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主人公、女性の恐ろしさを痛感する

さて、大方生産現場を見回って、取り急ぎ必要な道具は提供してきた。


これでカイト領の生産能力もかなり向上するだろうし、しばらく様子を見て新たに必要なものがあれば足していけばいい。何も今日一日で解決する必要はないのだから。


ああ、いや、1か所だけ回っていないところがある。


それは兎族のヌイが頑張ってくれているであろう、衣類の製造だ。バナナ茎からとれる繊維を使って衣類が作れないか?とヌイにお願いしてみたが、現在は苦戦しているようだ。


というわけで、ヌイのところに顔を出すことにした。


ヌイの作業場のために長屋を丸ごと一つ割り当てている。その中を覗くと、様々な種族の多くの女性たちがバナナの茎から繊維を取り出している最中だった。木の棒をへらのように使い、茎の繊維以外の不要物を越し取る作業を懸命に行っていた。


かなりの重労働というか、根気のいる作業で、女性たちは汗だくになりながら頑張ってくれている。


「ヌイはいるだろうか?」


入り口付近にいた女性に話しかけると、俺の声が聞こえたのかヌイが駆けつけてきた。


「カイト様?どうしてこのような場所に?」

「いや、新しいスキルが得られたことで、服を作る作業の効率化が図れればと思ってな。」


ということで、新しいスキルの内容をヌイに説明した。


「なるほどなるほど。でしたら道具が欲しい!というのもありますが…まずはカイト様の世界で着られている服を大量に購入するのがいいと思いますよ?」


ヌイから返ってきた答えは意外だった。


完成品である服をまずは買ってほしいという。これまでの製造現場では完成品を渡すのではなく、完成品を作るための道具を渡してきた。


例えば陶器を作る工房では陶器を買うのではなく陶器を作るための電動ろくろを渡す、という風に。


その心としては、完成品を俺が出していてはカイト領の生活は俺に依存した格好になる。それは共同体のあり方としては良くないと思ったからこそ、そうしなかった。


そして、それは俺だけでなく皆も分かってくれているだろうと思ったので、ヌイもそうかと考えたのだ。


「ちょっと意外だった。」


「そうでしょうか?

 私も筋としては作業を楽にしてもらえる道具が欲しいと思います。

 ただ、現在の状況だと服を作れるまでにまだまだ時間がかかりますし、全員の服を作るとなるととてもとても手が追いつきません。

 その間、皆が今着ている服をずっと着続けるというならいいですけど…私は嫌です。」


そういわれると、確かに今の服をまだ着続けるというのは嫌だな。


俺はワイシャツにスラックスの姿だが、白かったワイシャツは既に茶色く汚れ、スラックスはよれよれでところどころほつれてきている。


周りの者も似たり寄ったりだ。生産された初期の服をまだ皆着ているのだから当たり前か。


「確かに、今の服を着続けるのは嫌だな。」


「でしょう?

 だから、当面はカイト様に服を出してもらうしかないと思うんです。

 恐らくですけど、十分な服を生産するには3年程度は必ずかかると思いますよ?

 やっとバナナの繊維から糸を作れるようになった程度なんですから。この先さらに、機織りして服の形にして…染料で染めて…ってことを考えると、とても1年程度では話にならないですね。」


