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最弱召喚士、魔王を倒して運命をみつける物語  作者: はちみつ飴
第一章 ルミッドガード王国 〜出会いと旅立ち〜
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おわりとはじまりとであいと

はじめまして、初投稿です。よろしくお願いします。

 


 ―――この世界は平和だ。

 いや、広義では平和とはいわないのかもしれない。

 けれども、少なくとも私が生きていた世界は平和だった。

 法治国家。

 法によって全てが定められ、裁かれる世界。

 長い歴史の中でこの世界が選び、出した平和の答え。

 この世界では多くの人が例外を除いて寿命まで生き、生を全うする。

 法の中で生き、法の中で死ぬ。それが私たちの世界の幸せ。

 その幸せから少しはみ出した例外の私は、世間からすると少し不幸せだったかもしれない。

 私は生まれた時から幼稚園に上がるまでは健康だったが、そこからゆっくりと身体の機能が弱まっていく原因不明の病を患っていた。

 徐々に身体の力が奪われ、ついには大学へ入学した数か月後から立つことが難しくなり、やがて指すら動かすことができなくなった。

 そんな私は、最後に瞼の力を奪われる。

 白い部屋で寝かされた私は、これが本当に最期なのだと、力を振り絞り、視界に映る両親を目に焼き付ける。


(二人とも、涙で顔がぐちゃぐちゃだよ)


 すでに口は動かず、そんな軽口すらもう言うことはできない。

 世間の幸せから外れてしまった私を最期まで愛してくれた二人。

 どうか、どうかこれからは兄弟たちと幸せに、普通に生きてください。

 ーーーーそれが私の最期の願いだった。





 唐突に目が覚めた。

 いや、それはおかしい。

 なぜなら、女はすでに瞼を開けることすらできないのだから。

 だが、瞼を開けている感覚も瞬きをする感覚もある。

 しかし、真っ暗で何も見えない。

 もしかしたら、これは死んだ後の夢のようなものなのかもしれない。

 そう思ったが、死んだのは初めてなので本当にそうなのかはわからない。

 しかし夢だとして、ここで何をすればいいのだろうか。

 それとも何もしないで待っていればいいのか。

 女はさっぱりわからず、その場に立ち尽くした。


(ん、あれ?)


 女は今の自分に違和感を抱いた。

 何がおかしいのかと考えながら女は自らの身体を見下ろしつつ、その場で手足を動かしてみる。

 そこであることに気がついた。


(あ、立ってるんだ!)


 ここ数か月、立つことすらできてなかったために驚いた。

 真っ暗で何も見えない空間で立っているなんて不安定な感じがするが、ふらつくことなく立てている。

 死後の世界では、生前の身体の不調は関係ないということだろうか。

 生きている時ではないが、少し嬉しい。

 両足で立つ感覚が懐かしくて、女はついその場で足踏みをしてしまう。

 一人で足踏みしていると、頭に直接声がした。


『運命を手に入れろ』

「……え?」


 突然のことだった。

 自分以外には何もない空間に、無機質な性別の分からない声したのだ。

 そして、意味の分からない言葉。

 女は一人で足踏みしていたことを見られたかもしれない羞恥心を抱いたが、それよりも気になることがあった。


(運命? もう死んだのに、手に入れろなんて……)


 その後、少し待ってみたがそれ以上声はしなかった。

 もしかして、幻聴だったのだろうか。


 (もういい、疲れたよ。私はもう終わったんだから、静かに眠らせてよ)


 心残りなんて数えきれないほどあるけれど、両親や兄弟に恵まれたことだけは幸せだった。

 その場に座り込んでうつ伏せにでもなって夢が終わるまで待とう、女はそう思った。

 そう行動する前に、目の前に真っ黒以外の物が現れた。


「扉?」


 目の前に現れたのは、両開きの木製板に簡素なドアノブと、どこにでもある普通の扉だった。

 けれども、不思議なことに真っ暗な中でも扉を視認できている。

 明らかに不思議なもの、得体のしれないものには近づくこと自体が怖い。

 けれども、この扉を開けて外に出ることができたら、この夢から覚めることができるのだろうか。

 女はぼんやりとそんなことを思った。


 (怖い。怖いけど、このままここに居続けるよりはいいか)


 その扉の先が明確な死への道だとしても、進むほうがずっといい。

 死ぬために勇気を出すなんておかしいことこの上ないが。

 大きく音を立てる心臓の鼓動に違和感を抱きながら、ドアをゆっくりと開けた。


「……眩しっ!」

「あ?」

「ん?」


 ドアを開けた瞬間、視界が一気に明るくなって、前が完全に見えなくなる。

 眩しくて、外の世界が見えなくて、でも代わりに二つの声が聞こえた。

 姿が見えないので推測でしかないが、どっちも恐らく男性の声。

 まだ明るさに目が慣れないのに、迂闊にも女は前に進もうと足を動かしてしまう。


「あ。危ない」

「え? 危ないって何がって、うわぁ!?」


 危ないってそんな淡々ということだったっけ、と女が呑気に思っていたら、何かに足をぶつけた。

 目が見えないと足元も見えないから転びやすいということは普通ならわかるのに、この状況についていけていない女は思わず迂闊な行動に出てしまっていた。


(転ぶ、転ぶ!!)


