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三千屋敷と人々と  作者: Y-K4183
1/14

三千屋敷

……なぜ私は此処に来てしまったのだろうか……

 此処に来て、この家の前に立って私が初めて考えたことがこれだ。分かっている、私は望んでここに来たのであり此処以外に頼れる場所など無いという事は。だが、それでも思うのだ。なぜ私は此処に来てしまったのだろうか、と。


 始まりはよくあることだった。ありふれていて一々記すような事ですらない……いや、無かったというべきだろう。なぜならそれが原因で私は此処にくる羽目になったのだから。

 それは単純な仕事だった。廃屋を取り壊すだけの単純な仕事。だが終わってからが問題だった。端的に言うのであれば……()()()()。そう、憑りつかれたのだ。……言っておいてなんだが私は別に心霊論者ではない。だが私に起こった出来事は科学で説明できるようなものでは無く……所謂、幽霊と呼ばれるものによって引き起こされたとしか考えられないからだ。

 しかし、当初の私は()()を幽霊とは認識していなかった。良くて見間違い、精々が疲れから来る幻覚だろう、と。しかし、日に日に存在感を増すそれに、遂に私は幽霊と言う可能性に思い至った。慌てて神社仏閣に教会まで駆け込んだが……それを落とすことは出来なかった。方々を回った末に、噂話として広まっていたこの家──三千屋敷へと来ることになった。


「……よし、行くか」


 私が家の前にたたずんでから五分ほどたった辺りだ。このまま立ち尽くしていても拉致が開かないと思い私は重い足を動かし、門横のインターホンを鳴らした。

 ピンポーンと場に漂う雰囲気にそぐわない軽い音が響いてから数秒後、この家の主……私が訪ねた人物と思しき声が聞こえた。


「開いています。そのままどうぞ」


 異様に無機質な声。合成音声でもまだ人間味があると思える声が聞こえた。実際に私はその声を一瞬合成音声かと思ったが……直ぐに思い直した。此処に来るにあたって調べられる限りのことを調べてきた。その中にあったのだ。この家の主は異常に無感情だと。

 そのことを思い返しながら私は門を開け、その家の敷地に足を踏み入れた。

 物の数歩でドアまでたどり着く。一m程しかない飛び石、塀との間隔がほぼない庭。普段であれば目にも止まらないはずのそれがやたらと目につく。

 だがそれも数瞬の出来事。私はドアの取っ手を引いた。

 ギイ、と音を立てて開いたドアの向こうに見た物は……廊下。三mも無いであろう短い廊下。特に曲がったりはせずにそのまま奥の扉へと続いている。


「失礼します……」


 一応言っては見たものの聞こえたかどうかは分からない。だがこういうものは儀式的にするものだ。そのまま私は玄関に入り、扉を閉める。先ほどは扉の陰に隠れて見えなかったが三和土の少し奥、廊下が始まって直ぐの所にトイレと書かれた扉が有る。これも調べた通りだ。

 私は靴を脱ぎそろえると、廊下へと一歩を踏み出した。

 ギシリ、と音が響く。一歩、一歩と踏みしめるたびに鳴り響く。奥の扉まで一m程のところまで来た。あともう少し、一歩、二歩で届く距離だ。だが私の足はそこで止まった。何かがいる。ここに来てからは見えていない()()とは違う。別の何かだ。あまりにも存在感が強い。真横に、すぐ後ろに、目の前に、確かに存在するかのような圧を感じる。だが次の瞬間に響き渡った声ですべての気配は霧散した。


「どうぞ」


 ただ一言。ただ一言響いただけで先ほどの圧が嘘のように消え、同時に私の体も動くようになった。

 即座に私は歩を進め、扉を開き中へと滑り込んだ。


「はあっ、はあっ、はあ……」


 喘ぐ。一切の呼吸が出来ずにいた。それ程の圧だった。だが今は無い。

 私は慌てて息を整え目の前を見る。ここから先はいくら調べてもわからなかった。多少の覚悟を決めて前方を見る。

 そこには……廊下があった。今度は五m程で右に折れている。私は突き当りまで歩くと当然のように右に曲がった。そこからも廊下は続いている。先ほどと同じく五m程で右に曲がっている。曲がる。まだ廊下は続いている。突き当りで三度、右に曲がる。私はそこで違和感に気付いた。同じ長さの廊下を三度、右に曲がった。なのに何故、一周していない? 何故、()()()()()()()()()? ()

