クソゲーと呼ばないで!
「誰かっ…………誰か助けて!!」
助けを呼ぶ声に俺は相棒を更に加速させる。
二輪の足を駆動させる鉄の塊が、逃げ遅れた人間に今にも襲い掛かろうとしているゾンビを轢き殺す。
「早く逃げな」
涙と鼻水でグシャグシャになった顔の男を逃がすと、飛び掛かるゾンビを脱いだヘルメットで撃退してバイクから降りた。
ホルスターから拳銃を抜き取り、ゾンビの脳天を撃ち抜いていく。
百発百中。
俺が的を外すことはない。
「一匹残らず俺があの世に送ってやるよ」
ゾンビに占拠されたこの街を救い、親父の仇を討つために、俺は今日も地獄の日々へと身を投げ出すのだった。
はい。俺のカッコイイシーン終わり。
何でかって?
ここは『バイオデンジャー』というゲームの世界であって、ただのキャラクターでしかない俺はムービーシーン以外だとプレイヤーのスキルに依存するからだ。
別にプレイヤーが悪いわけではない。制作陣が悪いのだ。
ヘッドショット五発でようやく死ぬ雑魚ゾンビ。そのくせ一度に五体以上配置されてるなんてザラ。
対して俺は先輩ゲームキャラのスペランナーさんに匹敵する貧弱さ。
HPが存在するから一撃死ではないが、俺の身長より低い位置から降りてもダメージを負う。スキルを装備していないと強武器の反動でダメージを負う。ゾンビに噛まれると一発で感染して解毒するまでロクに動けなくなる。etc.etc.
そう、所謂〝クソゲー〟なのである。
劣悪な操作感。理不尽な難易度。頻繁に起こるバグ。ストーリーも……ネタバレになるから詳細は控えさせてもらうが、良い所を探すのが難しいレベルである。
そんな残念感溢れる世界のせいでストーリーが進まず、中々出番が回ってこないゲーム内のキャラクターはみんな白い目で俺を見てくる。
いつになったら私の操作シーンに行けるの?
そう言うヒロイン! 序盤で味方になってくれるけどゲームオーバーの原因お前にもあるからな! 何回俺を攻撃してるんだ! フレンドリーファイア備え付けるんじゃねぇよ!!
それとオープニングモブ。何回襲われたら良いんですか? じゃねぇよ!! ゾンビ物のオープニングで死なないだけありがたいと思え!! 裏設定で地味にリア充になりやがって!
ストーリーを進められず出番が来ない連中からは恨みの対象にされた俺を支えてくれるのは何と序盤のゾンビ達。
何度も俺を食い殺しているおかげで恨みも残っていないのか、ゲームオーバーになる度に俺を慰めてくれる。
何言ってるかわからないけれど良い奴らだからこれ以上俺も殺したくはない。
次で今度こそこのループから抜け出したい!
今日こそ……今日こそ、今日こそ!!
「えっ…………?」
つい声が漏れ出てしまった。
プレイヤー操作に切り替わった俺の動きが今までの比ではなく軽やかだったのだ。
鈍重なゾンビの動きにすら対応できなかった過去の俺とは段違いの動き、いや先読みで攻撃を躱して確実に一体ずつ処理していく。
これは! 間違いない! 極稀に現れるという天才ゲーマー!! 遂に俺は引き当てられたんだ!!
今までの停滞が嘘のような快進撃でゾンビを倒し、誤射する仲間の攻撃を躱し、陰謀渦巻くストーリーを突き進んでいった。
そして、そして到頭! ここまで来れた。ラスボス戦!
セーブしてゲームを終了している間、ゾンビ達も仲間達も敵も果てにはラスボスも、みんながみんな祝福してくれた。
こんなゲーム性でよく最後まで来たな、と。
苦しいことは沢山あった。罵倒を受けることもあった。でも想いはみんな同じだった。
何がなんでもエンディングへ到達する。
そんな俺達の細やかな願いが遂に叶う。
構えた銃をラスボスに向ける。
この戦いが終われば一緒に喜びを分かち合おう。
「行くぞォッ!!」
ブツンッ!!
「あぁ!? ……………………セーブデータ消えちゃったよ。またやり直すの面倒くさいし面白くないし売っちゃおっかな。はぁ……マジでクソゲーだわ」