ティーンズラブコミックの野良ヒロイン
ティーンズラブは、ハッピーな結婚で〆る。
大企業の御曹司。
これも現代の王子様ってやつ?
ティーンズラブコミックとかでよくあるお相手ですね。
まさか、私の目の前に、王子様が現れるとは・・・!!
「ふーん。で、どうすんの、その婚約者」
「美穂ちゃんちゃんと聞いてっ!!」
お隣さんで同い年、幼馴染の腐れ縁、美穂ちゃんがシラけた表情で聞いてきました。
双子と言われるほど仲が良い、とわたしは思っている。
でも今日の美穂ちゃんは、なんだかクールだ。というか冷たい。
「やだよーどーせ惚気になるからー」
「惚気じゃ無いよっ!!」
「あんたたちの馴れ初めとか、今から言うんでしょ。最後まで聴いてられない、眠たくなる。心底どうでもいい」
「聞いてよーー!!」
「勝手に言えば?追々聞いていくから」
「聞いてよーー、もー・・言うよ!」
私の名前は河田和佳。この名前は父が付けた。上から読んでも下から読んでも・・・
言わなきゃいいのに・・名前、この瞬間に嫌いになったわ。
極々一般人と思っていたら、あら不思議!
おじいちゃんが金持ちで、死んだら唯一の孫である私に、遺産を一切合切ぶっ込んでくれたのだ!
おじいちゃんはアメリカ人だから、あっちの法律で遺産分けをしたそうです。
なんと日本円で20億円。
法律のことは分からないし、おとーさんおかーさんは『俺たちじゃ遺産なんて残せないから、貰っとけ』と。
でも遺産を受け取るのには、条件があった。
「ワシの指定する男と結婚したら」
だそうだ。
その男とゆーが、先日ウチに来た。両親の建てた家は、正直ボッコボコだ。
ボッコボコのうちの前に、ロールスロイスが寄せ止めされて、そいつが現れたのだ。
ここは道路が狭いんだよ!!もっと日本の風土に合う車で来いや!!道ほぼ塞いでるぞ!!
「来たぞ!わかちゃん!!」
「ひええ、お義父さんたら婚約者なんて寄越して!うちはこんな暮らしなのに!」
「・・・・すまん、甲斐性なくて」
「ああ、誤解よ!フィードさん!!」
父、しょんぼりです。父はフィードさんという名の通り、アメリカ人です。
母がアメリカに留学したときに見染めたそうで、おじいちゃんに反対されて、駆け落ちしたそうです。
今初めて知ったわ!!それでおじいちゃんは、両親には塩対応だったのか!
そうこうするうちに、婚約者さんが、うちの引き戸をガラガラ・・・
「わかちゃんの婚約者だから、わかちゃん出て!!」
おとーさんとおかーさんが、私をぐいぐい玄関へと押し出しました。ふたりも来てよっ!!
そして、婚約者とご対面。お?
黒髪でした。東洋人・・・日本人かな?
「初めまして。アルレイ・モズケウトと申します。ワカ・カワダ嬢ですか?」
ちぇ。金髪碧眼、おとーさんのような格好を期待してたのに。
外国呼びだと、上から読んでも、にならないね。おとーさん、何をしくじった!!って顔してんのよ。
おじいちゃん、やっぱおとーさんがおじいちゃん家を継がなくて良かったよ・・
「ご期待に添えなくて悪うございました」
舌打ちが聞こえていたようです。耳聡い・・
「いえいえ、婚約なんてお互い大変な目に合ってますが、いいんですか?こんな風貌な私ですよ?」
特とご覧あれ!!って感じで、両腕をばぁーーーん!!と広げてみました。
ザ・庶民!!って顔ですよ!!
「いえ、風貌なんかどうでもいいです。子供が産める体なら」
「ひえぇ!」
おにいさんは、私をまともに見ようとしません。見てすらいません。目はこっちを向いてるのに、そう感じました。
兄弟でも無いのに、おにいさん呼びは何故かって?
どう見ても私よりも年上にしか見えないからですよ!
