SIDE:藤代三葉は夢を見る
「ゆーくん、まだ起きてますか?」
「寝てる」
「起きてるじゃないですか……」
「寝てるんだよ、話かけんな」
ベッドの下から、ゆーくんの声が聞こえてきました。
部屋は真っ暗なのでどんな顔をしているのかはわかりませんが、何度か寝返りをしているようで、なかなか寝付けていないようです。
……まぁ、私もなかなか眠りにつけていないわけですが……。
「ゆーくん、そこ、床ですけど寒くないですか?」
「寒くない」
「私の隣来ますか? これ、一応ゆーくんのベッドですし」
「一応も何も……絶対に断る」
「別に私は気になりませんよ?」
「ちょっとは気にしろ……」
はぁー、といつものため息が……いえ、いつもよりふかーいため息が聞こえてきました。
うーん……本当に、気にしないんだけどなぁ。
これが他の人……例えば今話題の金剛さんとかだったら、えーやだなー、と思いますけど、ゆーくんにはそういうのは感じません。
どうしてでしょうね?
ゆーくんなら変な事はしないだろうし、という信用は確かにありますが……うーん……。
それにしても、ゆーくんは本当に私に何もしてきません。
結構自分の容姿には自信があったんですが、実は私はそんなに言うほどじゃなかったのかもしれません。
うむむ、恐るべしゆーくん……いや何かされても困るんですが。
「何唸ってんだよ、藤代」
「いやぁ、ゆーくんって本当に何もしてこないなぁと……実は男の人が好きなタイプなんですか?」
「冗談にしては笑えないやつ!」
「草食系なんてチャチなもんじゃ断じてねぇ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」
「いつの間にか人を勝手にそっちのケがある人と思われるとか、こっちが恐ろしいものを感じたわ」
「へへへ、照れますね!」
「褒めてねー」
呆れかえったゆーくんの声が聞こえてきましたが、なんとなくほっこりします。
ほんと、なんなんでしょうね、これは?
「そろそろ寝ないと、明日まだ学校あるんだからな?」
「えー、もーちょっと話しててもいいんじゃないですかー? ほらほら、恋バナとかしましょうよ!」
「お前は修学旅行中の女子高生か」
「まぁ、似たようなものですよね?」
「だいたい恋バナって前に話したのしかねーし、俺から新しい話題提供とかなんもないからな?」
「ネタの仕入れを怠るなんて酷いですゆーくん!」
「つーかそのゆーくんって呼び方、しれっと定着させようとすんの、やめてくんない?」
おっと、バレてしまいましたか。
夕方以降一回もツっこまれませんでしたし、そろそろ許してくれたのかなーと思ったんですが。
意外とケチくさいですね、ゆーくん。
「お互い、恋バナなんかとは無縁なんだからその手の話題は無理だって」
「おかしい……私たちは青春真っ盛りの高校生なのに、どうしてこんな枯れた……」
「言っとくけど、俺は枯れてないからな? 彼女とかできるなら欲しいからな?」
「え、ゆーくんって彼女欲しい人だったんですか!?」
「だから俺は健全な男子高校生なんだと何度……はぁ……」
意外です。
ゆーくんは「彼女なんていらないぜ」って言いつつ、教室の端っこで寝たふりとかしてる人だと思ってました……なんとなく。
ていうか、女の子に興味あったんですね。
「え、え、じゃあ、好きな女の子とかいるんですか?」
「子供の頃に会った、あのおかーさんかなぁ」
「その人は絶対女の子って年齢じゃない! え、き、気になる女の子とかいないんですか!?」
「うーん……」
え、もしかしているんですか!?
「しいて言うなら……お前?」
「へ……わ、私ですか?」
「うん、お前」
「そ、そっかー、ふーん、ゆーくんは私の事、そんな気になるんだー……」
どうしよ、なんか急に、き、緊張してきたと言いますか……。
あれっ!? これ、危なくない? 同じ部屋で寝てるとか、これ何があってもおかしくなくない!?
ずりずり、とベッドの端へ端へと移動します。
あ、なんか緊張してきたかも……。
「なんつーか……保護者目線っていうの? こいつ本当に大丈夫なのかって見てて心配になるんだよなぁ」
「……それは気になる、の意味がもしかして違うのでは……?」
「そうだなぁ……」
完全に親目線です、これは私のことを女の子として全く見ていません。
一気に気が抜けました……はぁ……ゆーくんにはがっかりです。
……うん?
私は今、なんでがっかりしたんでしょう……?
「馬鹿言ってないでそろそろ寝ろ」
「はいはい、わかりましたー、ゆーくんのばかー」
「なんで俺、怒られてるの……?」
「ふんだ」
*
その夜。
夢を見ました。
「あ、これ夢だな」って自分で分かる夢って時々あるんですが、今日見た夢はまさにそういった夢でした。
夢の中の私はまだ小さい……4歳くらいのころかな?
うん、我ながら将来が楽しみな幼女です。
そして、そんな小さな私と一緒に遊んでいる男の子がいるのですが……。
なぜだか、顔が見えません。
どんな顔をしてる男の子なんでしょう?
でも、見ているだけで微笑ましくなるような光景です。
この2人が、とっても仲がいいのがわかります。
「――くんは、わたしとおかーさん、どっちがすきー?」
「えー、うーん……みーちゃんのおかーさんのほうかなぁ……?」
「えっ」
ちょ、ちょっと! そこは私が好きっていうところなんじゃないんですか!?
あー、もーほら! 私が泣きそうになってるじゃないですか!
「でも、みーちゃんも好きだよ!」
「ほんと……?」
「うん!」
そして、ぱぁ……っと花が咲くように私が笑顔を浮かべました。
ほあああ! 可愛い! 私可愛い! 我ながら私が可愛いすぎてヤバイですね!!
「じゃぁ、おっきくなったら、けっこんしてくれる?」
「おっきくなったらね!」
「じゃあ、やくそく……」
「やくそく!」
「えへへー」
そう言って小指と小指を絡ませて。
*
……そこで、目が覚めました。
「変な夢……だったなぁ……」
……あんな男の子と遊んでいた、という記憶もないので、何がきっかけであんな夢を見たのかもわかりません。
でも、なんでこんなに気になるんだろう?
なぜだか、ベッドの下で気持ちよさそうに眠るゆーくんの顔を見て、イラっとしてしまう、そんな目覚めでした……。





