表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

天才軍師の超戦術は異世界でも通用するのか?

作者: レビウス

 戦において最も重要な力は武力でも兵力でもない。それは知力だ。


 そして、戦場においてこの知力を一手に担う者のことを、人々は軍師と呼んだ。


 

「今日も数刻と経たずに勝利だぜ。やっぱりうちの軍師様はすげーなあ」


「毎度のことではないか。あの方の実力は最早、全国に知れ渡っているのだぞ」


 遠征の帰り道、ある軍の中では軍師を称賛する声が絶えない。それもそのはず、

この軍師の力によってこの国はここまで大きくなれたのだから。


 今日も彼の力により、犠牲者を千と出さずに勝利することができた。万単位で

行われる戦にしては、最小限の被害だ。これまでの幾たびもの戦でも未だ不敗。

 歴史上の全ての軍師をもってしても勝てないと言われたその男は最早、軍師の

完成系とまで言われていた。



 「これが....走馬灯というものか....」

  

 絞首台に立ち、縄を首に巻かれた男は静かに呟いた。


 時代は昭和。極東国際軍事裁判により約一ヶ月前に死刑の判決を言い渡された

男は、今まさに死刑を執行されようとしている。


 そんな男が今、見ていたのは、戦国時代の頃の自分の記憶。つまり、転生前の

記憶だった。


「次もあるのか....?」


 もう一度、転生のチャンスはあるのか? 男は疑問に思いながら二度目の人生

を終えた。





「さすがは軍師様だ。天才と呼ばれるわけがやっとわかったぜ」


「にしてもいいよなー、軍師様。頭がいいから戦場に出なくてもいいし、それで

みんなに尊敬されるなんて」


「アホ、軍師様の方が俺たちなんかよりも、よっぽど苦労されているんだぞ」




 周りの声を聞きながら男は拳を壁にぶつける。


「くそっ、俺だって!」


 男は幼い頃から前線で矛を振るうのが夢だった。誰よりも強い武力を手にして

先頭で敵を蹴散らしたかった。

 だが、それは叶わなかった。決して才能が無かったわけではないが、その夢は

儚く散ってしまった。周りが強すぎたのだ。


 

「お主に前線で戦う武将になるのは無理だ。武力で戦うというのならば、せいぜい

ただの騎兵止まりだろう」


 男は若い頃に言われた言葉を思い出す。その言葉は紛れもない事実だったが、

男の持っていた淡い夢を打ち砕くには十分だった。

 ただ、あいにく、男は頭が良かった。それもただ半端に良いのではなく、国の

中でも一番の神童と言われるほどだった。


 結局男は、戦場への夢を捨てきれず、夢だった武将を操る軍師となって戦場に

君臨することになった。

 


「軍師様、地形の確認、完了いたしました」


「わかった。今行く」


 男はあらかじめ地形確認用に放っておいた部下について、本陣から出る。

 

「とりあえず、崖上まで行こう。五十人ついてこい」


「了解しました」



 こうして崖上まで来た時、部下の一人、関生が叫んだ。


「軍師様っ!!」

  

 どうした?と完全に振り向く前に男は猛烈な痛みに襲われた。自分の腹に矢が

刺さっていたのだ。

 おそらく流れ矢だったのだろう。なんともくだらない死に方だが、男はこれで

一度目の人生を終えた。




 二度目の人生は唐突にやってきた。時は死んでから何百年も経っていたが、

男からしたら死んで間もないことだった。


「生まれました、元気な男の子ですよ。奥様」


 男は自分の手を見て瞬時に悟った。赤ん坊のようなとても小さな手。つまり

自分は転生したのだと。


 これが俺の初めての転生だった。




「大尉、この銃というものは素晴らしいですね!」


 時が経ち、男は兵になっていた。この世界のことも、自分の置かれた立場も、

ほとんど完全に把握していた。

 そして、何より高揚していた。前世の戦国時代で叶えられなかった夢、前線

の武将。武将ではないが、前線で戦えるという事実だけで男には十分だった。


「馬鹿者、わしに向けるな!」


「これは申し訳ありません」


 男は銃に期待していた。戦国時代ではまだ、完全に出回っていなかった最強

の武器。この武器ならば、自分でも強くなれると信じていた。


 しかし....男には銃の扱いという才能が無かった。結局男は、兵士をやめさせ

られると同時に、その頭を買われ指揮官として軍の上層部に就任したのである。


 


「指揮官、敵が前方から二機、左後方から三機が迫ってきています」


「了解した。田中は後方に回り、左後方の三機を威嚇しろ。吉田と中田は上昇し、

前方の敵を打ち落とした後、田中を援護しろ」


「了解しました。それと指揮官、下から一機が突撃するように突っ込んできます」


「おそらくは田中を三機で蜂の巣にするつもりだろう。全機、一旦止まって下の

一機を集中放火しろ」


「了解しました!」


 男が指揮を務めた戦いは派手な戦果こそ無かったが、一度も敗北しなかった。

 兵たちからは無敗の指揮官、戦術の鬼と呼ばれ英雄扱いされていた。


 これには上層部も驚き、男への待遇をより厚くした。元々は銃の扱いさえ

うまくできずに少々、古臭いことを言っていた男が、指揮官をさせると連戦連勝

だったのだから驚くのも無理はないだろう。


 だがこの男のコツコツと貯めてきた勝利の貯金は一気に失われることとなる。

 原子爆弾が落とされたのだ。この不条理な鉄槌により、日本は敗北を認め降伏。


 男は英雄から一転、戦争犯罪人として極東国際軍事裁判にて死刑を言い渡され

ることとなった。


 


 首を吊られて人生を終えたはずの男にはまだ、意識があった。男の周りを満たす

のは、暖かい水だ。


 呼吸をしようと頑張るが、喉に空気が入らない。だが、全く苦しくなどはない。

 そのうちに男は全身が締め出されるような感覚を覚えた。それはだんだんと強く

なっていく。そして最高潮になった時、男は外に出た。


「うおおおおーーー、生まれたぞ!!」


 周りから叫び声が聞こえる。


 間違えない。俺は再度、転生したのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