~屋敷にて~
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港町の外れの一角に、それほど大きくは無い平屋の屋敷があった。
塀に囲われ、中の様子を窺うことは出来なくなっている。
屋敷自体はどこにでもあるような建物になっているが、中の構造を知らないものが足を踏み入れたら最後、無事に出てこれる保証が出来ない屋敷でもあった。
そんな屋敷にノンビリとした足取りでやってきたのは疾風だった。
気楽な様子で屋敷の門を通り抜け屋敷の中に消えていった。
「ただいま戻りましたぁ。統領ぉ」
「………」
疾風が屋敷の奥の一室に足を踏み入れると瞑目していた男がゆっくりと顔を上げた。
若かりし頃はさぞ女性にモテたであろう端正な顔立ちの男性は、和馬の父親で百鬼竜馬だった。
「…報告を受けよう、疾風」
「はぁい。統領の指摘通り【影】と【草】の若いのが勝手をしてましたぁ。その件に関わってた奴の移送は明日か明後日の船でこっちに届く手筈になってます」
「そう、手間取らせて悪かったね。疾風」
「【根】の奴らは知らなかったみたいなのでぇ、俺の方で注意を促しときましたぁ」
【ヤマト国】に属する【暗部】の一角として【隠密衆】が存在している。
百鬼一族が統領を勤める【隠密衆】は三つの部隊に分かれていてそれぞれ役割が違う。
【影】は少数精鋭の実働部隊。
【草】は諜報部隊。各国に散らばり、情報収集などを行う者達。
【根】は各国に根付き、その地に住み着いて【草】や【影】のバックアップを行う者達。
彼らを取り纏めるのが、代々百鬼の一族だった。
「ありがとう、疾風」
竜馬がそう言うと疾風は嬉しそうに、にこぉと笑った。
「あ、そうだ。大将が帰って来てますよぉ」
「…和馬が?」
「サイラス国の伯爵令嬢の護衛で来てぇ、後で顔を出すって言ってましたぁ」
「…そうか、随分と久しぶりだな」
竜馬が口元を綻ばせると疾風は和馬の恋心を言うべきか言わざるべきか少し躊躇った。
そんな微かな疾風の揺らぎを機敏に感じ取った竜馬は促すように疾風を見た。
「あー…と、大将なんだけどぉ」
「和馬がどうしたんだい?」
「一緒に来てるお嬢さんの事が、どうも気になるみたいでぇ…」
「おや、面白そうだね。どんな子だい?」
「可愛らしいですよぉ、好奇心が強いみたいで【ヤマト国】の事を大将に質問攻めしてたりぃ」
疾風は船で質問攻めされている和馬を見ていたので、それを思い出しながら言えば竜馬は面白そうに聞いていた。
「それじゃあ、和馬に『一緒に来るように』と伝えてもらえるかい?」
「わかりましたぁ、伝えて来まぁす」
疾風は頷くと、スッと立ち上がり足音をさせずに部屋から出て行った。
それを見送り、竜馬はまた目を閉じて瞑目した。
「って事で、統領が一緒においでって言ってたよぉ」
部屋に用意された食事を食べている最中にベランダの方から音も無く現れたハヤテ様に目を瞬かせているとお願いして一緒に食事をしていたカズマ様が呆れたようにハヤテ様を見て言った。
「何を企んでいる?」
「企むなんて失礼ぃ。俺は統領に見たままを伝えただけぇ」
「成程…ちょっと顔を貸せ、疾風」
そう言ってカズマ様はハヤテ様を引き摺って部屋から出て行った。
私はそれを見送り、目の前の食事に戻ることにした。
水揚げされたばかりの新鮮な魚の御造り、海草の酢の物、焼いた貝、そして極めつけは、真っ白な輝きを放つお米だろう。
私は御造りから刺身を取り、しょうゆを付けて、真っ白なお米に乗せて一緒に口に運んだ。
あぁ、美味しい!!
それに、何とここの食事の中に私の大好物である『茶碗蒸し』まであるのだから幸せすぎる。
私は夢中でパクパク食べていると、何故か疲れきった様子のカズマ様と苦笑いを浮かべているハヤテ様が戻ってきた。
「どうかなさいまして?」
「…いえ、大丈夫です」
「お嬢さんは、気にしないで大丈夫だよぉ」
ハヤテ様にそう言われ、カズマ様が同意するように頷いたのを見て私はそれ以上聞くことを控えた。
「疾風、お前、普通言うか? 親に子供の恋心を…」
「ごめんって大将ぉ、俺、孤児だからそう言うのわかんないんだってぇ」