「私、24歳ですが、おにい、貴方はおいくつですか?」
「・・・21歳だ」
「意表!!年下!!うそ、30台では?」
「貴女こそ失礼ですね」
「ああ!!外人って、おっさん顔多いもんね」
「全く口さがない」
おにいさん、つかつかつかと早足で接近、にゅっと腕を伸ばし、両手で私の頬を包み・・じゃない、ぶちゅと押し潰します。
「どこの口が言いますかねえ?礼儀を知らない口には、お仕置きが必要ですねぇ」
そして、生まれて初めてのキス・・通称『ファーストキス』ですよ!!
というか、押し潰されて出目金のようにむにゅーとなった唇に、ちょんとおにーさんの唇が触れただけですけどね?
黒髪で日本人面とはいえ、背は180センチ以上、すらっとしたイケメンです。残念なことに、年下なのにちょっと老け顔ですが。
慌てて彼から離れ、唇に両手で抑えます。手でガード、今更です。
「なにしやがんだてめぇーー、好きな人のために後生大事に取っておいたのにぃ〜」
「なにを?」
「ふぁーすときすぅーーー」
「24歳なのに初めて?」
「ううう〜〜〜、悪いかぁ〜〜〜」
そしたらイケメン、凄いええ顔で微笑んだんですわーーー。死ぬかと思いましたわーーー。
「あんなの、キスのうちに入らないよ。ちゃんとしたキスを、只で教えてあげる」
そしてウインクバチコーーーン。キス、プライスレスですって。
ひえっ。イケメンのスナイプ力半端ねえ。私を狩りに来たんですわ。
ケコーンする気満々ですわ。どーしてさ。
「私と結婚すると、どんなお得なことがあるんです?」
「成功報酬10億円もらえる。そして、土地を購入させてくれる権利をくれる」
「ほう。よし、私も女だ!結婚して金をやるから、すぐに離婚してくれ!!」
「最低1年暮らすのも条件だ」
「かぁーーー!!面倒だね!!」
「本当だ。金はいらない。でも、オレは土地に用がある」
「うっしゃあーーー!!しかたがねえ、住むぜ!住んでやるぜ!!」
「ハァ・・こんな女らしさの欠片も無い女と結婚か・・」
うわ、落胆してますね。
こっちだって、戸籍に傷つけてやるんだから、ありがたがれ!
「すみませんねー。でも21歳で社長なの?」
「飛び級で、18歳には大学卒業したからね」
「なに天才じゃん!」
ハンサムで金を持っていて、仕事も出来て。
「女にモテるでしょーねー」
「否定はしない」
「でしょーねー」
「・・・まあこんなところで話すのもなんだ、俺のホテルに移動するぞ」
「こんなところ!!」
おとーさん情けない顔でツッコミ入れてきました。涙目です。
おかーさんが一生懸命慰めています。
私は引きずられるように、ロールスロイスに乗せられて、ドナドナされたのでした。
「・・・・・・ってことがありましてね。3日前のことです。やっと外に出してもらえました」
あ。美穂ちゃん全然まともに聞いてない。ケータイいじってる。
「ほーん。でもそんな内容なら、携帯でも言えたじゃん。それで、わか」
およ、聞いてたか。ケータイはねー、取り上げられてたんですぅー。
フォトやメールとか、全チェックされて、男がいないか調べられちゃったよ。
「ティーンズラブコミックの婚約者に起こる、怒涛の障害の心構えは大丈夫?」
「障害?と言うか、ティーンズラブコミック?」
「この話、丸ごとティーンズラブコミックのようだからよ。で・・・」
美穂ちゃんはメモ帳を破いて、ボールペンで書き出します。
「まず、婚約者がいるか。そして執拗な元カノがいるか」
「ほう。探るわ」
「次に、変な女がストーカーしてないか」
「変な女?」
「勝手に自分が恋人と思い込んで、うろうろする女、いや男もいるかもよ。何せアメリカだし!」
「アメリカへの風潮被害も甚だしいな!!でもその女、ふつーに人として怖いね!」
「その人、イケメンなんでしょ?ジェンダーなんちゃら的な人もいるかもしれないし」
「ジェンダーなんちゃら?」
「調べなさい。外国の金持ちのイケメンは、女だけでなく男にも追われるものなのよ」
「へーー、大変ですなーー。私は日本人で、平凡で、お金持ってなくてよかったよ」
「ばかやろ、今から金持ちになるだろうに」
「うひっ!」
「そして、あんたが金持ちになると知った瞬間、無害だった男友達が、牙を剥くわよ」
「なんですと?どうして!」
「あんたを、いやあんたの金目当てで、『好きだ』『愛してる』って、囁きまくるわよ」
「やだーーーー。耳に声囁かれると、くすぐったいーー」
「耳が弱点か。とにかく、あんたは一人にならないように。まあお相手と一緒に、行動するのがいいと思われ」
「う、うん・・アル、レイ・・と・・?」
「歯切れ悪いわね」
「・・・なんか、その・・・」
「和佳さん」
急に美穂ちゃんの目が座って、ずいっと前のめりになって聞いてきました。なんか圧を感じます。
「ベッド、共にしちゃったかな?」
「あ、その、えっと・・」
だってー!誘うのうまいんだもーーーん!女扱い上手すぎなんだもーーーん!!