「ふむ。確かに服作りはちょっとプランを考え直さないといけないな。」


流石に無茶ぶりが過ぎたようだ。


というわけで、ヌイと一緒にどんな服がよいか選んでいるところにミヨもやってきた。


「お二人で何をされているのですか?マスター?」


何故か空気が冷たく感じられるのは気のせいだろうか。


「あら、ミヨ様じゃないですか。何をしているのかって、カイト様と二人で皆の服を見ているところですよ。」


「そうでしたか。しかし、そんなに近づかなくてもよろしいかと。」


「いえいえ、ちょっと服の絵や文字が見づらいんですよね。だから仕方ないのです。」


そういって、ヌイは一層俺にくっついてくる。


うん、鈍感じゃない俺にはわかる。これはあれだ。「おぬし女難の相が出ておるぞ?」とか「ハーレム野郎がっ!」とか言われる奴だ。


そんなシチュエーションは今は求めていないし、ミヨと関係を持った俺としては彼女が悲しい思いをするのは本意ではない。


というわけで、ヌイの顔を「えいっ」と押しのけ、距離を離した。


「むぅ」


拗ねるヌイはとりあえず軽く無視しておこう。彼女の好意はうれしいが、区別はつけないといけない。


「というか、ミヨも一緒に服を見るか?ミヨの意見も欲しいしな。」

「はい!マスター。」


一連の俺の行動で、機嫌を直してくれたミヨと3人で服を見る。


「まぁ、500人分となると、あまり高いものは買えないな。」


「そうですね。ところで予算はどの程度でしょうか?マスター?」


「120万といったところだな。多めに600人分買うとすると、一人当たり2,000円ということになる。」


「カイト様のいた国の金銭感覚がよくわからないのですが…どう見ればよいのでしょう?」


ああ、確かに一緒にネットショッピングしているといっても、金額の見方を伝えていなかった。俺は二人に金額の見方を教える。


「ほら、この”¥”マークが書かれているところの数字が金額だよ。このTシャツだと1,000円という意味。わかるか?」


「はい、わかりました。マスター」

「カイト様、私も分かりました。」


どうやら金額の見方を理解してくれたようだ。見方を理解してさぁこれから調べるぞ!というところで、思わぬカウンターを喰らった。


「「2,000円では足りませんね。(マスター)」」


「…やっぱり無理かな?Tシャツと短パンなら2,000円で足りると思ったんだが…」


と発言したことを後後になるまで後悔した。二人は怒涛の勢いで反論してくる。


「マスター。女性の服を何だと思っているのでしょうか?マスター?」


いや、マスターを2回言わなくても大丈夫だよ?


「そうですよ、カイト様。Tシャツに短パン?男ならともかく女でそれはあり得ません。

 だいたい、下着はどうするんです?ほら、これ見てくださいよ。上下で1,980円です。

 これだけで予算ジャストですよ。」


「あー、下着ね…それは明日とかじゃダメ?」


「「ダメです」」


え?なんで?


「だいたい、こんな素敵な下着を見せられて、それで今日は我慢しろと?カイト様は鬼ですか?悪魔ですか?」


「これを見て私は一刻も早く服を着替えたいと思うようになりました。マスター。いけないでしょうか?」


そんな訴えるような目で見つめないでくれ。何も反論できない。


「ミヨさん、分かりますとも、分かりますとも!そもそも、女性である私たちが1か月近くも同じ服で過ごしているのは大いに問題です!カイト様もそう思うでしょう?」


いや、俺も1か月同じ服なんだけどね。


「だいたい、女性がきれいにしていたほうが、男性陣も嬉しいのではないでしょうか?」

「うん、まぁ、それは否定できないな…」


奇麗にしている女性を見て嫌な顔する男はいないだろう。


「マスター、いい考えが浮かびました。今日は女性の服だけ購入しましょう。男性の分は明日でいいと思います。」


ミヨ?あれ、君そういうキャラだっけ?

流石の男性陣も今のセリフ聞いたらきっと怒るよ?


「ミヨさん、それいい考えですね。男なんて今日くらい我慢していればいいのです。そうすれば、350人分の服を買うとして、3,500円分の服が買えます。」


何だ、この女尊男卑的な考えは?

女性の人口が多いのがそうさせたのか?