 慌てて私は廊下を見直す。何度見ても四本の廊下の長さは同じ。仮に多少違ったとしても部屋など入り込む隙間など無いはず、なのにそこには扉が有る。

 疑念を感じながらも私は扉を開けた。たとえこの先が何であろうとも、()()よりはましに違いないのだから。

 開いた扉の先にあったのは和室、と思われる部屋であった。何故疑問符が付くのか。それは部屋が本棚に覆われているためである。

 横にも、前にも、天井にすらぎっしりと本の詰まった本棚が並べられている。扉がつけられているとはいえガラス製だ。本が崩れるかもしれない恐怖を覚えるが帰るという選択肢は無い。

 それどころか先ほど感じた違和感や気配に対して随分と真っ当な恐怖のため逆に安心してしまう。

 見れば本棚に隠れているもののすぐ前方に襖が有る。ギリギリ姿を見せている襖を開け、その奥へ踏み込んだ。

 

 空気が一変する。


「よく来てくれました。まずはそこに座ってください。お話はその後で」


 部屋中から異様な気配が漂ってくる。まとわりつくように、縋りつくように、恨むように。

 余りの気配に硬直する私を他所に目の前の人物は淡々と話を進めていく。


「ああすいません、今は手が離せないので、話すのは少し待ってくれませんか?」


 言われたところでそもそも私は今話せる状況にない。

 目の前の椅子に座ることは疎か声の一言も上げる事が出来ないのだ。唯一動く目を動かしてみれば目の前の人物はテレビに向かって何かをしている。手元でコントローラーのようなものを捜査しているところから見てゲームをしているようだ。

 こんな時にゲームを! と憤るが如何せん今の私は指一本すら動かせない状況だ。黙って目の前の人物のゲームが終わるのを待つしかない。

 

 カチャカチャとゲームをする音が響く中動くことのできない私は部屋を観察し始めた。薄暗い部屋だ。

 相変わらず不気味な気配がまとわりついてはいるがその気配を発していそうなものは見えない。しかしそれ以外の物は見えてきた。

 部屋は先ほどの部屋と同じ和室。入ってきた場所も含めて四方に襖が有る。それ程広くは無く、先ほどの部屋と似た作り……と言うより先ほどの部屋と同じ作りだろう。内装に関するなら奥の方にタンスが一つ。エアコン等は見る限りないが妙に肌寒い。これも気配の影響だろうか。

 暇になってきたためか妙な余裕が私の中に生まれ始めた。短時間にあまりにも不可思議な体験をしすぎた所為での慣れもあるだろう。気配を無視し、私は手を前に出した。

 ……気配に反応は無い。相も変わらずまとわりついてくる。だが反応が無いなら無暗に恐れる必要もない。私はゆっくりと足を動かし目の前の椅子に座り込んだ。

 

 「お待たせしました。今回依頼をくれた方ですね?」


 座った瞬間、目の前の人物がこちらを振り向く。その顔を見た瞬間、私の扱いに対する文句などすべてが吹き飛んだ。

 無表情。余りにも無表情。面ですらまだ表情が有ると思える程に()()()は無表情だった。

 女。そう、女。それも若い。まだ二十歳にもなっていないだろう。事前情報の中にもそのことはあったが私は半信半疑だった。こう言う物は怪しげな祈祷師やイタコの手によって行われるものだと思っていたからだ。

 だがこうしてみてみるとなるほど、この女の非人間らしさはある意味私の問題に……幽霊らしきものにつながっているのだろう。


「それでは、一体何が有ったかを話してくれませんか?」


 私が益体もない思考に耽っていると女が声を掛けてきた。私は小さく、はい、と返事をすると話を始めた……。


 「それが起こったのは一ヶ月ほど前の事です。その時私は小さな廃屋の解体作業を終え、家路についていました。そこで私は背後から声を掛けられたような気がして後ろを振り向きましたが……その時は誰もいませんでした。これが始まりです。それから一週間以上の間、毎日、時間を問わずに似たようなことが起こりました。ですが、この時はまだあまり気にしていませんでした。回数も日に一回か二回程度でしたので。問題は次の日からです。私の視界に”何か”が見えるようになりました」