ろすとばーじんですよ。ひゃあ。しかも『イク』とか知っちゃいましたよ!
ティーンズラブコミック系イケメン恐るべし!!あのスペックで口説いてきましたよ!
あ。美穂ちゃん呆れた顔です。はい、私も自分で呆れてますよ。
「ちょっとあんた!ちょろすぎじゃないの!!速攻落ちてるし」
「だってーー、アルレイさんかっこいいんだもーーん」
俺のホテルって言い方は、外人だから宿泊しているところって意味かと思ったんですよ。
そしたら自前のホテルでした!!すごく高級な、私でも知っている有名ホテルを所有していました!
そのホテルで一番高い、最高な部屋で宿泊、美味しいお料理を食べてー、夜景が素敵なラウンジで飲んでーー、この状況を親身になって、お互い話し合い、酒の力もあって・・・ヤダ顔が火照る。ホテルなだけに、とおとーさんなら言う。そしてその娘だし、言わないと言う選択肢は無い。
「すっげー上手だった。あれが初めてだと、もう次の人なんか考えられないわーー」
「うわーー、ちょろすぎ!!」
「ってことで、結婚式する。来てね!!」
「うわーーやっぱり惚気だったわーーー!だから聞きたくなかったのにーーー!!喪女に謝れ!」
美穂ちゃん頭抱えて机にうつ伏せてます。自分で喪女言うなよ・・・
そうだ!美穂ちゃんも彼氏いなかったわ。アルレイさんの秘書で片腕、親友のギルラロシュさんをご紹介しちゃおうかな。
で、今ケータイでギルラロシュさんに、美穂ちゃんのお顔を写メしました。
美穂ちゃん美人だし、Fカップのたゆんたゆん。なのに身長は154センチ。ちなみに私は163でCです。
私、ギルラロシュさんがむっつりなの気付いてますぞよ。
お。速攻で返事きました。『好みです。ドストライクです』
やったーーー!!美穂ちゃんに、ギルラロシュさんのご尊顔を見せたら・・え?真っ赤っか!!
ギルラロシュさん、金髪で琥珀色の目だからね。かっこいいでしょ。この人も21歳だよ。
美穂ちゃんも連れてホテルに戻ると、アルレイさんとギルラロシュさんが待っていました。
「大親友の美穂ちゃんです。ギルラロシュさんならとお勧めします」
「あ、はい」
沈着冷静の懐刀のギルラロシュさん生返事ですぞ!視線は美穂ちゃんに釘付けじゃーーん!
美穂ちゃん、頑張ってーーー!!彼、絶倫だってさ!!あ、教えるの忘れてた、てへ!
次の日、美穂ちゃん部屋から出てこなかった。
抱き潰しましたね?こらーー、やり過ぎだぞーー。
ケータイで美穂ちゃんに連絡を入れると、出ない。
ラインしたら2時間後に返事。『結婚申し込まれた』だって。早いな、ギルラロシュさん!!
・・・・もしかして、アルレイさんも美穂ちゃんの方がいいかな・・たゆんたゆんで美人だし。
つい、聞いちゃいました。重い女か!まだ出会って3日なのに、もう嫁面するなって言われるかな?
