#6
ちかれしぼむ
「…………好きです。……アナタのことが、好きなんです。……付き合ってください。」
風に吹かれているピンクの髪をなびかせながら、その少女は言った。
それに対して俺は―――――
「…………すいません。よく聞き取れませんでした。」
……あっやべ、思わず言葉が聞き取れなかった人工知能みたいな返答しちまったぜ。
……ヤバい。めっちゃ、「は?(威圧)」みたいな目で見てくるんだが。怖いからやめて。……いえ、やめてください(精神的に)死んでしまいます。
……あの衝撃的な告白の後、周囲の目を気にした俺は、彼女の手を引いて屋上まで向かっていき、今に至るのだ。
いやあの時の教室はマジでやばかった。
時が止まって……いや、凍りついていた。
特に、「一緒に帰ろう」と俺に言うために近付いてきたのであろう大地など、その場で餌を食べている鯉のように口をパクパクさせていた。
……まあそんな空気の教室の中に豆腐メンタルの俺がいれるワケもないからここにいるんだがな。
屋上ならそこまでのことがない限り滅多に人が来ないからな。無難な場所を選んだと個人的には思うぞ。
……そう言えば余談だけど、本当の学校だと屋上って危ないからあんまり開放してないのよね。
……え、なら何でお前の学校は開放されてるのかって?
…………はっはっは!それはこの話がフィクションだからに決まってるじゃないですか!じゃなかったらこんな美少女が俺に告白してくるはずないじゃないですか!……そうだよな?そうだって言えよ!
……はい、現実逃避はこれ位にして真面目にやります。
……う~ん……ぶっちゃけ、告白されたのは嬉しいんだけど……ヤンデレじゃないのはちょっと……いや、かなりなぁ……マイナスだよなぁ。
どんなに美少女であってもヤンデレでないなら0点スタート(減点方式)って、これヤンデレ好きの常識だから。……常識だから!(二度目)
ま~、そんなわけでね、申し訳ないんだが今回はお断りさせていただこう。
……少なくとも、この死のタイムループの中にこんな隠れ癒し要素?があったって分かっただけ良かったな。これ以上母さんに癒しを求めて甘えすぎると、本当に危ない扉を開きそうだったからな。
「……すまん、俺は君と付き合うことができない。」
「そんなっ……もしかして、好きな人がいるんですか?」
「ああ……(二次元に)いる。」
「その人は……どんな人なんですか?」
「……(モニター越しに)近くにいるけど、遠くにいる存在……かな。いつもは(ヤンデレだから)愛情の表現が異常なんだけど、(絵師さんと声優さんとシナリオライターさんのおかげで)可愛いんだよ……すごく。」
「そう……ですか……ははっ。私、バカみたいですね。そんなに強い想いをもった相手がいる人に告白するなんて。」
……うわー、すっげえ泣いてるよ。笑顔無理矢理作ってるけど涙ボロボロ流れてるよ。
……何か、すまんな。……だが、俺は……彼女はヤンデレじゃないと嫌なんだ!ヤンデレこそが我が人生なんだ!
……やべーよー。気軽に「君ならもっといい男が見つかるさっ!」なんて言える状況じゃねえよ。
……どうする?「実は好きな人がいるって嘘でした。テヘッ」っていって謝るか?
……やめとこ。バッドエンドの未来しか見えない。
「……じゃ、じゃあ俺は帰るから。君も……遅くならないように帰りなよ。」
「うん……じゃあね。」
やべーよー。めっちゃ悲しそうに俺のこと見てくるよー。
……だが俺は、ヤンデレ以外の女は―――――おん?おんおん?何で屋上にエレベーターがあるんだ?こんなとこにエレベーターなんてないよな?
……まあいいや、使っちまえ!
そう思い、俺はエレベーターに乗り込んで、一階のボタンを押した。
「ふう…………」
緊張から解放された俺は、ゆっくりと息を吐きながら、心を落ち着かせ、肩の力を緩めた。
しかし直後に、エレベーターは強い衝撃に襲われた。
「……うおっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、制御を失ったエレベーターは、あり得ないほどの速度で下へと落ちていった―――――
*****
「―――――…………好きです。……アナタのことが、好きなんです。……付き合ってください。」
気が付くと、俺はまた屋上に立って、彼女の告白を聞いていた。
…………なるほど、今回からここスタートになったのか。……ま、朝からよりは全然楽だな。
……さて、今回からはさくさく行くぞ。
「……すまんが、今は誰とも付き合うつもりはない。じゃ、そういうわけで。じゃあな。」
魂を抜かれたように呆然としている彼女をスルーして、俺は歩きだした。
前回エレベーターがダメだったからな。今回は階段から行こう。
階段への扉を開けて、一階へと向かって降りていった。
「は~…………うおっ!……ぐへえっ!」
しかし、俺は階段に転がっていたバナナの皮に滑って転び、頭を何か(生命的に)ヤバい物にぶつけてしまった。
*****
「―――――ぐへえっ!」
「―――――うぼぼぼぼ!」
「―――――うぎゃあっ!」
「―――――あばばばば!」
「―――――ぎょあっ!」
「―――――ガハッ」
「―――――おろろろろ。」
…………
……………………
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*****
「―――――…………好きです。……アナタのことが、好きなんです。……付き合ってください。」
……くっ、軒並みダメか。
十二大戦の鼠君ばりにあらゆる事象を試してみたが、全て失敗し、死亡してしまった。
……くっ、やはり告白を受け入れるしかないのか……。
少女は俺に何かすがるかのように潤んだ瞳で俺のことを見てくる。
彼女は、別世界線の彼女が俺に軒並み振られていることは全く知らないのだろう。
何かを期待するように……しかし、俺にはその期待が何かは、もう分かっている。
……仕方ない!これで死んだら神様分かってんだろうな?
「……分かった。いいよ。付き合おう。」
「…………うん、そうだよね。知ってた…………え?今なんて言ったの?」
「付き合おう、って言ったんだよ。」
「ウソ……いや、ホント!?」
「本当だよ。嘘ついてどうすんだよ。」
「…………や、やったあ!嬉しいよー!」
「…………うおっ!」
こいつ、オッケーしたらいきなり抱き付いてきやがった。
「あの~、抱き付くのはいいんですけど、今ここでは…………」
「……ダメ……なの……?」
そんな目で見ないでください俺が悪者みたいじゃないですか。
「…………いいよ。」
「分かった。……ありがとう。」
そう言って彼女は俺のことを強く抱きしめてきた。
俺もそれに応えるように、強く彼女を抱きしめた。
しかし―――――
…………クソッ!俺のヤンデレが……俺のヤンデレが……。……何故だ……何故なんだ!何故ヤンデレが最初の彼女じゃないんだ!……くっ、俺は諦めないぞ!……必ずヤンデレ彼女を手に入れて、こんな生活とおさらばするんだ!
……という、こんな俺の悲痛なまでの心の声は、誰にも届かないのであった―――――