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お隣さんと休日に会おう!


「そろそろか……」


ちらりと時計をみると、時刻は朝の11時、5分前。

普段の土曜日なら、まだ余裕で寝ている時間だ。


だが、今日の俺は一味違う。

今日はこれから藤代と一日、デートとやらをするのだから。


「綾崎先輩」

「おう」


かけられた声に、携帯から視線を上げて返す。

するとそこには、いつもの制服ではない、見慣れない恰好をした藤代が立っていた。

初めて見る私服姿の藤代は、シフォン素材のワンピースにデニムのジャケットと、どちらかというとシンプルな装いのはずが、彼女が着るとまるで雑誌の表紙にでも使われそうな、そんな雰囲気になっていた。


「おはようございます、……すいません、もしかして待たせちゃいましたか……?」

「いーや、待ってない、俺もさっき来たとこだから気にしなくていいぞ」

「そうですか? ……よかった」


ほっと胸をなでおろし、瞳をへにゃりと細めた藤代に、思わずどきりと心臓が跳ねた。

ここ最近、時々藤代が浮かべる無邪気な表情が非常に心臓に悪い。

表情には出ていない……と思う、出ていないといいな。


「? なんですか?」


俺の邪な視線に気付いたのか、ちらりと見上げてくる藤代になんでもない、と返す。


「ふーん?」

「なんだよ」

「いえいえ、いつも制服な私の私服を見て、思わず見惚れてしまったのかと」

「まぁ、確かに新鮮では、ある」

「くふふっ、ほら綾崎先輩、褒めてくれてもいいんですよー?」


そういいつつ、無邪気な笑顔でくるりとその場で一回転する藤代は、まるで年相応の少女のようだ。

……そのあとに腰に手を当て、ドヤ顔を決めてくるところまで含めて。

見た目は美人系なのに、ちょっと子供っぽいところがあるよな、藤代って。

まぁ、そういうギャップもこの少女にとっては魅力的な部分になるんだが。


「綾崎先輩?」

「なんでもない。いつもの制服もいいけど、そういう服も可愛いな」

「そ、そうですか……いやぁ、なんかストレートに褒められると、て、照れますね……!」

「自分で褒めろって言ったくせに……」


ほんのりと頬を赤く染め、持っていたカバンで顔を隠そうとする藤代に、思わず苦笑を浮かべてしまう。


「な、なんですか!」

「いいやなんにも? ……ほら、そろそろ行こう、いつまでもこんなとこ立ってても仕方ないだろ」

「そうですね……わかりました、それでは行きましょう」


そういって歩き出した俺の手に、するりと藤代の指が絡まってくる。

いつもなら袖をつかむ程度なのに、これは一体どうしたことだろうと戸惑い、目を向けると、にこりと微笑んだ藤代と目があい……。


「きょ、今日はデートですからね! わかってますよね綾崎先輩!」

「そ、そうだな、今日はデートだからな」

「だからこれは仕方ないんです、ええそうなんです!」


そう繰り返しながら顔を真っ赤に染める藤代を見ながら、あの日の夕方を、俺は思い出していた。



 *



『今週末、私とデート、しましょう!』

『はぁ?』


一瞬、何を言われたのかわからなかったが、じわじわとその言葉が脳にしみこんでくる。

デート? 誰が? 誰と? なんで??

言っている意味が分からず、思わずぱちり、と瞬きを繰り返して藤代を見ていると、しどろもどろ、と事情を説明しだした。


『ええっと、私と綾崎先輩って、その、付き合ってるわけじゃないですか』

『フリだけどな。それで?』

『クラスの女の子に言われたんです、あの噂とは関係なく、ほんとは付き合ってないんじゃないか、って』

『ほう、それはまたどうして?』

『……私たちが2人で出かけているのを見たことも、噂も聞かないのはおかしい、と』

『なるほど……』


その女の子はなかなかに鋭い。

確かに藤代が街中を男連れで歩いていたら、校内でも噂になりそうなものだ。

この2週間、俺も登下校を付き合っただけで休日は自宅にひきこもっていたので、噂になるようなことは何一つしていなかったわけで。

付き合い始めた高校生男女としては、あまりにも淡泊すぎる付き合いに見えるのかもしれない。

いや、知らんけど。


『で、ですのでっ、一度くらい、で、デート、というものをしたほうがいいのではないかと!』

『……なるほど、フリを深めるには確かに必要なイベントかもしれない』

『なので綾崎先輩、私とデートを、しましょう!』


でも、ここで一度デートをしたくらいで、その女の子は納得するのだろうか?

そこだけは気になる。

だがまぁ。


やる気まんまんの瞳でこちらを見上げる藤代を見て、俺に断る、という選択肢はなかった……。



 *



「どうしました、綾崎先輩?」

「いや、なんでもない。それで、この後どこ行くんだ?」

「さぁ……どこ行くんでしょう?」


どこって、こいつ、まさか……!


「お前、何も考えてなかったな……!」

「考えてたんです、考えてたんですけど……綾崎先輩、私重大な事実に気が付いたんです」

「……なんだよ」

「デートって一体、何をすればいいんですか?」

「そりゃお前、デートってのはだな」

「デートっていうのは?」


はて、デートって一体、何をすればいいんだろう。

検索をかけてみると、『デートとは、日時や場所を定めて男女が会うこと』とある。

つまり、今の状況がまさにデートである、といえる……だけどその先は?

その先はどうすればいいんだ!?


「デートって、なんだろうなぁ?」

「デートって、なんでしょうねぇ?」


忘れていたが、俺たちは2人ともが恋愛経験値0なのだ。

お互いに首を傾げながら、街中へと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] デートって何じゃらほい。 二人して首を傾げちゃってかわいいなあ、もう。 世のカップルの大半がそれっぽいことをしてるだけで、本当にやるべきことは相手のことを知る デート本来の目的はたった…
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