主人公、農場を作る
人間に最低限必要なもの。それは衣食住だ。
まぁ、最悪は衣類も住居もいらないのかもしれない。裸でも人間は生きていけるし、定常の寝床が無くても生きていけないとは言えない。だが、それは社会性を持った人間らしい生活とは言えない。
衣食住を安定させること、それはカイト領の最低限の社会性を保つインフラストラクチャーを構築することに他ならない。だから今日もそのインフラストラクチャー構築のために皆汗をかく。
衣食住のうち、住に当たる住居についてはある程度めどが立った。
あとは計画通り今のペースで住居を作っていけばいい。鉄を手に入れたドワーフたちによって生み出されていく道具もそれに一役買うことだろう。今彼らはミヨと一緒に炉を作っている最中だ。
「というわけで、次は食を何とかしないとな。」
今のカイト領の食料事情は最悪といっていい。いずれの食料も探索や漁によって得られるもの。つまりは略奪的な方法で得られている。今のところ、この自然豊かな亜熱帯の森によってそれは賄われているが、いずれ限界が来る。今の状態は謂わばラッキーなのだ。
さて、人間にとって必要な三大栄養素は蛋白質、脂肪、炭水化物の3つだ。それにミネラルなどの無機質とビタミンなどが加わる。今のところ猪や川魚のおかげで蛋白質と脂肪はまだ接種できているほうだと思う。
だが、主要な炭水化物の補給源であるバナナとタロイモは見つけるのが難しくなり始めている。だからまず解決するのは炭水化物だ。
「というわけで、デューク、バナナとタロイモの畑を作ろう。」
今俺たちが取れる植物のうち、炭水化物を豊富に含み主食として成り立つのはこの二つだ。しかも、ビタミンやミネラルなどを豊富に含んでいるから一石二鳥というやつだ。
ただ、小麦や米に比べて保存がきかないから、その点は考えなければならない。
「あの黄色い果実のことですかい?ああ、あれバナナっていうんだな。甘くてうまかったが、あれが毎日食べられるんだったら畑を作る意味はある。」
デュークが賛同してくれた。しかし、興味はバナナに行っているようでタロイモについてはコメントがない。
「デューク、タロイモもだぞ?」
「こういっちゃあなんですが、バナナだけでいいのでは?タロイモもうまいが、あれは掘って調理するのが面倒というか。」
確かにバナナは収穫も食すのもタロイモに比べれば楽だろう。だが、1つの作物にゴールインするのは非常に危うい。
「それはそうだが、バナナの栽培に失敗したとき食べるものがなくなる。そういうリスク分散という意味でタロイモの栽培は必須だ。」
「ああ、そういう意味ですかい。承知しました。では、探索に行く奴らにバナナの苗とタロイモを持ち帰るように伝えておきます。」
「ああ、そうしてくれ。そして今日あたりには家用の木を伐採してるビシスの手も空くだろうから、彼女と一緒に畑にする土地の木を伐採してしまおう。だから、探索隊の中から人選して10名程度見繕ってくれ。」
「相変わらず人使いがあらいですなぁ~、カイト様は。」
「・・・まぁ、俺も頑張って人員補充するからさ(汗)」
「くしゅん!」
ビシスは悪寒がしてくしゃみをした。ちょうどウィンドカッターの魔法を放つところだったので、人間の兵士の鼻のわずか先をウィンドカッターが通り過ぎて行った。
「ひっ、ひぇぇぇぇ」
「あっ、ごっ、ごめんなさいっ!」
慌てふためくビシスだった。
「あの悪寒は何だったのかしら?」
彼女がその正体に気づくのはその数時間後だった。
というわけで、俺は今日も兵士製造に勤しむことにした。今日もエルフ3体に残りの10PtのMPを使ってハーピーを作る。エルフはビシスに管理させ、ハーピーはライラに管理させることにした。
<カイト領の人口(5日目)>
王:1名(♂)
ガイド?:1名(♀)
従者:1名(♀)
ドワーフ:10名(♂)
エルフ:6名(♀)
ハーピー:4名(♀)
人間:300名(♂:150 ♀:150)
-------------
合計:323名(男:161 女:162)
なんと、ここにきて男女の数が逆転し、女性の方が数が多くなった。まぁ、ムサイ集団よりはいいだろう。
「おぉ~、カイトさん、兵士の数も順調に増えてますねぇ!」
と、最近出番がなかったシーラが声をかけてきた。