でも結婚は私としないといけないからなぁ。選択の余地無し・・悪いことしたよ、おじいちゃん・・
「美人は3日で飽きる」
アルレイさんこんな返事でした。その後は、げふんげふん。
ソーデスカー。つまりブス枠ナンデスネー。知ってました!政略結婚ですもんねー。
愛情とか望めないんですよねー。1年一緒にいるだけの関係ですもんねー。
言ってて虚しくなってきた・・・
でも美穂ちゃんに相談しておいてよかった。
この後の展開は、まさにティーンズラブコミック!!
結婚の情報がどこから流れたかは分からないけど、アルレイさんの元カノ、元婚約者、ストーカー来ましたわ。
元婚約者だが、19歳の時に婚約していたけど仕事関係の契約的な意味合いが濃いもので、半年くらいで解消したんだけど今まで音沙汰なかったのに、結婚の話が出てきたとたんまた寄ってきたそうです。
元カノもヒステリーがすごかったけど、ストーカー凄っ!以前FBIにいたとか。マジかよ!!
本気で殺されかかったわ!!・・・女じゃありませんよ、この人。言っておきますが、男、いやゲイですって!
すごい美人で、一瞬女??と思ったけど、声がイケボ。あ、女ちゃうわ。
でもアルレイさんが守ってくれました。何そのスペック。体術まで出来るとか!FBIに勝ってるとか!
「俺は治安の悪い土地出身だからね。喧嘩や護身の技くらい身に付けているよ」
そうなのかー。少し辛そうな顔だ。小さい頃は大変だったのかな。
とまあ、アルレイさんのゴタゴタはこんな感じ。お相手に対して、もう気持ちは無いそうです。
そして、ここからは私の話になるけど・・・
本当にいい奴だった私の男の友達がきた!!すごく切羽詰まった感じで、告ってきた!!怖かったよ!!
もっと驚きだったのは、話したこともない男共が私に『好きだ』と言ってきた事です!
あいつとあいつとあいつは小学校からの幼馴染とか、高校からとかの友人だったけど、こいつとこいつとこいつは『誰?』でしたよ。本当、金が関わるとろくなことにならねーな!!
なので保安上の面でも、このホテルにいた方がいいという事で、美穂ちゃんと楽しく暮らしています。
ひとりだったら滅入っちゃってましたからね。
美穂ちゃん、ギルラロシュさんに溺愛されてます。昨日はエルメスのケリーもらってました。
だって可愛い系美人だもんね。身長183センチのギルラロシュさんの腕の中にすっぽりですよ。
親友が愛されて、幸せそうだと私も嬉しい!
え?私?
どうなんでしょうかねぇ・・・夜のアレは・・うん。一緒に寝起きはしてるけどね。
愛されてる気はしないなぁ。
一応ヒロイン枠なんだよね?私。
アルレイさんとちゃんとお話ししたいなぁ・・・
そう思って、ホテルの特別室で仕事をしているアルレイさんの所へ、強襲しました。
そっとドアを開けると、あれ?女の人がいる。
え・・・キスしてる。
普通のヒロインなら、ここでヘコんで部屋に戻るでしょう。ですが、私、野良ヒロインですから!
