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使者 タリア

 カイト領を発見したライナスは即決で部下たちに命じた。


 「者共、急ぎ戦闘の準備をしろ。 これからその町をを襲うぞ。」


 「ライナス様。 いつでも準備はできてますぜ?」


 部下の一人が答える。


 というか、準備もくそもない。

 武器なんて棍棒程度しかないし、鎧? その前に服をくれ! って話だ。


 そういう、何も準備できるものが無いという意味での、「準備はできている」ということなのだが、ライナスは何故か満足に「うむ」と頷く。


 だが、そこで待ったがかかった。


 それはライナスの部下の中で恐らく唯一まともな思考を持ち続けられている存在。ライナスの従者であるタリアであった。


 「ライナス様、お待ちください。」

 「タリアか。何故とめる?」

 「報告によれば、豊かそうな町ということです。 攻め入っても返り討ちにあう可能性もあります。 まずは偵察を行いましょう。」

 「ふむ。タリアよ。言いたいことは分るが、今日の食料にも事欠く状況だぞ? のんびり偵察などしていられるものか。 なぁに、この私が戦場に出るのだ。 どんな敵だろうとイチコロだろうよ。」


 ここにきてタリアはライナスの短絡的な思考を憎く思った。


 (確かにライナス様は強い。 だが、それ以外は武器といえる武器も持たない腹を空かせた雑魚ばかり。 そもそも、目的は食料だ。 戦うことではない。)


 「……まず目的の再確認ですが、目的は食料ですよね?」

 「何を当たり前のことを言っている?」


 「では、攻め入る前に私に敵と交渉させていただけませんか?

 ライナス様の武威と我々の人数をお伝えすれば、相手は怖気づいて食料を差し出すかもしれません。

 それに、仮に戦争になって敵から食料を奪えたとしても、一度きりです。 何日か経てばまた食料不足になります。 それよりは相手を脅し、隷属化させ、食料を継続的に得られる関係にしたほうが得策です。」


 「ふむ……」


 こういわれれば流石のライナスでもどちらがお得か分かる。


 相手を属国、いや、属領とでもいうべきか。 そのような関係に堕とし、継続的に食料を得る。 いや、食料以外の物資も手に入るかもしれない。


 「タリアよ。 わかった。 交渉はお前に任せる。 見事勤めを果たしてこい。」

 「はっ! 必ずや!」


 こうして、タリアはカイト領に出向くことになった。



 ★



 タリアは30名程度の兵士を引き連れてカイト領に向かっていた。


 向かいながらタリアは思う。


 どうして自分はライナスなどの従者となってしまったのか?と。


 確かにライナスは強く逞しい。 流石は前世で英雄と呼ばれた存在だと思わざるを得ない。

 だが、その力は所詮は1人の兵士としての力に過ぎない。

 とても王として、いや現時点では首領と言ったほうが適切かもしれないが……人を統率する能力は皆無だった。


 ライナス様は内政や生産を軽んじすぎる……皆の困窮も結局はそれが原因だ。


 タリアは自分の身を眺めて嘆息した。


 従者として生まれた当初は真新しかった軍服も今では薄汚れてしまった。

 体の手入れも十分にできない。

 金髪の髪は土や埃にまみれ、顔も肌も汗と垢にまみれている。


 汚い……体をきちんと洗いたい……


 従者といっても、その前に若い女性なのだ。そう思うのも当然だろう。


 しかし……


 これから向かう相手の町は随分と豊かそうだ、という話だ。 一体このジャングルの中でどうやって発展していったというのだろうか?


 今回の交渉の目的の一つは勿論相手の視察である。

 一つでも多く、ライナス領の発展に役立つ情報を持ち帰って見せる!


 タリアはそう息巻いていた。



 ★



 タリア達はまっすぐカイト領を目指していた。

 なので、ライナス領とカイト領の丁度中間地点に差し掛かった時、当然カイト領の監視に引っかかる。


 ブルの配下の獣人部隊である。


 犬族、猫族、兎族を中核とした地上部隊と上空にはハーピーも控えており、空陸から監視網を作っていたため、タリア達が何の障害もなくカイト領にたどり着くことはまずありえない。


 「おい、お前たち。 そこで止まれ。」


 声をかけたのは獣人部隊の隊長格である犬族の男。


 タリアは目を見張った。 よくこんな場所にまで監視の兵を配置できるものだ、と。

 つまり、恐らくは相手はライナス領のことを把握していると考えるべきだろう。


 「私たちに交戦の意思はない。 私はライナス様の従者であるタリアという。 貴殿の主にお目通りさせていただきたい。」


 さて、相手はどう出るか? とタリアは考えた。 いきなり主に会わせろと言っているのだ。 普通に考えれば無礼千万だし、すんなり受け入れられる話ではない。

 少なくとも監視部隊の彼らでは判断がつかないだろうから、上層にエスカレーションして判断を仰ぐのが普通。 であれば、この場所で足止めを食うかもしれない。


 だが、意外な回答にタリアは驚いた。


 「承知した。 付いてこられよ。」

 「は? 今何と?」

 「……いや、だから貴公らを我らが領地に案内するので、付いてこられよと言ったのだが?」

 「……」


 タリアは想定外の対応に戸惑ったが、深く考えても仕方ないと考え、流れに乗ることにした。


 「感謝する。 では案内してくれ。」


 こうして、カイト領に初めてカイトの配下以外の者が足を踏み入れることとなった。

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