 そこまで話すと私は一度言葉を切って相手の反応を伺った。しかし、女の無表情からは何一つ読み取ることができない。あきらめて私は話を続けることにした。


 「最初にそれが見えた時は気のせいだと思いました。ですが、日に日にはっきり見えるようになり……遂には四六時中視界に移るようになりました」

 

 私は一旦言葉を切り、つばを飲み込み話を再開した。


 「それは、女……でした。髪が長く白い服を着た…… ここ一週間はその女が常に視界にいて……昨日等は声らしきものまで……」


 そこまで私は話した。目の前の女の反応を見る。だが女は相変わらず無表情のままだ。嘘だと思われたのだろうか。だがここが最後の当てだ、ここで駄目だと言われればもうどうしようもない。

 そう考えていると女が口を開いた。


「ここ以外の場所にはいかなかったのですか? 近隣にも神社等はありますが」


 当然の質問だ。だがそこではどうにもならなかった。そこだけでは無い。一週間以上かけてありとあらゆる場所を回ったが何処も解決できなかった。ここが最後の希望なのだ。私はそのことを包み隠さず伝えた。


 「そうですか。今、その女性は見えますか?」

「いえ……この家に近付いてからは全く……」


 私の返答に女は一瞬考える様子を見せた。


「私に見えないとあまり意味がありませんね……(かしま)、開けてください」

『はいはい、りょーかい』


 女の声に何処からともなく返答が来た。その直後、私の真後ろの襖が開く。いや、それだけではない。その後ろの扉、あの不可解な廊下につながる扉、玄関、門扉、すべてが開かれる。それと同時に私を悪寒が襲う。

 あれだ。あいつだ。あの女だ。あの女が来る。分かる。分かるのだ。ささやき声がする。笑い声がする。白い服が視界に映る。

 吐き気がこみあげてくる。前より酷い。椅子に座ることすらままならなくなってくる。この部屋の気配よりはるかに悍ましい。元から薄暗い部屋がさらに暗くなったように感じる。

 ……こんな状況でも目の前の女の無表情は変わらない。笑い声が部屋に木霊し白服の女が私の周りをまわっているというのに。

 どうにかしてくれと叫びたくなってきた。しかし吐き気がひどい。今口を開けばそのまま嘔吐するだろう。

 何もできない。どうにもならない。最後の希望と頼ってきた場所ですらこれだ。一生このままなのか。それどころか私は此処で死ぬのではないか。そう考えていた矢先、あることに気付く。

 目の前の女の表情に変化が有った。いや、変化は無い。相変わらずの無表情だ。だが、今、無表情が"無"になったような印象を受けた。


「余り面白くありませんね」


 女が呟く。何だ、面白くない? ふざけるな。今どうなっているのが分からないのか。どうにも出来ないなら出来ないと言えば良いだろう。そうだこれはきっと幻覚だ。病院に行こう。初めからそうすればよかった。そうすればこんな怪しいところに来ることもなかったしここまで苦しむことも無くて済んだ。

 私がそう思っていると女がまた誰かに話しかけた。


「姦、好きにしていいですよ」

『そっちも?』

「こちらは駄目です。私の信用にかかわりますので」

『チッ。じゃあこっちは好きにするわよ』

「はい。お願いします」


 意味の解らないやり取り。そう思っていると先ほどまで私の周りを回っていた白い服の女の動きが止まる。いつの間にか笑い声も止んでいる。吐き気も収まった。何だ? 何が起こった? 女は変わらず無表情のままだ。別段何かをした様子もない。

 気付けば白い服の女は消え、部屋も元の薄暗さを取り戻している。何が何やらわからずに困惑している私に女が話しかけてきた。


「終わりました。立てますか?」

「え、あ、ああ。大丈夫です」


 いつしか私は床に座り込んでいたようだ。立ち上がり目の前の女を見る。最初と変わらぬ無表情。

 

「……これで……終わったんですか?」


 不安に思い私は質問する。さして間を置かず女は答えた。


「はい、終わりました。あれはもう出てきません」


 言い切る女。その無表情に些か不安になるが現に白服の女は居なくなった。私は礼を言う。


「お礼は良いので料金の支払いをお願いします」


 ……思ったよりこの女は現金なようだ。予想より少々安かった金額を支払い、私は立ち去る。

 そこに女が声を掛けてきた。

 

「すみません、忘れていたことが有りました」


 何だと思い振り返った私に女が何かを手渡した。これは……名刺か? 


