話せない父。
原見灯代子さんと一緒に遊ぶようになってから、娘は一層明るくなった。
「お父さんただいまー!」
「おかえり、知波」
「今日ね、灯代子と積み木で遊んだんだよ! お母さんのいるところまで届くように、高ーく積めたんだよ!」
「…………そうか、それはよかった」
私の妻は、娘がまだ小さい頃に…………いや、この話はよそう。色々と思い出してしまう。娘にもはっきりとは言っていないし、その事実を言葉に紡ぐのは、私が耐えられない。「娘が悲しむから」……なんてただの言い訳だ。現実逃避しているのは、私の…………。
……ともかく、今は私と娘の二人暮らし。私はいわゆるシングルファーザーというやつだ。
「夜ご飯は野菜炒めでいいかい?」
「ピーマン入れないでね!」
「ああ、もちろんさ」
私の言葉を真実としている娘は、中学二年生にしてはやや子どもっぽく育っていった。もちろん、娘はどんなに年を重ねても、私の子どもに変わりはない。しかし、このままでもいいのか……私はどこまで現実を受け入れ、伝えられるのか……探り探りの日々を続けている。
原見灯代子さんというのは、娘の通う私立の中高一貫校「星花女子学園」の学食で働くパートさんだ。確か24歳……だったか。いつの間にか仲良くなったらしく、二人でお互いの家や公園でよく遊んでいる。
灯代子さんの家は母親が蒸発し、自身も男に弄ばれた過去があるらしい。彼女本人は何故かよく分かっていないようだが、父親の一渓さんからそう聞いた。同じ片親同士、なにか助け合えることがないか……これも模索中だ。いきさつが違うとはいえ、私も彼も同じ境遇。親一人ではできることがどうしても限られてくる。だからこそ、手と手を取り合っていきたい。そう考えている。決して悪くない関係が築けるはずだ。普段はいくぶんか幼く感じる娘も、灯代子さんの前では同い年か、もしくはそれよりも年上のように見えてくる。不思議なものだ。