イケメンは叫び、勇者は人の気持ちが理解できない
毒沼講堂の中は一様に騒ついていた。それもそのはず、今からダンジョンに潜ろうかというところを、腰を折られた形で集められたのである。
そもそも全校集会と聞いて、遠足に行くのと同じテンションで参加する生徒はいない。
「うあ〜。ウチら今日から潜る予定だったんだけど」
腕組みをしているのは、例の板東組代さん。と、そのパーティの面々だ。
舞人科が二人と吟遊詩人科が二人のガールズパーティである。
四人のメンバーは、普通の高校だったら絶対に登校を拒否されるであろう、派手派手ロックな髪型をしていた。
板東さんの髪が爆発するのも時間の問題である。
「え〜、神の御名の下にお集まりの迷える仔羊たちよ。御静粛に」
ザビエル似の学園長が登壇し、仔羊たちがシーンと沈黙する。いや、僕らはいつから羊になったのだ?
「我が校、始まって以来の奇跡が起こりました!」
なんだ、なんだと、またザワザワする。誰か死者でも生き返らせたのか。それとも水がワインに変わったか。
「勿体ぶらずに早く言えよな」
歴史的聖職者に対して不敬なコイツはネズミ君である。
「今日ここに、また一つの異世界が救われました。もちろん、そのようなことは神の御加護を受けたこの学園ではよくあることであります。しかし、本日は、新たなる勇者が誕生したのであります!さあ、君たち、出てきなさい」
ゾロゾロと、玉音銀次郎と彼のパーティが登壇してきた。
昨日ダンジョンで僕らを追い抜いていった、あの四人である。超美人の賢者の人もいる。
「ここにいるパーティが、本日異世界を救った英雄です。勇者の玉音銀次郎君はまだ一年生。なんと、入学して僅か48時間余りで、一つの異世界を救ったのです!これは我が学園始まって以来の、最速クリアです!」
おおおおお、と、どよめく生徒たち。
僕にはイマイチ凄さがわからないのだが。一体、異世界って、一つどのくらいで救えるものなんだろ。例えば、土日を潰して飲まず食わずで攻略に没頭したら救えるものなんだろうか?
「けっ。どうせ上級生に負んぶに抱っこでクリアしたんだろうが。エレベーターの鍵だって賢者の人に魔法で開けてもらったクセして。きっとアイツが加入する前に、クリア寸前まで行ってたに違いないぜ」
ネズミ君の台詞の中には、妙に納得できる部分とできない部分とがあった。
しかしそんな裏事情など知らない他の生徒たちは、彼を尊敬の眼差しで見始めていた。
「スゲー」とか、「あいつ何者だよ」とか聞こえてくる。「ウケる」ってのもあるが、これは板東さんである。
玉音が演台についてマイクを握る。いつものように自信たっぷりの嫌味な顔だ。
「え〜。ただいま学園長からご紹介預かりました、玉音銀次郎です。僕はこのパーティの勇者ですが、この偉業を達成できたのは僕の力だけではありません。下級生の僕の力を認めてくれて、パーティを組んでくれた仲間たちのお陰だと思っています」
パチパチパチパチと拍手が起こる。
白々しい。アイツがそんなに謙虚なはずがない。
「パーティーのメンバーをご紹介します。皆さん優秀で、本当に頼り甲斐のある方々ばかりです。賢者科二年の賢井さとりさん、聖騎士科三年の光野岸男さん、魔法剣士科三年の間保剣信さん。彼等の活躍なくして最速クリアは出来ませんでした。皆さん、彼等に盛大な拍手をお送りください」
またパチパチパチパチと、盛大な拍手が送られる。
コンサートでもやってたのか?まったく、どこの親も適当な名前をつけやがって。
「ただ、そうは言っても、僕に実力がなければ、彼等も僕とは組まないわけで」
またシーンと場内が静まり返る。ほら、始まったぞ。
「僕の父上も、この学園の出身で、在学中に300以上の異世界を救ったとか救わなかったとか」
「救ったのはお前の親父とパーティ組んでくれてた勇者だっての」
と、ネズミ君が異議を唱える。この話、前にも少し聞いたな。
「僕は父上のことを尊敬していますよ。でも、そんな偉大な父の下に生まれたことが、自分にとってはプレッシャーでもありました」
「だから偉大なのはお前の親父じゃないら」
「僕もこの学園に入ったら、立派な勇者になって、父上の記録を抜いてやろうと、僕はそのことだけを考えて、小学校、中学校と過ごしてきたのです」
なんて学生生活だ。ゲームばかりやってないで勉強もしなさい。
「最速クリアを成し遂げて、父を驚かせてやろうと、入学式のときはそんなことばかり考えていました」
ほう。ならザビエルの話は聞いてなかったな。
「でも、でも!そんなこと、そんなこと、関係ないんだ!」
バンッと、玉音は拳で演台を叩いた。どうした?壊れたか?
