表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/206

唐揚げは乗っかり、バンドは騒々しい

「だってえぇぇぇ!急にニュッと来たんだから、ニュッと!下から!下からニュッと!ああああ、怖かったぁ〜!」

 親元を離れ、得体の知れぬ存在にトイレで襲われるという、身の毛もよだつ経験をした田舎育ちの少女は、まだショックから立ち直っていないと見える。

 その証拠に、今夜はソース焼そばをおかずに醤油焼そばを食べるという、離れ業を演じてのけていた。

 僕はなるべく100円の小麦粉団子といきたいところなのだが、みんなの手前、見栄を張って280円の唐揚げカレーである。

 220円でカレーもあるのだが、具が乗っていないとネズミ君に何か言われそうな予感がしたので、一応何らかの具を乗せておこうと思ったのだ。

 そのネズミ君は今日もハンバーグ唐揚げ定食である。パーティで夕食を取るのはこれで三度目だが、彼はいつも同じものを食べている。

 それを好きなのか、はたまたカレーだった場合に僕のカレーの上に唐揚げを乗っけるつもりだったのか、いささか判別がつきかねる。そもそもハンバーグ唐揚げ定食自体存在理由が分からない。ハンバーグと唐揚げは同時に食べねばならないものなのだろうか?

 彼がハンバーグよりも先に唐揚げに手を付けたのを見て、一応の安心を得た。

 みんなで食事をするのも気を使うものだ。唐揚げを断れば角が立つし、唐揚げに甘えれば流される。一つの鉄板に唐揚げとハンバーグを一緒にするのは窮屈だ。とかく唐揚げは食べにくい。だいたい形がイガイガしている。

 一方で妙子はハンバーガーセットである。薄紙に包まれているようなやつではなく、タワーのようなハンバーガーと、くし形切りのフライドポテトが丸いお皿に盛ってあるという、女子ウケしそうなやつだ。ノブさん、なかなかやるな。

 美少女の雰囲気にピッタリだが、これが彼女の本性なのか、はたまた努力に努力を重ねて美少女のイメージを演出しているのか、これまた判別つきかねる。お嬢様育ちの彼女は、ご飯に醤油だけかけてかき込むなんてことはしないのだろうか?

 テーブルの下では、さっきおやつを食べたというのに、ゲンちゃんがねこでんねんを齧っていた。猫は、ねこでんねんさえ食べていれば何も言われない。気楽なものである。僕も勇者科じゃなくて猫科に入れば良かった。

「しっかし、俺たちも出会いたいよなぁ、アレ」

 ネズミ君はさっきのことを言っているのだ。


 鉄子を背負って、フーフー言いながら例のジグザグ回廊をようやく渡り切り(やはりここのダンジョンの設計者は意地悪である)、三つの扉が付いた分岐点まで戻ったときだった。

 昨日、血塗れの独出ひとりで君が出てきた東側の扉から、またしても知った顔が現れたのである。

「あ、板東ばんどうさん」

 勇者科のクラスメイト、女性勇者の板東組代ばんどうくむよさんと、そのパーティだった。勇者の他に踊り子二人と吟遊詩人二人という、女の子ばかりの五人パーティだ。

「無学君。何それ、ウケる」

 女番長スケバンをおんぶし、幻獣ネコ

 を抱っこしているとなれば、返す言葉はない。

「いや、ちょっと激しい戦闘があって」

 決して間違ってはいない。板東さんたちは顔を見合わせて、ニーッと笑った。

「激しい戦闘だって!ウケるーッ!」

 イエーイッと片手ハイタッチを交わす女子高生たち。ちょっと理解出来ないノリが繰り広げられている。人というものはたとえ同級生であっても、魂の入れ物が違えば異世界同士なのかもしれない。すぐ近くにいるようでいて、地球と冥王星ぐらい離れている。

「じゃ、ね。ウチらもうちょっと潜ってくから」

 そう言って板東さんたちは僕らと入れ違いに西側の扉に入っていこうとした。

「あ、あれ?板東さん、その武器はどうしたの?」

 彼女の腰には、重いナマケモノの剣の代わりに、革製の鞭がクルクルと束ねられていた。

「ああ、これ?あんな重い剣なんかいつまでも差してらんないわよ。購買部で買ったのよ。いいでしょ?」

「おい、これ260ゴールドもするやつだぞ。お前ら盗賊もいないのに、もうそんなに宝箱開けたのかよ」

 と、ネズミ君が言うと、板東さんたちはまたもや「ウケるーッ!」で片手ハイタッチ。これには流石のネズミ君も異世界に迷い込んだ猫のような顔になった。

「ウチらゴールド小僧を倒したのよ。一気に千ゴールド儲かっちゃった」

 そう言って、ガールズバンドは、タンバリンやハーモニカを鳴らしながらジグザグ回廊へと消えていった。「次はドラムを買うわよ〜!」とか言う声が遠ざかっていく。モンスターを呼び寄せないだろうか?


 ネズミ君によると、ゴールド小僧とは、千異世界ゴールド箱を担いでダンジョンの中を走り回っているという、神出鬼没のモンスターだ。すばしっこいのだが、子供くらいの身長で、倒すのにはそれほど苦労しないという。附属の生徒たちには有名な存在だが、滅多に出会うことがないというレアモンスターなのだそうだ。

「まさか地下一階にも出没するとはな。そいつを倒せば一気に大金持ちだぜ。どうする、勇者?」

 そこで、探索の重点をどこに置くかなのである。僕らは今までダンジョンの西側を攻めてきた。しかし板東さんたちが東側から出てきたとすれば、先に東を攻めた方がゴールド小僧に出会う可能性が高いのではないかということだ。

 なにしろ僕と鉄子は経済的に苦しい。パーティの財布を預かるネズミ君は、決して自己の欲望だけで言っているのではない。

 しかし南西のエリアを徐々に開拓している最中である。先にマッピングを完成させれば、今後の攻略に有利だ。

「石橋を叩いて渡るようだけど、ひとまず独出君が入っていった扉から調べてみよう」

 ゾンビの部屋から北に5ブロック、トイレの手前である。今までの探索を続けるということだ。

「ま、俺はいいけど」

 僕にもまだ神社で授かったお金の残りがある。節約すれば、今日明日に困ることはなかろう。

 来週からの予定も決まったところで、その日は解散となった。そうなのだ。明日はザビエル暦四月第一週六日目。六日七日と、休養日の二連休である。休日はメンテナンスのため、ダンジョンは立ち入り禁止だ。

 地元のネズミ君は実家で過ごし、妙子も一度実家に顔を出すそうだ。家族全員猫アレルギーだから日帰りだそうだが。地元が九州の鉄子は残るという。学園は週末でも色々とイベントがあるようで、戦士科と武闘家科合同で開かれる相撲大会で優勝してやると息巻いていた。

 僕はダラダラと過ごそう。牧場の羊を揶揄ったり、寮の部屋に引きこもって過ごすのもいい。なにしろ自由なのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