「アルレイさん!キスしてましたね!結婚辞めましょうか!」
ドアをばーーーん!!と音を立てて開け、大声で言いました。
アルレイさんが、驚いたような顔をしてこっちを見ます。
女は、アルレイさんの胸に顔を押し付けていますね。その人、元婚約者じゃん。
そーゆー事でしたかーー。
1年待てば、離婚して暮らせるのに、何をヘマしてるんだか。
「好きな人いるならちゃんと言ってくださいね。もう、ベッドには来ないでください」
「違う!」
「あたしはお金なんかいらないんですよ。あなたがあの土地を欲しいっていうから、手伝ってやろうと思ったんです。でもこれで、おじゃんですね。さようなら」
「ワカ!」
・・・私はヒロインにはなれなかった。まあ、野良ヒロインだし。
まだ出会って1ヶ月の男に、年下の男に、してやられましたわーー、ははは。
私、まだ24だし。やり直しはきく年だと思うし。
いい思い出でしたわ、うん。
「ワカ!誤解をしている!」
「誤解なんてしてないわよ。見て判断したわよ。どこを釈明する余地があるんでしょうねぇ。ゲスだったとは思いませんでしたよ。アルレイさんは、ちゃんとしたひ、と・・」
・・キスで言葉を塞ぐ手(口だけど)を使われてしまいました。
キス上手いんだよ、アルレイさん。騙されてやるかな?とか思っちゃうくらいに。
「最後にキスして欲しい、そう言われただけだ。彼女にはもう新しい人がいる」
「・・」
すぐ声が出ませんでした。文句を言ってやろうと思ったのに。
アルレイさんの綺麗な顔が、ぐにゃと歪んで見えました。あ、涙だ。
「泣かないでくれ、ワカ。すまない、傷付けて。誓って言うが、浮気はしていない」
「私は心が狭いんです、キスは、ダメだから・・日本人の女なら、大半はえぬじーだからぁーーー」
アルレイさんの腕の中で、私はおいおいと泣き続けたのでした。
元婚約者さんがやってきて、『ごめんなさい』って言って帰って行きましたが。
あんた、アルレイさんに抱きついてましたよね!私が部屋に入ったら、普通離れるでしょ?遠慮しろ!
「許さん、2度と近づくな。ギルラロシュさんに頼んで、追い込んでやる」
思い切り怒鳴ってやりました!お?足早めて立ち去って行きましたね。
美穂ちゃんに泣きつけば、ギルラロシュさんがやってくれるのだ。ふふふ。
「何故ギルラロシュなんだ、俺じゃないのか」
「未練たらしい女と平気で二人きりになれるような男、信用出来ませんーー!」
私は両手でアルレイさんの胸をドン、と突いて離れました。
「いい別れ方をしたかったんだ。これからも仕事で関係することが多いからな」
「知りません。そうだ!私も男友達のところに行ってきます。謝りたいって言ってたし」
これは本当。小学校から一緒の彼が、謝りたいって言っていた。
幼馴染だしね。『俺が怖いなら、人が大勢いるところで会おう。酒は無しだ』って。
美穂ちゃんも一緒で、みんな仲良しだったもん。元の幼馴染の関係に戻りたい。
「それは駄目だ!」
「アルレイさんと違って、私はキスはしないよ?抱きつくこともないよ、多分。ハグくらいかな」
「・・・・・・・駄目だ」
「自分はいーの?」
じろっと睨む。アルレイさん、しょげてます。いつもバリバリなビジネスマンと違う顔です。
でも甘やかしませんよ!!怒ってますよ!!ここは、ビシッと!!
ゆるっと、アルレイさんが抱き寄せてきて、私の首と肩のアールに、おでこをとんと乗せて深く溜息を吐いています。息、くすぐったいです。
「よくない・・・すまない。ちょっとロマンチックにしようとした。上手く煽てて、気分良くさせて終わらせる気だった」
「なんだとぅ?私には、そーゆーことしてくれた事あったかなぁ?」
「でも間違っていた。気分良くさせなければいけない相手は、君だった。確かに彼女の家は、重要な取引先だ。この先揉めようとも、君を優先するべきだった。上手いこと転がそうとして、君に嫌われては本末転倒だった。本当に、許して欲しい」
「そこだぞ、アルレイさん!!いい男ぶるから、彼女は諦めきれなかったんだぞ!!ビシッと振ってやれ!!」
「はい・・」
「大いに反省したまえーー・・ぐす・・でもあの人なんで婚約解消したのに来るの?」
「婚約解消したけど、また自分のところに戻って来ると信じてたんだそうだ」
「ふーーん、分かったぞ。どうせ前も、綺麗な別れ方なんかしたんでしょ!そーゆーことされたら、女は待っちゃうんだぞ!!このカッコ付けめ!反省しろ!!」
「・・・・ん」
ぎゅうと抱きしめられてしまった。ちょっと責め過ぎたか。でも反省しやがれ。
私、今本当に傷ついたんだからね!!泣けるくらい、ヘコんだんだぞ!!
「・・いいか?」
「何を?」
「分かっているだろう?」
軽々と、お姫様抱っこですよ!!
そして、行き先はベッドでしょう?
流されるのか?私。
・・えーーーい、流されてやるーーー!