「僕は、僕は、見てしまったんだ。あの、異世界の人たちの、救いを求める目を!僕らを、勇者の救いを求めるあの目を!あの目を見てしまったら、記録がどうとか言っていた自分が恥ずかしくなりました。純粋に、純粋に、僕はこの人たちを救ってあげたいと思ったんです!」
お〜い。大丈夫か?
「そして、彼等を闇の大魔王の手から救い出し、世界に光を取り戻したあとの、あんなに嬉しそうな笑顔!僕は世の中にこんなに素敵なものがあるということを知りました」
白々しい。ほんっと白々しい。玉音なんてどうでもいいから、さとりちゃんのかわいい顔でも眺めてよっと。
「僕は、一つでも多くの異世界を救いたい!いや、百個でも二百個でも、千個でも二千個でも、救える限りの異世界を救いたい!ちっぽけな僕の記録のためではなく、愛する異世界の人のために!そしてそれは、ここにいる仲間たちとなら可能なんだ!ここにいる仲間たちというのは、今、壇上にいるメンバーだけのことを言うのではありません。この学園にいる、全ての人が、志を同じくする同志なのです!僕たちみんなの力を合わせて、一つでも多くの異世界を救いましょう。そう思っているのは、僕だけではない。みんなも同じ気持ちだと思います!お互いに切磋琢磨して、このファンタジア学園を盛り上げていきましょう!!」
最後は絶叫だった。あ〜あ、やっちゃったぞ、コイツ。だいたい、異世界を救いたいのか学園を盛り上げたいのかどっちだよ。な〜にが、みんなも同じ気持ちだと思います、だ。
って、あれ?
割れんばかりの盛大な拍手が沸き起こっていた。
「ターマーネー!ターマーネー!」という、玉音コールまで起きている。
え?どうしちゃったの、みんな。今の下手糞なヒーローインタビューみたいなやつで、そんなに感動したの?
「素晴らしいです!玉音君とそのパーティに今一度大きな拍手を!永久に主の祝福があらんことを!」
万雷の拍手に手を振り、玉音は舞台の袖に消えていった。
なんなんだろう。なんで今の嘘八百を並べ立てたような演説で盛り上がれるんだ?育った環境が違うせいだろうか?みんなの気持ちが分からない。
隣を見ると、ネズミ君が生のセンブリを噛み潰したような顔をしていた。
うん。共感できるできる。やっぱり仲間だ。
一方、我が女性陣はというと。
「マイクは下手だけど、やっぱりあの人イケメンね」
「ですねぇ」
「ミヤォ〜ン」
違うポイントで感動していた。ゲンちゃん、君は雄だろう。
三々五々、生徒たちは解散していった。口々に「俺たちも頑張らないと」とか、「早くダンジョンに行こうぜ」とか、「ウケる」とか言いながら。
「フン!今日はもう解散だ!あ〜、胸糞悪い」
ところが我がパーティは、ネズミ君が臍を曲げてしまったので、本日の課外活動はお休みとなった。
ま、いっか。僕もそんな気になれないし。
そういや、独出君の姿が見えなかったけど、彼はもうダンジョンに入ったあとだったのかな。




