主人公、神殿都市で商売を始める
「串焼き、こっちは5本くれ!」
「俺は10本だ!」
「なにぃ?1時間待ちだとぉ!?」
「頼む!、金貨やるから順番を譲って…」
とまぁ、大盛況である。何がって?俺が始めた屋台である。
売っているのはいたってシンプル。カイト領で取れたワイルドボアの肉を使い、塩胡椒、それに唐辛子で味付けしたものだ。なんのひねりもない。
だが、新たな味覚に打ち震えた神殿都市の住民は連日のように屋台に豚の串焼きを買い求めにやってくる。
「こんな簡単に商売が成り立つとは…日本だったら絶対に無理だわ」
日本では様々な国の料理が所狭しと立ち並んでいるし、消費者の舌も肥えているから、こんなシンプルな料理が大盛況になることはまずないのだが、この神殿都市ではそうでもないらしい。こりゃ、もっと神殿都市と地球をベンチマークして地球のほうが優れている、というものがあれば、それが新たなビジネスチャンスにつながりそうだ。
「カイト様!?肉があとわずかですのにゃ!カイト領から至急増援をお願いするのにゃ!」
「あいよ~」
「カイト様!味塩胡椒と唐辛子もお願いしますのにゃ!」
「あいよ~」
屋台は猫族の連中にやってもらうことにした。何故猫族に?というと、理由は特にない。
ただ、彼女たちは接客が得意だろう?という俺の勝手な独断と偏見により抜擢されたに過ぎない。
猫耳姿の女の子が接客だなんて、萌えるじゃないか。
というわけで、猫族のリーダーのミャオを中心に総勢10名という屋台の割には大人数で臨んだのだが、結果は推して知るべし人手不足である。
俺も頑張ってはいるが、ろくに焼き鳥すら焼いたことがない俺にできることはなく、肉の調達と調味料のインターネットショッピングという役でしか貢献できない。
ちなみに、串1本を銀貨2枚(200円程度と考えてほしい)で販売しているのだが、まぁ、飛ぶように売れる。既に500本は売れたのではないだろうか。半日でこれだから、一日の売り上げは1,000本に届きそうだ。そうすると、20ジュエル稼いだ計算になる。
しかし、調味料をインターネットショッピングで買うのは楽なんだが、ワイルドボアの肉をカイト領まで取りに行くのが非常に面倒臭い。
「串焼きを3本もらえるかしら?」
さて、次のお客さんはきれいなお嬢さんだ。
水色の髪をなびかせ、魔法使いが被ってそうな黒く先のとがった帽子。そして魔女のような黒いマント。はて?神殿都市の住民じゃないのかもしれない。ということはガバナーか?
まぁ、今は余計な詮索はしないほうがお互いのためだ。
神殿都市でのガバナー同士の戦闘はご法度だ。というわけで、俺は気にしないそぶりをする。もっとも、俺の恰好は神殿都市の住民のそれと変わらないトーガ姿なので、俺をみてガバナーと思うことはないだろう。
「承知しましたのにゃ。はいにゃ!」
「ありがとう。お代はこれで足りるかしら?」
猫娘は金額を数えるが、代金丁度のようだ。
「はいにゃ。またのお越しをお待ちしておりますのにゃ!」
そうしてその少女は人ごみに消えてしまった。
★
その少女はカイトので店がある通りから角を曲がったところで串焼きを袋から取り出し、まじまじと見つめていた。そして意を決して(というより、毒が入っているわけないから意を決する必要はないと思うのだが)肉にかぶりついた。
「はむっ」
もぐもぐ。
「けほっ、けほっ、かっ辛いぃぃぃ」
やはり、意を決する必要はあったようである。
「…でも、おいしい。この塩加減、独特の辛さ、どれをとっても神殿都市にはなかったものだわ。これはハマる人はハマるかも。」
そうして、魔法で水を出して飲みながら残りの串焼きも腹に収めていく。
「値段設定も見事ね。この辺で売られている焼き鳥の値段とさほど変わらない。いえ、むしろ豚肉?を使っているだけこちらのほうが肉としては贅沢。割安と言えるわ。」
少女は断言するが、大いに間違いである。そもそもワイルドボアの肉だし、カイト領では鶏肉が取れないので鶏肉の値段はプライスレス。
と、少女がいろいろと論評しているところで少女に駆け寄る者がいた。
「いたいた!探しましたよ?マルレーネ様!」
駆け寄ってきたのは犬族の女性。体格は160センチ程度と、彼女がマルレーネと呼ぶ水色の髪の少女と大して変わらないのだが、走るたびにぼよんぼよんと胸がリズミカルに揺れる。
「あら、ラフィー、ずいぶんと早く見つけられたものね。」
「それはもう!マルレーネ様の匂いを嗅ぎつけてきましたから。」
「…私そんなに匂うかしら…ちゃんと毎日体を洗っているつもりなのだけれど…」
マルレーネはくんくんと自分の服や体を嗅いでみるがよくわからない。
「いえいえ、別にマルレーネ様が臭いとか、そういう意味じゃないですよ?」
「あの…冗談でも臭いとか言わないでくれる?一応気にする年ごろなのだけれど。」
むすっとするマルレーネ。
その反応をみてラフィーネは慌てて否定した。
「いえいえ、マルレーネ様はいい匂いですよ?」
「その言い方も誤解されると思うのだけれど。まぁ、いいわ。それよりラフィー、これを食べてみてくれる?とってもおいしいのよ。」
「これは何です?串焼き?」
「そこの通りの出店で売られていたの。すごい人気よ?そして、おそらく店の主は私と同じガバナーね。」
ガバナーという単語を聞いた途端、ラフィーの目つきが敵を見る目に変わる。同盟関係にない限り、基本的にガバナー同士は敵同士だ。明日は命の奪い合いをしているかもしれない相手。
「まぁまぁ、神殿都市では何もできないわ。お互いにね。それにご近所かどうかも分からないじゃない?だから今はおいしくいただきましょう。」
「はぁ、マルレーネ様がそうおっしゃるなら。ふむ。はむはむ、ほぉぉ?これはまた不思議な辛さ…くせになりそうですねぇ。」
ラフィーはほくほく顔で肉をほおばる。ラフィーには唐辛子と胡椒の辛さは全く問題なかったようだ。
「でしょう?できれば、あの店をやっているガバナーとはお近づきになりたいものね。きっと他にも色々と魅力的なものを持っていることでしょう。」
「それなら私が調査してきましょうか?」
すっかり串焼き1本平らげたラフィー。彼女は調査することを提案してきたがマルレーネはそれを却下した。
「いえ、まだいいでしょう。あの店は今後もあり続けるだろうから、徐々に見知っていけばいいと思うの。それより、私たちの商売のほうも軌道に乗せないとね。店舗の準備は順調かしら?」
「はい。滞りなく。きっと神殿都市でも人気のお店になりますよ。」
「そうでなければ私が困るわ。このゲーム、ジュエルを稼がないことには立ち行かないもの。」
彼女たちが何の商売を始めるかは定かではない。ただ、かなりの自信を持っているようだし、ジュエルの重要性も理解していた。
カイトはいち早くジュエルの重要性を考え神殿都市で商売を考えたが、他にもカイトと同じように考えて商売を始めるガバナーがいたのだ。
そして、それはカイトとマルレーネだけではない。それなりに多くのガバナー達が商売をし始めていた。マルレーネはその氷山の一角に過ぎない。
そのことをカイトは後日知ることとなる。




