#7
眠いです
「―――――はっ!」
カーテンから差し込んでくる光に照らされて、俺は目を覚ました。
そしてそのまま、枕元に置いてあるスマホへと手を伸ばし、それの電源を入れた。
その推しキャラ(ヤンデレ)のホーム画面に映し出されたのは―――――
『2018年4月22日』
「…………き…………キタァァァァァァァァ!」
俺は映し出されたその文字を見ると、ベットの上で大歓声をあげた。
ついに来た!俺の時代!
……やっぱ死なないで迎える朝は最高だぜ!これのために俺は今まで頑張ってきたといっても過言ではない。
ヤベー、めっちゃ平和。トラックも通り魔も不審者も筋肉もりもりマッチョマンの変態も人殺しのバナナの皮もないって平和。これほど平和なことがあるだろうか。いや、ない。
……あっ、喜びのあまり反語使っちまったぜ。テヘペロ。
そんなワケで、無事4月22日の朝を迎えた俺は、上機嫌に学校へ行く準備をしていた。
……え?昨日あの後何があったのかって?
……昨日は何もなかった……いや、させなかった。告白を受け入れてもらって感極まったアイツ…………アイツ…………あいつ…………あれ、名前なんだっけ?
そういや聞くの忘れてたわ。今日聞いとこ。
……で、まあアイツな。アイツが最初は俺んちに挨拶に行くだのダメならこれからデートに行くだのうるさかったので、今日はやめてくれと必死にお願いしたのだ。
流石に俺も休みたかった。……肉体的には大丈夫でも精神的に結構キテたからな。
……いやだって計40回以上だぜ、死亡回数。流石にキツいっすわ。
そんなワケで彼女に必死にお願いして、俺は家にさっさと帰ったから、特に何もなかったのだ。期待してた皆、許してヒヤシンス。
んー、しかしなー……あんまり恋人出来たって実感無いんだよねぶっちゃけ。
……だって、告白断ったら無限ループだったからって理由で告白を受け入れたしね。まあこれから好きになってけばいい……いや、まず好きになることがあるのか?ってのが現状だしな。
……まあ、そんなことはこれから考えてけばいいか。今はこの平和な日常を満喫しようじゃないか!
「おはよう、母さん。」
「……あら、おはよう。今日も早いわね。」
準備を終えてリビングへ向かうと、いつも通り母さんが朝食を作っていた。
「……調子はどう?昨日おかしかったけど、大丈夫なの?」
と、心配そうな目で母さんが俺のことを見てきた。
…………あっ、そう言えば俺、昨日頭おかしくなってて母さんに抱き付いてたんだったわ。あの時はどうせ死ぬから~、とか思ってたけど、今考えるとめっちゃ恥ずかしいな。取り敢えず謝っておくか。
「大丈夫だよ。……昨日は変なことしちゃって悪かったな。」
「……そう。気にしてないわ、大丈夫よ。」
母さんはそれに対して、気にしていないと手を振りながら答えた。
「そうか。……ところで、今日の朝飯って何だ?」
「ふふ…………当ててごらん?」
妖艶な笑みを浮かべながら、母さんが言ってきた。……くう~、俺、日常、過ごしてる~。
今までは答えが分かってたからつまんなかったが、今は違う。何であるかが全く分からない。その中で、自らの研ぎ澄まされた嗅覚のみで朝食を当てねばならないのだ。
「…………チーズパン?」
「……あ~。おし……くはないな。正解は……チーズドリアでした~。」
クソッ!外した!まさかチーズドリアが来るとは想定外だった。
「いや~、昨日まさか当てられるとは思わなかったけど、今日は私の勝ちのようね。」
「クソッ!……俺の連勝記録が……」
そんなワケで、運ばれてきたチーズドリアを食べながらテレビを見た。
そしてドリアを食べ終えて、学校へ行く準備をした。
ここまで平和に来たなー。ってことはこの後も何もなく日常が送れるってことだよな。あっはっはっはっは。
……と、俺はそんなことを思っていた。
しかし、靴を履いて勢いよく開けた玄関の扉の先には―――――
見てない。俺は絶対に見ていない。
俺の彼女がヤンデレに首根っこ掴まれて掴み上げられてる状況なんて見ていない。
……そうか!疲れすぎだな。疲れたせいで幻覚が見えたんだ。そうだよな?そうだって言えよ。
今さっき空けかけて勢いよく閉めてしまった扉を恐る恐る開くと―――――
「よーちゃん。この女、誰?」
今だ彼女の首根っこを掴んで物凄く怖い笑顔でゆーちゃんは俺のことを見ていた。
掴まれている御本人様は冷や汗だらだら流して立っていた(正確には首根っこ掴まれてるから少し浮いている。)。同情はしないよ。
…………どうやら俺の日常は、もうしばらくの間カオスな状態が続きそうだな―――――