 確実に顔面から転ぶことを予期した女は、咄嗟に目を瞑って両手を前に出す。

 すると、出した手を横から強く引かれて抱き止められた。

 女には顔が痛いという衝撃がまったくなく、代わりに硬い物と温かくて少し柔らかい感触が頬と手に伝わってくる。


「あ、ありがとうございます……」

「……」


 とりあえず、地面に顔面衝突するところを助けてもらった人にお礼を言うも、返ってくる言葉はない。

 どことなく気まずさを感じつつも、目が慣れるまでは不用意に動かないことにし、申し訳なさを感じつつも、そのままでいさせてもらうことにする。

 相手の方も察してくれているのか、見知らぬ女をそのまま抱き止めてくれている。

 明るさに目が慣れてきて、やっと視界が慣れてくる。

 女は自分を抱き止めてくれた人に改めてお礼を言うため、恐る恐る顔を上げた。

 抱き止めてくれたのは、男性だった。


(……うん、男性であっていると思う)


 いきなりの結論、その人はとんでもなく綺麗だった。

 艶がある群青色の髪は、彼が少し動くだけでサラりと流れる。

 傷ひとつ見えない白くて綺麗な肌に、とても整った顔立ち。

 そして何よりも、惹き込まれそうなほど深い蒼の瞳が、その美しさを引き立てていた。


「あ、の……」

「あのさ、見つめ合うのはいいが、お前らはいつまで抱き合ってるんだ?」


 美しさに圧倒され、上手く動かなかった女の脳を、正常に戻してくれたのは横から聞こえた別の男性の声だった。

 その声に今の状況を気づかされ、女は慌てて彼から離れて頭を下げる。


「助けてくださり、ありがとうございました」

「うん」


 抱き止めてくれた男性は、迷惑そうな感じもなく、返事をしてくれる。

 女が下げていた頭を上げると、気づいていなかったことに気がついて思考が停止した。

 まず、色々なことがあって忘れていたのだが、自分が動けている、つまり生きていること。

 触覚、視覚、嗅覚、聴覚の感覚があるということ。

 ここが外で、けれども見たことがない場所だということ。

 色々なことがありえなくて、衝撃的でどうしたらいいのかわからなくなってしまう。


「おい騎士さん、泣いてるぞ、その子。抱き止めた時にその鎧痛かったんじゃないのか」

「え、そんなこと言われても」


 男性二人が少し困ったように、コソコソと話している。

 そのおかげで、女は少しだけ冷静さを取り戻すことができた。

 いつのまにか頬を伝っていた涙も、そっと拭ってから改めて周りを見回してみる。

 女の服装は、紺のジーパンに黒っぽい色のブラウスだ。


(これ、たぶん私の服だ。見覚えがある)


 空は明るく、日も高いので、まだ昼を少し過ぎたくらい。

 石や木製の建物が所狭しに立ち並ぶも、裏道なのか人が歩いていない少し狭いレンガの道。

 そしてここは、飲食店のオープンテラスのようなものだろう。

 木製の屋根の下に、これもまた木製のシンプルな椅子とテーブル。

 テーブルの上には細長い深緑の瓶が数本。

 椅子に片膝を立てて座っているのが、先ほどから話しかけてくる男性。

 その人もまた、恐ろしく綺麗な人だった。

 赤みがかった長い黒髪を後ろで一つにまとめ、長めの前髪からは切れ長の目が覗く。

 服装はかなり動きやすさを重視したもので、着物みたいなものだった。

 モデルガンでも持っているのか、腰にはホルスターが装着されている。

 彼は助けてくれた男性とは違った綺麗さをもつ、まさに麗人だった。

 彼らは突然周囲を観察し始めた人間を怪訝に思ったのか、なんとも言えない表情を浮かべている。


「落ち着いたか?」


 声をかけてきたのは、髪をまとめた男性の方。

 突然、涙を流したり、キョロキョロしだした女が落ち着くまで待ってくれたらしい。


「……はい。ご迷惑をおかけしてすみません」

「俺は全然かかってないから問題ない、綺麗なお嬢さん」

「ありがとうございま……え」


 あまりにも自然に綺麗、と言われて、女は思わず彼の顔を見つめる。

 当の本人は特別なことを言った感じはなく、挨拶のように出た感じである。


(なんか、真面目そうな外見とは違う人……)


 それにしても、綺麗な人に綺麗と言われても、素直に喜べないというもの。

 だが一応、何か言葉を返さなければと女が考えていたら、遠くから誰かが走る音が近づいてくる。

 重い金属が硬い物にぶつかる音と、ガシャガシャと上下するようなリズムの大きな音。

 やがて、角を曲がって姿を現したのは、白に青の紋様が入った鎧を着た、所謂“騎士”と呼ばれるだろう男性だった。

 その表情は硬く、走ってきたためか額に汗をかいている。

 その彼は女にとって信じられない単語を発した。


「団長! “魔族”が街に侵入しました! 無差別に人を襲っています!!」



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