「名前を言うのを忘れていました。本当なら最初に言っておくはずでしたが……すみません。名刺はその代わりと言う事で」


 そんなことか。しかし、何故名刺を三枚も渡してきたのだ? 疑問に思った私は女にその事を聞いた。


「ああ。それですか。見てください、それぞれ別々の名前が書いてあるでしょう?」


 見れば確かに全て名前が違う。だが使われている漢字が異なるだけで読みは同じなようだ。


「普段はその日の気分で使い分けていますが……忘れていたので全部まとめてという事で」


 変わった答えに少々呆れるが顔には出さない。受け取った名刺を仕舞い込み、会釈し部屋から出る。

 本棚に占領された部屋を再び通り過ぎ、あの奇妙な廊下の部屋に出る。三度左に曲がり扉にたどり着く。此処で私はこの廊下の謎が解けた。

 単純だ、廊下がスロープになっている。あの部屋は地下にあるのだろう。少し落ち着けば分かることだ。それ程ここに来た時の私には余裕がなかったのだ。少々苦笑が漏れる。

 扉を開け廊下を進む。来た時に感じた気配は欠片もない。何事もなく玄関へとたどり着く。靴を履き、扉を開け、庭に出る。飛び石を渡り門を開け道に出る。

 振り返れば少し大きいもののそれ程異様と言うほどでもない家が見えた。来たときは尋常ならざる異様に見えたのだが……気の持ちようで景色はこうも変わるものらしい。

 私は懐から取り出した名刺を見る。


 千桜四石 千黄紫黒 千応志刻


 同じ読みの名前が三つ並んでいる。あの女が変わった趣味をしているというのが理解できた。それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「千が三つで【三千屋敷】か……」

 

 何なら今回支払った代金も三千円だ。妙に洒落が聞いている。

 外はもう暗くなりかけている。だが私の足取りは軽い。問題は解決し、引っかかっていた謎も解けた。後は……


 「これからは取り壊す家についてもよく調べるとしよう」


 そうつぶやき私は家路へと急いだのだった。











『それでー、どうするの? これ』


 女……千桜の元に声が響く。どこから響いているのかは判然とせず、近いか遠いかすらも分からない。


「余り面白くない案件ではありましたが……まあそれの出自には興味を惹かれます」


 千黄の前には白服の女が吊り下げられている。まるで空中に縫い留められたかのように動かない女に千応は眼もくれない。


「ただ……それについてももう解決してしまいましたので」

『どんなだった?』


 謎の声が質問を投げかける。何一つ変わらない無表情のまま千桜が答える。


「ちょっとした浮遊霊でしょう。今日の人が言っていた家とは何の関係もありません」

『あら、それっておかしくない?』


 疑問に思ったのか謎の声が発言に割り込む。


『あれは家壊したら来たって言ってたし……そもそもこれ、浮遊霊にしては大分強いわよ?』


 謎の声に合わせてゆさゆさと白服の女が揺れる。そんな女の様子に一切の意識を向けることなく千黄が話す。


「家を壊したから来たのではありません。あの人がその家を壊したから来たのです」

『? それ……なにか違うの?』


 謎の声が疑問を口にする。それに対し千応は矢張り表情を変えることなく続ける。


「これは今日来た方のストーカーです」

『……いやおかしいでしょ』


 謎の声がツッコミを入れる。矢張り千桜の表情は変わらない。


『家壊したからストーカーになるっておかしいでしょ。そもそも幽霊ってストーカーって呼ぶの?』

「言い方が悪かったですね」


 千黄が女の方を見る。


 「今日来た方が取り壊したの家の近隣にこれが住んでいました。おそらくその時にこれは今日の方を見つけてストーカーになったのでしょう。前からそのような雰囲気もあったようですね」

