お隣さんは美少女です
「綾崎先輩、私たち、お付き合いしませんか?」
こちらへぐいっと顔を近づけながら、彼女……藤代三葉はそう、告白した。
時間は放課後、場所は夕日が照らす学園の屋上、絶好の告白シチュエーションといえるだろう。
「なぁ……藤代」
そんな藤代三葉に、俺は……。
*
今年の新入生には、とんでもない美少女がいる――――。
これはこの春、2年生の間で話題になった話だ。
いや、2年生だけではなく、3年生の間でも話題になっていたらしいので、この学園全体で話題になった、と言っても過言ではないだろう。
新入生代表として入学式で彼女が壇上に立った時、参加者の間でどよめきが起きた、とも聞いた。
なるほど、確かに納得のできる話ではある。
それほどまでに彼女……藤代 三葉は、美しい少女だったからだ。
少しクリームがかった亜麻色の髪に、日焼けも肌荒れも知らない、透けるように真っ白で滑らかな肌、少し朱を差した頬。
整った目鼻立ちに、長い睫毛に縁取られた、どこか猫を思わせる大きな青い瞳。
全体的に色素が薄く、少しキツ目な目元の印象のおかげで冷たく見えるが、それもまたいい! 睨まれたい! というバカが続出したとかしないとか。
バカじゃないのか。
まぁ、そんな藤代三葉と付き合いたい、仲良くしたいと願う男は数知れず。
あの青い瞳を潤ませながら、白磁の肌を染め、可憐な唇で愛を囁かれれば、どんなに幸福な気持ちになれるだろうか?
……さて。
そんな話題の美少女藤代三葉が今まさに、目の前にいるんですが。
しかも少し瞳を潤ませながら、上目遣いに見つめてくるなんて、夢かな? と思うのも仕方がないシチュエーションだ。
でも。
「綾崎先輩、私たち、お付き合いしませんか?」
「なぁ……藤代」
「なんですか、それよりどうなんですか、まだ答えを聞いていませんよ? はいかイエスで答えてください」
「どっちも同じじゃねーか! ってそうじゃなくて、言いたい事があるんだけど!?」
「なんですかお金ですか残念ながら私にお金ならありませんこれでも毎月のお小遣いを切り詰めるのに結構苦心してるんです諦めてください」
「違うわ! ……そうじゃなくてさ」
「はぁ……じゃあ何が言いたいんですか?」
俺を半ば呆れるような表情で見上げるように見つめる噂の美少女、藤代三葉の目を見ながら、こう、言ってやったんだ。
「告白って、人の胸ぐら掴んで締め上げながらするもんじゃないよな?」
でも……これはちょっと、違うんじゃないかなぁ……?