いや、兵士を順調に増やしていっているといってもまだまだなんだけどね。そもそも、MPが100しかないというのはつらい。ほかのガバナーとういのはどの程度MPを持っているのかが非常に気になるところだ。
「なぁ、MPって増えないんだっけ?」
そう、MPが増えてくれれば開発はもっとスピードアップできる。勿論、兵士が増えればそれだけ食料も住居も必要になるが、いかんせん今のカイト領は人出不足だ。
「ああ、増やせますよ?あれぇ?言ってませんでしたっけ?」
「は?」
「いや、だからぁ、レベルアップすれば増やせますよって。」
「・・・レベルアップとか初耳なんだけど?どうすればレベルアップするんだ?」
「ランク付け可能な生命体を殺すことですねぇ。ガバナー、ガバナーの兵士、ガバナーじゃなくたってこの世界の人間、亜人、あと魔獣、こういった存在を殺せば経験値が得られますから、それでレベルアップしていくんですよ?あと、別にカイト様が自ら殺す必要はありません。配下の者がやってもカイト様に経験値が入ります。」
Can you understand? 的な?
なんか小ばかにしたような感じで自信満々にしゃべってくるシラーにチョップをかましたのは言うまでもない。
「いっ、いったーい?」
「そういう大事なことはもっと早くいえ・・・まぁ、とはいえ、そんな余裕はまだないんだけどなぁ。兵士生産しても皆がやってるのは生産活動であって兵士本来の戦闘活動ってのは全くできていないな。」
「まぁ、多かれ少なかれ、ほとんどのガバナーの初期はそんなもんだと思いますけどねぇ。」
「おいおい、ミヨやビシス、それにデュークと相談だな。貧弱な俺じゃあ経験値稼ぎできないだろうし。」
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁーくしょん?」
デュークが凄まじい悪寒を感じ、くしゃみをしたのは言うまでもない。
丁度シーラに会ったところで、俺はさらに質問を続ける。
「なぁ、ゴーレムって作れないのか?」
「ゴーレムですかぁ?勿論作れますけど、急にどうしたんです?」
「作れるんかい・・・ああ、もっと早く聞けばよかった。これは俺の勝手な考えだけど、俺の知ってるゴーレムっていうのは飯を食わずとも延々と命じた作業をしてくれる存在なんだよな。今カイト領では深刻な人手不足。ほら、ゴーレムが活躍できそうだろう?」
「ああ、なるほどなるほど。それはいい考えですねぇ。それにその考え方は間違ってないですよ?ゴーレム作ります?」
随分と軽く言ってくれる。
「で、どんなゴーレムが作れるんだ?あと、そのためのコストも気になる。」
いくらゴーレムを作る方法があったとしても、そのコストが途方もなければ諦めざるを得ない。人手不足もさることながら、資材不足も深刻なのだ。
「まぁ、オーソドックスなのはストーンゴーレムとかアイアンゴーレムですけどね。ストーンゴーレムなら石材が1トン、アイアンゴーレムなら鉄が1トンは必要ですねぇ。」
「はい、却下」
「なっ!?」
俺は深いため息をつく。
「お前なぁ?今のカイト領には石1トンもなければ鉄1トンもないぞ?ここが山の麓とか川の上流だったら石の1トンも手に入るだろうが生憎ここは森の中。それに鉄はあったとしても別のことに使いたい。他にないのか?例えば、泥とか木とかで作れるとかさ。」
「ああ、木でも作れますよぉ?」
ああ、こいつと話していると本当にイライラさせてくれる。俺は早速アイアンクローをシーラにお見舞いしてやった。
「ちょっ、いたっ、ギブ、ギブギブギブ~、こるぁ、ギブって言ってるだろぉ!」
「木なら腐るほどかるから、それをさっさと言えってーのっ!」
仕方ないからアイアンクローを外してやった。
「それで、木で作るってことは、あれか?ウッドゴーレムとでも言えばいいのか?あと材料は?」
「はぁはぁ、ぜいぜい・・・名前はその通りウッドゴーレムですよぉ。で、材料は木材1トンです。」
「楽勝じゃねぇか・・・」
木なら腐るほどあるからな。
「で、木を集めてどうするんだ?」
「ああ、それはですねぇ・・・」
シーラは胸元からまた一つ宝玉を取り出した。こいつの胸元はあれか?ドラ○モンみたいな四次元おっぱいなのか?
