お隣さんは警戒心がなさすぎる
高校生男子の部屋の、しかもベッドの上でうつらうつらと始めた美少女を前にした時、健全な高校生男子はどのような行動に出るべきか?
以下の問いに応えよ。(配点5点)
①据え膳食わぬは男の恥
②そっと布団をかけ、自分は外に出る
③知るか! 俺のベッドだ俺も寝るぞ!
「……ふむ」
頭の中で、俺たちによる脳内会議が繰り広げられる。
①は論外だ、こんな状況で手を出すなんて、鬼畜の所業である、俺がヘタレなわけでは絶対にない。
合わせて③も非常にヤバイ、藤代と添い寝? あとからどんな目に合うかわかったもんじゃない。
そうなると、ここはやはり②が妥当なところ、だろうか?
こんな時間に外に出て、どこに行くかが問題ではあるが……下手したら、職質からの実家連絡もあり得る。
……だがしかし、俺は選択肢などに縛られない男。
せっかくだから、俺はこの第四の選択肢を選ぶぜ!
「おい、起きろ藤代」
「むぎゅううううぅぅぅぅ!!?」
ぎゅぅ! っと鼻をつかみ、顔を持ち上げるようにしてやる。
するとどうだ、先ほどまで幸せそうに緩み、寝息を立てていた口から痛みに呻く声が上がったではないか!
ぺちぺちと腕を叩き、涙目になる藤代を見て「ふん」と鼻を鳴らした。
男の部屋で寝ようとするとどうなるか、これで骨身にしみただろう。
「にゃ、にゃにふるんれふかあやしゃきしぇんふぁい!?」
「え、何? 何言ってるか全然わかんないんだけど?」
「はらひれふらはい! はらひれふらはい!!」
「ああ、放して、って言ってるのか……ほれ」
鼻から手を放してやると、「うーっ」と威嚇しながら、涙目でこちらを睨んできた。
そんな目で見られても、怖くもなんともないどころか、仔猫が一生懸命威嚇してるようにしか見えない。
「……綾崎先輩、酷くないですか?」
「何がだ」
「人の鼻を摘まむだけならまだしも、あれほんと痛いんですけど!」
「ふん、お前が人のベッドで寝ようなんて馬鹿なことをするからだ」
「だって、眠かったんですもん」
ぷいっと顔を背けて唇を尖らせる様は、完全に子供だ。
「はぁ……あのねぇ……」
そこから滾々と始まる、藤代へのお説教タイム。
主に、ここ最近の警戒心の欠片もない態度についてを中心に。
お前は野生を忘れた猫か、と言わんばかりの今の藤代には本当に困っているのだから。
少なくとも、男の部屋で寝るようなことは絶対ダメだと!
もっと警戒心を持てと、自分の体を守れるのは自分だけなんだぞ! と言うあたりを中心に!
頑張ってみたのだが、どこまで理解してくれたのか……こちらを見上げて、きょとんとした表情を見せた。
「……綾崎先輩、一つ、私も言いたいことがあるんですけど、いいですか?」
「おう、言ってみろ」
「綾崎先輩はあれですか、私のお父さんですか」
「おい」
「なんか、綾崎先輩のお説教が完全に父親目線でびっくりするんですけど! 綾崎先輩って実は年齢、偽ってませんか? 留年とか、してませんよね?」
「失礼な、俺はお前の一個上だつーの! あと、俺はお前みたいな子供、絶対やだよ……心配で仕方ないし」
「どこがですか!」
さっき言ったこと、全部だよ! 全部心配してるんだよ!
はぁ、とため息をつき、額に手をやる。
こいつ、あんだけ言ったのになんにもわかってないよ……。
「なんとなく、お前のお父さんが独り暮らし始める前、あれこれと教えようとした理由がわかったわ……こりゃ心配にもなるよ」
飛び込みの営業とか宗教なんかに気をつけろ、までは言いすぎな気もするけど。
「大丈夫ですって、綾崎先輩は心配しすぎなんですよ、私だって警戒する人、しない人はちゃんと分けてますって!」
「いや、俺だって警戒しろよって話でな? もし今、俺がお前に襲い掛かったらどうするつもりだよ」
「もぎます」
「もぎますか」
「もぎますね」
何を!?
「まぁ、それは冗談として……くふふー、綾崎先輩はそういう事しない人だってわかってるから、大丈夫ですよ?」
「もししたらどうすんだよ」
「まぁ、その時は私の見る目がなかったなぁってだけなんで、私の責任ですよね」
「考え方が男前すぎる……!」
「へへっ、そんなに褒められると照れますね」
「褒めてねーぞ」
「あれっ!?」
家の鍵をなくして部屋の前でうずくまっていた藤代は一体どこに行ってしまったのか。
「誰がお前の部屋なんかに入るか」的なことを言っていたあの頃の藤代が今の自分を見たら、絶対頭をかかえるよな……と、またごろんとベッドに横になった藤代を見て、俺が頭を抱えてしまった。
すらりと長い足をぱたぱたとするのはやめてほしい、目の毒だ。
って、そんなことをしている場合じゃない。
他にやることがあるだろう、と思い直し。
「それより藤代、お前何しに来たのか、忘れてないだろうな?」
「……えーっと、綾崎先輩の餌付け?」
「よし、そろそろ自分の部屋に帰るか、藤代」
「冗談ですって、わかってますってば」
けらけらと笑っているが、本当にわかっているんだろうか?
「自分の事ですからね、自分で一番わかってますよ」
「それじゃあいいけど……まぁ、なら始めるか」
「はい」
「明日以降、藤代の周りにできるようになった女子の壁をどうするかの話し合いを」