『でもさあ、これもう死んでるわよ。千桜の言い方だと生きてるみたいだったけど』


 千応の視線が女の上部へ向く。


「はい。生きていました。詳しく言うなら今日来た人に声を掛けていた段階ではまだ生きていました。ですが今日来た人が、”一週間後から姿が見えた”と言っていました。恐らくその時に初めて姿を見せたのでしょう」

『いや、だからいつ死んだの』


 謎の声が千桜の答えに疑問をぶつける。それに対し千黄は無表情のまま返答する。


「ですから、その後です。声を掛け、姿を見せたのに思い人は逃げてしまった。そんなところです」


 千応の言葉に女は身をよじる。しかし動けない。まるで何かに押さえつけられているかのように。


『あー、あんたが面白くないって言った理由分かったわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()

「そうですね。もう少し複雑かと期待しましたが……がっかりです」


 何一つ変わらぬ無表情で千桜が言う。その視線が女の向こうを見始める。


 「それと、そろそろ姿を見せたらどうですか。姦」

『あら? 姿見せてなかった?』


 瞬間、女に絡みつく巨大な蛇体が露わになる。優に五mはあるその蛇体は女性の胴へとつながっていた。女の上半身に蛇の下半身。神話のラミアを思わせる姿だがその姿には決定的な違いがあった。


「で、もう食べていいの?」

「最初に好きにしていいと言いましたよ」

「そ・れ・な・ら」


 姦と呼ばれた女性が()()()()で白服の女を捕らえ、蛇体を外す。それと同時に女が激しく暴れだすが姦は意にも介さず舌なめずりをする。


「いただきまあす」


 耳元まで開いた口が女の体を飲み込んでいく。相当に激しく暴れているがまるで問題にせず足先まで飲み込んだ。


「ごちそうさま」

「終わりました?」


千黄が姦のほうを向く。何一つ最初と変わらない無表情。明らかに人外の姦ですら一瞬怯んだ様子を見せた。

 

「あんたってさあ……なんかこう、もうちょっと何か無いの?」

「何かとは?」

「……恐がるとかそういうの」


 疑問符を浮かべる千応。その様子に姦は顔を顰める。


「ほんとに分かってなさそうな顔ね……」

「生まれてこの方こう言う物を怖がったことはありませんので」

「はあ。全く、何で私はこんなのに従ってんのかしらねぇ」


 文句を言いながら、蛇体をくねらせ姦が部屋から出ようとする。その背に千桜が声を掛けた。


「姦、ゲームをしていきませんか?」

「パス。あんた、やたら強いし」

「ならあなたが勝ったら契約を解いてあげます」


 千黄の言葉に姦が振り向く。素早く千応の横に座ると六本の腕に三台のコントローラーを持った。


「言っとくけど、負けたから無しとかは受け付けないわよ」

「ご心配なく。あなたに負ける気はしません」

「言ったわね」

 

 二人がゲームでの対戦を始める。三つのキャラクターを同時に操作する姦だが圧倒的な熟練度を誇る千桜には分が悪いようだ。

 

「んな、くそ、このっ」

「やっぱ一人で三人操作してると動きが悪いですね。()()()()呼んできましょうか」

「必要ない!」

「そうですか。では手加減してあげましょう。指二本と足、どっちがいいですか?」

「ぬああああああああああああああ!!!!」


 千黄にもてあそばれる姦。どれほど吠えようと実力差は埋めがたい。それどころか冷静さを失い増々おもちゃにされ始めていた。

 そうこうする内に夜も更け始める。周囲の家々から明かりが消え、人々は床に就く。この三千屋敷に住む者たちにも眠るときは来るのだろうか。


 「ぬああああああああああああああああああ!!!!!」


 ……少なくとも今しばらく眠ることはなさそうである。

千桜四石 千黄紫黒 千応志刻  妖館、三千屋敷の主。常に変わらぬ無表情と優れた頭脳の持ち主。読みが同じ名前を三つ持っておりその日の気分で使い分けている。十六歳程度の見た目。人間。名前の読みはせんおう しこく


姦  千桜に従う妖怪。人間嫌い。かなりの力を持っており並みの妖魔位であれば歯牙にもかけない。元人間。名前の読みは、かしま

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