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206.心空


 虹色に輝く空の下。

 浮遊のクオリアによって宙に浮かぶアラヤと、カナから借りた翼のクオリアで羽ばたくサクラが対峙していた。


「いくら力を束ねたところで、お前の消滅は私には届ききっていない! 現に攻撃を食らってもすぐに消滅の効力は切れ、私の肉体は永遠を取り戻す!」


 確かにそうだ。

 アラヤの永遠を完全に消し去るには、大質量の攻撃をぶつけ続けるか、もしくは直接叩き込むしかない。


「膨張+螺旋!」


 いつの間にかアラヤが握りしめていた、最深部を構成する樹木の枝。

 それが禍々しい光を放って膨張し、ドリルのごとく回転しながらサクラへと向かう。


「カガリちゃん!」


 火村カガリの力、炎のクオリア。

 サクラは目の前に炎のカーテンを作り出し、樹木のドリルを焼き尽くす。


 サクラは直感した。

 今の攻撃は命のクオリアを持っていたアンノウンのそれに似ている。

 しかし、命のクオリアではなく膨張のクオリアを使って再現したということは――彼女のうちに命のクオリアは無い。

 そしておそらく、消滅のクオリアも持っていないのだろう。


 理由はわからない。しかし、そこには誰かの意図を感じた。

 この力はアラヤに使わせまいとする、かつて息づいていた誰かの意志。


 そして白煙の向こう。

 アラヤのシルエットが身じろぎする。


「時間停止」


 直後、背後から急襲を受けた。

 背中から噴き出す血……斬撃のクオリアによる攻撃だ。

 気づけば前方にいたはずのアラヤが姿を消していた。


「時間を止めて……その間に攻撃を……!?」


「世界の法則には何者も打ち勝てない!」


 次は直上から爆炎が浴びせられる。

 反応も防御もできない攻撃。

 時間を止めてくる相手にどう対処すればいい。

 畳みかけるような攻勢に対し命のクオリアで何とか治癒しながら、サクラは思考を巡らせる。

 

(違う。ココ先輩が言ってた)

 

 クオリアは世界を歪める力。

 意志の力によって、世界の法則を意のままに変える力。

 指先から雷を放つ。水を操る。翼を生やす。

 それら全ては、現実では起こりえない現象だ。


 ならば想像の範疇で、現実の法則を越えればいい。

 時間を掌握されているなら、その時間を飛び越える速度で、駆ければいい。


「時間停止」


 再び時が止まる。

 アラヤの眼下では、サクラが呆然と固まっている。

 その姿に向かって手をかざし、アラヤは宣言した。


「空間――――」


 直後。

 サクラの姿が消える。


「なっ……!?」


 驚愕もつかの間、虹色の空中を光が走っているのが見えた。

 それはまるで、星のように――停止した世界をガラスのように砕いていく。


「これがキリエさんの光のクオリア! リミッターを外し、みんなの意志を上乗せしたことで新たな境地にたどり着いた、最強(あたしたち)の力!」


 超光速移動(タキオン・アクセル)

 世界の法則を越える速度が、時間をも超越する。

 止まった時間の中、光を越えたサクラがアラヤへと一直線に駆け抜ける。

 その全身から溢れた雷が剣の形を作り出した。


「雷光一閃!」


 雷光の剣がアラヤの胴を切り裂く。

 致命的なダメージを与えると同時、時は再び動き出す。

 だが、やはり消滅の効果は切れてしまう。


「ぐっ……まだだ!」


 苦悶の表情を浮かべるアラヤはそれでも止まらない。

 周囲に無数の光が灯り、その全てが鋭い矢の形へと転じていく。


「こちらにも光はある。お前など撃ち抜いて――――」


 その声が途切れる。

 アラヤの見上げる先。

 虹色の空が塗り変わっていく。

 雲一つない、真っ青な空へ。

 その空全体が、膨大な雷を蓄積しているのが見えた。


「あたしたちの目に映る空の色は、心の色。あなたはこの世界に絶望が満ちているように見えていたのかもしれない。だけど、あたしたちには未来がある。希望に満ちた青空が」


 世界の見え方は心の持ちようで変わる。

 それこそがクオリアという力の根幹。


 この学園都市で切磋琢磨する少女たちはみな、明日を見据えて戦っていた。

 昨日の自分を越えられるよう。明日こそ、ライバルたちを越えられるよう。

 それは希望に他ならない。

 戦う理由は違えども、それだけは同じ強さで重なっていた。


 永遠に続く未来に絶望したアラヤは、明日を信じることが出来なかった。

 信じることが出来ない者に、クオリアは微笑まない。


「それでも……! この私が全てを永遠で飲みこんでやる!」


 光の矢が発射される。

 無限に装填され続ける光の弾幕が、上空に待つサクラへと向かう。

 

「青天の霹靂!」


 サクラの声に呼応して、青空の雷がこだまする。

 無数の光を食いつくす極大の雷が、瞬く間にアラヤを撃ち抜いた。

 轟音が鳴り響き、アラヤの身体を甚大なダメージが襲う。


「まだ、だ……」


「…………!」


 しかし、彼女は止まらない。 

 数百年の歩みを続けてきた彼女は、諦めだけは悪かった。


「雷のクオリアで……この雷をコントロールする! 君が使っていた纏雷だ! 電流によってこの肉体を動かし、戦闘を続行する!」


 雷が奪われる。

 アラヤの身体に行き渡り、その力となる。

 サクラは、背中の黒翼を羽ばたかせ、一直線にアラヤへと落ちていく。


(力を貸してください、ココ先輩)


 落ちていく中、学園都市で過ごす中、いつも気にかけてくれた彼女の顔を思い返す。

 辛いとき、ココはいつもそばにいてくれた。寄り添ってくれた。

 そんなココの力も今、この胸に宿っている。


 眼下では両腕に眩い雷を纏いサクラを迎え撃とうと構えるアラヤの姿。

 サクラは強く息を吸い込むと、その力を使う。


『止まれ!!』


「なっ…………!?」


 青空に響く大音声に、アラヤの全身がびたりと静止する。

 思念のクオリア。その力によってアラヤの意志に介入し、行動を封じたのだ。

 

(から、だが、うごか……ない……)


 動こうという意志が削がれる。

 目の前にサクラが迫っているのに、抗うという選択肢が浮かばない。

 完全に動きを止めたしたアラヤに対し、サクラは――――つよく、つよく。

 その身体を抱きしめた。


「あ、が……っ!?」


「エリちゃん、お願い」


 消滅のクオリアが直接流し込まれる。

 アラヤの身体に宿る永遠のクオリアが根本から消滅していく。

 彼女と永遠を繋ぐパスが消えていく。


「やめろ、私は……まだ……!」


「もういいんです」


 サクラはひときわ強く抱きしめる。

 この人は、孤独だった。

 自分と同じだ。生まれながらに持った力に振り回され、どうにもならない苦しみの中で間違った道を選んだ。


 もしかしたら自分もこうなっていたのかもしれない。

 たくさんの人に恵まれたおかげで、サクラは今の自分になれた。

 心の底から自分を否定せずにいられた。


「もう休んでください。あとは……あたしたちに、任せてください」


 静かな囁きに。

 アラヤの身体から完全に力が抜ける。

 そして永遠は消え去り――戦いが、終わった。 


この回含め残り三話で完結です。

ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました。

連続で投稿させていただきますので良ければ最後までお楽しみいただけると幸いです。

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