言われたように壁を回り込み、右折して南下する。ここで右側(西側)にも行けるのだが、ここがさっき間違えて入っていった、ワープ入り口へと続く通路である。その通路の南隣は扉。さっきパスしたところだ。今回もパスして南下を続けようとしたときだった。

「ゲンちゃん、どうしたの?」

 妙子の声に立ち止まる。ゲンちゃんがその緑色の瞳を、じっと後方の暗闇に向けていた。その方角には、オイルランプのものとおぼしき淡い光が。

「あ!」

 こちらが何かを言いかける間もなく、向こうでもこちらが誰か気付いたようだった。

「勇者さぁーーーーん!!!」

 鉄子のデカイ声がダンジョンに響いた。モンスターを呼び寄せやしないだろうな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