そして、何も言えないでいると、二人はそれをOKが出たと思ったのか、二人で話を進めていく。


「だったら、Tシャツと短パンと下着で‥‥この組み合わせなら予算内です。」


「ミヨさん、流石です。ただ、全員同じ色とガラでは好みもあるでしょうから、ちょっとバリエーションを増やしましょうか。」


「確かにその通りです。あと下着のガラもいろいろありますね。いろんな種類を買いましょう…どれにしようか迷っちゃいます。どれがいいですか?マスター?」


うぉっとぉ?まさかのキラーパス…でしたら、そこのピンクの奴が…

なんて考えていると、ヌイの強烈な視線を感じてまた何も言えなくなる。

彼女の眼は相手を沈黙させる魔眼に違いない。


さて、話は進み、結局120万全て使い切って、女性用の下着(上下)に女性用のTシャツと短パンを350人分お買い上げ。APもすっからかんだ。


甘かった。


レベルが上がってAPもMPも均等に上げよう!じゃない。


APこそ上げるべきだったと後悔したが後の祭りだ。まさか1着で満足するとは思えないし、そもそも男性分はまだ買ってないから、恐らく数日間は主に服の購入でAPはすっからかんになるだろう。


さて、大変なのはまだまだ続く。


次は服の配布だ。配布?いやいや奪い合いです。


大量の服が広場に並べられ、ミヨが服の配布について女性陣に説明した。


「いいですか?一人1着ですよ?下着一式にTシャツと短パンが人数分あります。大事なことだからもう一度言いますね?一人1着ですよ?では、各自取ってください」


とミヨが言い終わった瞬間だった。


ワァァァァ


と一斉に女性たちが服に群がる。


そこには種族など関係ない。全員の眼が血走っていて本当に怖い。


まるでピラニアが獲物に一斉に食らいつくかのようだ。


どこぞにいる元魔王や元勇者といわれる強者でも今の彼女達を前にしては踏みつぶされる存在だろう。


ちょっと前まで「カイト領の女性は美人が多いなぁ」といっていた自分が見ていたものは一体何だったのだろうか。


女たちお戦いは続く。


「これは私の服よ!てぇどかしなさいよ!」

「はぁ?私が先に手を付けたってーの!この泥棒猫がぁ!」

「こらっ!ひっかくな!このクソ猫族がぁ!」

「ああ!?この犬服を噛んだぁぁぁ」

「あんたの胸、ブラジャーいらないでしょうがぁ」

「あんたも私と大して大きさ変わらないでしょ!」

「きぃぃぃ!彼だけじゃなくて私から服も奪っていくつもり!?」


仁義なき戦いとはこういうものだったかと言わんばかりの大乱闘。


ちなみに、男たちは遠目でそれを引き気味に見ていた。「今日は男性用の服は出せないんだ、すまん」というと、みんな笑って許してくれたが、皆本当にそれでよかったと心から思った。





さて、あらかた服は配り終えて、片付けをしようかといったところで遅れてやってきたのはエルフのビシスとウーネだ。


「はぁ…今日もやっと気の伐採が終わりましたわ。」

「僕は今起きたところっす。」


疲れ果てているのはビシスで、ぐっすり寝てピンピンしてるのがウーネ。


ウーネは錬金術を使えるだけ使って後は夕飯まで寝るというある種羨ましい毎日を送っている。


「ああ、二人ともお疲れさん。」


「カイト様ですか。それにしても先ほどは何か騒がしかったですわね?何がありましたの?」


「あれれ?知らなかった?今日、女性用の新しい服を配ってたところだったんだが…」


「はぁ…そうでしたの。それで私の分はありますか?」


まだ服は残っているが、ピラニア共が漁った後で、新品のはずが既に形が崩れているように見えた。


「ごめん、ちゃんと取っておけばよかったな。自分に合うサイズのものを選んでよ。」


そういって二人は服を選びだすが、


「僕のサイズに合う服がないっす…」

「私もですわ…」


立派な胸を持つ二人に合うサイズのブラは残っておらず、がっくりと肩を落とす二人。

明日朝一で服を買うようにと要求されたのは言うまでもない。

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