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ダンジョンは暗く、ドアには鍵がかかっている

「真っ暗だね」

「そうね。真っ暗ね」

「真っ暗ですねぇ」

 素人三人が不毛な感想を語り合っていると、シュボッという音がして、周りが明るくなった。

「あのなあ。ダンジョンに蛍光灯でも付いてると思ってたのかよ」

 用意のいいネズミ君がリュックサックからランプを出して、ライターで火を灯してくれた。吊り下げて手持ちできるランタンみたいなものだ。

「ま、異世界に行ったら火打ち石しかないんだけどさ。今のうちはいいだろ」

 ぼうっと、オレンジ色の淡い光が巨大な石壁を照らし出した。自然にできた洞窟ではなくて、人為的に作られた巨大な建造物であることがわかる。

 入り口から見て道は三方向に分かれている。まっすぐと、右と左。正確に90度で作られているようだ。

「基本的にこのダンジョンは1ブロックが縦横15m、高さ5mの石の壁で出来ていて、それが東西南北に21ブロック連なっている。要するに一辺が315mの正方形になっているわけだ。今、俺たちがいるダンジョンの入り口は、南の底辺のちょうど真ん中な」

 つまり南から北向きに侵入するということだ。入り口のブロックからは、道は北、東、西の三方向に通じているようだった。だが、ランプの光はそんなに遠くまで届かない。照らしてくれるのは、せいぜい1ブロックが限度といったところか。まさに一寸先は闇の世界である。

「これをマッピングしながら進むんだけど、マッパーどうする?俺はランプ持ってるし、罠とかあったら解除するの俺の役目だし、勇者と鉄子には戦ってもらわなきゃならんし」

 と言って、ネズミ君は妙子を見た。

 これではそう遠回しにでもなく、妙子にやってくれと言っているようなものだ。

「わ、私、ですか?私は駄目ですよ!だって、ゲンちゃん抱いてなきゃいけないですし」

「あのなあ?そいつ、自分で歩けないんか?公平に考えてお前しかいないんだけど」

 呆れたような顔で妙子を見つめるネズミ君。

「駄目です!」

 と、断固拒否する妙子。

 困ったな。いきなり仲間割れとは、先が思いやられる。

「妙子さん、お願いできないかな。ネズミ君が言うように、君しか頼める人がいないんだよ」

 勇者だったら、なんとかこの場を納めなくてはいけないと、僕からもお願いする。女の子に何かをお願いするなんて初めてだけど、大丈夫かな。

「ゆ、勇者さんがそこまで言うならいいですけど…」

 僕の不安をよそに、妙子は承諾してくれた。屈み込んでゲンちゃんを下ろす。フミャ?と猫のような声で一声鳴いて、幻獣はトコトコと歩き出した。

 ほっ、良かった。なんだ、やってくれるんじゃないか。

「ちぇ、俺が頼んだら拒否したくせに」

「勇者さんはちゃんと丁寧に頼んでくれたんです!」

 妙子はベエっと舌を出した。意外と気が強いのかもしれない。

「フン!とっとと行くぞ、この短足猫」

 ゲンちゃんは「ミャン!」と鳴いて、チャッチャと爪の音を立ててネズミ君に付いていった。

「あ、お前、ノート持ってる?」

 ところが、先に行きかけてすぐにネズミ君は戻ってきた。

「も、持ってますよお。見ないでください!」

 カバンの中をゴソゴソやっていた妙子の手元を、ランプで照らしてネズミ君が覗き込もうとする。あの大きいカバンには何が入ってるんだろ?

「いや、そんなんじゃなくてさ。ほら、やっぱり思った通りだ」

 妙子が取り出したのは、ファンシーなキャラクターの付いた薄っぺらいノートである。小学生のとき、女子がこんなの持ってた記憶がある。

 ネズミ君はリュックサックの中からA5版を少し大きくしたぐらいな、しっかりとした表紙のリングノートを取り出した。表紙には、学園のドラゴンの紋章が付いている。

「ほら、こいつを使いなって。学園公認のマッピング用ノートさ。表紙が下敷きの代わりをしてくれるから、歩きながら書けるし、リングだから180度ペタッとめくれてペンも挟める。ちゃんと方眼になってるから、線をなぞっていけば、無理なくマッピングが出来るようになってるからよ」

「あ…、ありがとう、ございます」

 渋々といった感じを残しながらも、妙子はペコリと頭を下げた。基本的に根は素直なのかな。

 態勢も整ったところで、ダンジョンの中を進む。横に広がっても幅に余裕はあるが、一応、ランプを持ったネズミ君を先頭にして、二番目が僕、その後ろが妙子で、しんがりは鉄子が務めることになった。

 ダンジョン内は、いつモンスターが襲ってくるか分からないのだ。気を引き締めて進まねばならない。

 ネズミ君の提案で左(西)の通路を進むことになった。道はしばらくまっすぐに続いていた。

 1ブロック15mということを計算に入れて進む。おそらく明るい光の下で見れば、そうたいした距離ではないのだろうが、心許ないランプの光を頼りに進む15mは、いつもより長く感じる。

 スニーカーのペタペタというくぐもった音の中に、ゲンちゃんのチャッチャという爪の音が場違いに響いた。

「あ〜、退屈ねぇ。早くモンスターでも出てきてくれないかしら」

 しんがりを歩く鉄子が物騒な独り言を言う。

 剣の振り方は学んだとはいえ、実戦の経験なんてない。本当にモンスターが襲ってきたら、ちゃんと戦えるだろうか。昭和のスケバンみたいななりの鉄子はその点、経験豊富なのかもしれないが、そのことを詳しく聞く勇気はない。

 入り口を除いて9ブロック歩いたところで、ようやく行き止まりに当たった。壁に木製のスライド式の扉が付いている。

 入り口が南辺の中央なのだから、そこから東西に10ブロックずつだ。ということはこの扉の向こうが、ダンジョン南西角のブロックだということである。妙子はちゃんとマッピング出来ているだろうか。

「へへ、着いたぜ。実はな、ここがエレベーターになっていて、地下五階まで一気にこっから行けるんだよ。一階ずつクリアするなんてチンタラやってないで、一気に下まで降りちゃおうぜ」

 と言って、ネズミ君はドアの持ち手に手を掛けて引き開けようとしたが、ドアには鍵がかかっているようだった。


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