別れるのは一瞬だから、今は一緒にいる努力をしよう、うん。
結婚式まで後1ヶ月。すぐに出来ないもんなんだなーー。
ま、式には時間がかかるけど、婚姻届はもう提出済み。そして離婚届不受理申出書も出してある。
知らんうちに離婚されてたりするかも知れんからね。ほれ、FBIのストーカーとかに。
式10日前。
結婚式は、このホテルで行うから、準備も楽。選んだドレスは特注です。
美穂ちゃんも半年後に挙式だって。なので二人でドレスを見て。
その後、美穂ちゃん達の部屋でお喋り。
お茶のおかわりを、美穂ちゃんが取りに行って、私はテレビをつけようと、リモコンを探す。
ローボードに綺麗に並べられているリモコンを取ろうとして、側にあるダストボックスに目がいって・・
見てしまった。
あれですよ。避妊の、○ムですよ。きゃー。
ん?
避妊?
あーーーーー!!
私、避妊してもらってないよ?
私は泡食って、大慌てでアルレイさんのところに駆け込んだ。
「アルレイさん!ひ、ひに・・・○ム使ってないよねぇ?」
いきなり言われた所為か、きょとんとしていたアルレイさんですが、『ああ』とうんうん頷いてます。
「結婚を断れないように、既成事実を」
「ぎゃあーーーーーー!!それ、1年経っても結婚解消出来ないでしょ!」
「だから」
アルレイさん、椅子から立ち上がって、こちらにきます。
うわー、アルレイさん、本当にハンサムだぁ・・これで21歳とか。カッコ良すぎる。
ひょ。
ぎゅ、と抱きしめられてしまった。蟻地獄に嵌ったアリの気分ですよ。
「俺の妻にする。ずっとだ」
「ひぇ」
私は変な声出ちゃいましたよ!私の一体どこを気に入ってくれたんです、アルレイさーーん!!
アルレイさんが手に入れたい土地には、綺麗な花畑があって。
そこで、可愛い女の子と出会ったんだそうです。
アルレイさんはとても辛い子供時代を送っていて、その花畑の思い出だけが縋る縁だったんだそうで。
その花畑の持ち主がおじいちゃんで、女の子は私だったのだ。
おじいちゃんの家には3回、夏休みに滞在したことがあった。
その家はこじんまりとしていて、おじいちゃんが大金持ちなんて全然知らなかった。
海外に行っても、日本人のような男の子だったから、他の記憶が混ざって忘れていた。
そういえば・・・ああ、小さな男の子と遊んだわ。
服がぼろっとして、痩せた子だったわ。
「パン食べよう」
一緒にお昼を食べたわ。毎日くる度、パンを渡したわ。
休みが終わりに近づいて、日本に帰る時、あの子は悲しそうにしてたわ。
おじいちゃんのうちには、小学4年、小学6年、中学2年と行ったわ。
おとーさんとおかーさんは呼ばれなかったから、私ひとりで。
でも、4回目は行かなかった。おとーさんとおかーさんを行かせないなら、もう行かないって止めたの。
「君が初恋だった。早く大人になって、会いに行くつもりだった」
一生懸命勉強して、おじいちゃんに認められて、出資してもらって、会社を成功させて・・
「ワカにすぐ言いたかったんだけど・・引かれちゃうかと思って」
「そうだね、正解。今だから、ちゃんと聴けるし納得する」
それでか。
おじいちゃんは、アルレイさんのために、私と結婚させようとしたんだね。
アルレイさんの思いを知っていたからだね。
おじいちゃんの側に、アルレイさんが居てくれたんだね。
「アルレイさん、おじいちゃんを、ありがとう」
「いいんだ。いい人だったよ。君に会いたがっていた」
やっと結婚する理由とか、色々分かった。
「アルレイさんの子供、すぐ出来るかも。仕込みは上々ってね」
なんか、体が不思議なの。検査薬買ってこよう。
出来てた。そりゃあれだけ、げふんげふん。
ティーンズラブコミックは、結婚して御仕舞いが多いけど、もうひとつ目出度いがプラス。
野良ヒロインには相応しいって感じ?
アルレイさん、親子三人で、花畑に行こうね!
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。連載もあるよ。