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生存戦略

世界は、ひとつでは無い。

この正解の裏側、あるいは別の時間軸、あったかもしれないという空想の世界。


その中の一つに、厄災が蔓延する世界がありました。

その世界には、実在する神と魔王が戦っているのです。


その戦争とも呼べる激戦の中、戦うすべを持たぬものたちがおりました。

例えば、ヒト。

ヒトは、その他の種族と比べれば、数も多いし、街や都市や国を創っては、その文明を後世へ繋げ、急速な発展を遂げています。


例えば、エルフ。

寿命は、平均1000歳。森や自然と共存することを選んだエルフ達は、森に川に海に空にあらゆる所で暮らしていました。


この他にも多様な種族が入り乱れるこの世界は、無闇に命を散らす神と魔王をどうにかしようとしました。

結果、行われたのは、彼らを打倒する存在の召喚。

勇者召喚です。



「で、その勇者召喚は、今は昔の話。と言うことか?」

その問いは、長い耳に吸い込まれ、程なくしてその長い耳を持つものは居心地悪く床の模様に視線を逸らした。

「聞いているのか?ミーシャさん?」


イラつきを隠さない詰問は、鋭い目付きと合わさって、いたいけな少女をいじめているとしか思えない感じだ。


「そうか、分かった。間違えて俺をこの世界に召喚してしまったのは分かった。

勇者召喚も500年も前の話ということも、使い魔召喚で何故か勇者召喚してしまったことは、理解しよう。

だから、今すぐ俺を元の世界に戻してくれ、せっかくの半熟目玉焼きが冷めてしまっては、美味しくないからな!」


「っひ!」


短い悲鳴は、ミーシャと呼ばれた少女とは、別の人物からだ。

「ク、クロイ殿…その…なんとも言いにくいのだが、ミーシャの行った勇者召喚というのは、魔王の持つ心臓が媒介となって行われる帰還魔法出ないと帰れないのだよ…だから……その…」


「……はぁ〜もういいよ…そういう展開は、何となく分かるし…」

緑と黄色の混在した長い髪を後ろで緩やかに縛った細長の人だ。

耳が長くない事と言い、彼は人間なのだろう。

彼は、ミーシャの先生だという。


「……私は、使い魔を召喚しようとしただけだ…」


ボソッと出たその言葉に、またも怒ってしまいそうになるのをぐっと堪える。

彼は、組んでいた手と諦めと共に閉じていた目を弛緩させる。

「もういいよ。とりあえず、何か食べるものはあるか?

朝食がまだなんだ。」


「直ぐに、用意するぞクロイ殿!」


居ずらくなった状況で、ミーシャの先生は、そそくさと部屋から出ていく。


「んで、ミーシャさん。これから俺はどうしたらいいと思う?」


非現実的状況に、考えを放棄したい彼、クロイは、今後の事すら投げ出したい気分をそのまま口にしていた。


だが、彼も本能的に薄々分かっていた。

いわゆるドッキリでないことも、これが現実だということも、帰れないことも、目の前の同い年位の綺麗な彼女が原因だろうが仕方の無いことも……その上で諦めたのだった。


「知るか…」


綺麗ではあったが、どうしても性格の面で愛称の悪そうな彼女ミーシャは、水色のローブを両手で握ってずっとそっぽを向いていた。


「そうか……」


クロイは、ミーシャの返答を聞き流していた。


椅子に深く持たれかかったクロイは、嫌々考えを改めて整えようと対面に座るミーシャから視線外し、辺りを見回す。


一言で言って、オーソドックスな理科室だった。

8つの長方形のテーブルと2つの出入口。今は昼間だろうとも思えるが、日差しの入らない四角い部屋の片側一面の窓。

首を反らせると、黒板と思しきもの。


視線をミーシャの後ろへ向けると魔法陣のようなものが書かれた大小様々な紙が貼られた掲示板だった。


考えなんてまとまらない。


「そんなに珍しい?」


こっちが被害者なのになんでコイツが被害者ヅラやねんと思うクロイだが、ミーシャをみてもう一度ため息をつく……そして、かわいた声が返答する。


「いいや……異世界とは思えないほど似たような作りだと思ってさ」


「あっそ。」

「話を続けようという気はないのか?それとも喧嘩売ってんのか?」

「別に。ただその……」

「…なんだよ……」

「ごめんなさい…私のせいで、あなたを私たちの世界に召喚してしまった。本当にごめんなさい。」


やっと謝罪の言葉を聞けたかとクロイは、憤りに区切りを付けた。

そして、再三のため息。

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