母親は星になったとさ。
これは、知波の父親から聞いた話。
知波には、母親がいた。
優しい優しい、自慢の母親だったらしい。
知波をよく褒めたらしい。
知波に美味しいご飯を食べさせていたらしい。
とても美しく、綺麗な人だったらしい。
でもある日、知波の母親は死んだ。この世から、いなくなった。まだ幼い彼女を残して。
突然母親と会えなくなった知波は、彼女の父親に聞いた。
『ねぇ、お母さんは?』
父親は、こう答えた。
『お母さんはね、お星さまになったんだよ』
そう聞いてから、知波は「お星さまになって空にいる母親」に届くように、空へ呼び掛けるようになった。
自分の伝え方が悪かったのかもしれない。自分の言葉が、娘の時間を止めてしまったのかもしれない。知波の父親は、私にそう懺悔した。
彼は、後悔していた。
知波はいつも、母親が眠っているところと反対の方へ向かって呼び掛けている。
そこに君のお母さんはいない。
上を向いて歩いてはいけない。
下を見て、現実を知りなさい。
そんな残酷なことを言える人間は、知波の周りにはいなかった。私を含めて。
おかあと出会ってから、知波の呼び掛けは良くない方向に加速した。
もう、二人の心はどこか遠くへ行ってしまった。
連れ戻すことは、もう叶わない。
そうしてしまえば、二人とも燃えカスになってしまうから。
だから私は、一歩引いて置いていかれることしかできないんだ。