「これは、アーティファクトコアというんですぅ。ゴーレム生成には集めた材料を錬成して人型の形に整形し、そこにこのコアを使ってゴーレム用術式を付与すれば完成です!」
ふぅん?つまり、錬成魔法が使えるミヨの協力は必須だな。だが、待てよ?
「それってさ、簡単に言うと物質に魔法を付与してくれるってこと?つまり無系統魔法の付与魔法かなにか?」
「ええ、そうですけど?」
「つまり、付与魔法が使えるエルフとかいれば、その宝玉が無くてもゴーレムを作れるってこと?」
「まぁ、そうですねぇ。このアーティファクトコアはあくまで魔術式を付与するだけの代物ですからね。ああ、ゴーレム用術式はあらかじめコアにインプットされていますけど、それ以外の術式はインプットされていませんので、今はゴーレムを作るくらいしかできないんですけどねぇ。逆に、そのエルフが付与魔法を使えたとしても、ゴーレム用術式を知らなければ付与できませんねぇ。」
まぁ、現時点では十分すぎる。
ほかの魔術式もインプットすれば付与できるってことか?
確かにそこまでできれば”アーティファクトコア”って名前も納得だ。
今はゴーレムを生産するとして、いずれは所謂魔道具というやつを作るうえで重宝することだろう。
よし、じゃあさっそくミヨのところに行こう。
「ただ・・・」
シーラが申し訳なさそうに俺をちらちら見ている。
「ただ?」
「えっと・・・怒らないって約束してくれます?」
「・・・わかった。約束する。」
「ゴーレム生成にはカイト様のMPを100消費するんですよねぇ。だから今日は無理かも?あっ、あはっ?」
「・・・明日だな」
うん、大人しく明日作ろう。
さて、しばらくして俺はデュークとビシスが作っている農場へと足を運んだ。
そこで目にしたのはぜぇぜぇと肩で息をするビシスと切られた木を運び出すデューク達であった。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・はっ、これはカイト様!・・・ぜぇ、ぜぇ、ご覧ください!ビシス頑張りましたよ!」
デュークから人使いが荒いといわれたことをふと思い出してしまった。ビシス、いやぁ、本当にすまん・・・
「ビシス。君の頑張りには頭が本当に下がる。ありがとう!それにしても随分と頑張ったな・・・」
そう、東京ドーム1個分はある面積が木を切られて丸裸になっている。これだけのことをやってのけるビシスの魔力・・・おや?どうやらさっき製造したエルフの子もいるみたいだな。
だが、二人してぜぇぜぇと苦しそうにしているところを見ると、二人がかりでMP限界まで頑張ってくれたのだろう。あとで何かご褒美をあげたいものだ。
「そういえば、切った木はどうするんだ?」
「はい、それでしたらデュークさんが家の建材にすると言っておりましたわ。」
ああ、なるほどな。35棟も長屋を作るのだ。建材はいくらでも必要だろう。だが、俺もウッドゴーレムを作るために大量の木が必要だ。
「なるほど、ところでビシス。明日も木の伐採を頼みたいのだが・・・いい?」
「ぐはぁ・・・」
「ああっ、ビシス様!?」
慌ててエルフの子がビシスを支えようと駆け寄ってきた。どうやら、この数日間木の伐採ばかりやってて疲れが蓄積していたのかもしれない・・・悪いことをした。
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