主人公、最初の買い物を行う
さて、素晴らしいスキルを得たのだから、食料や衣類、それに日用品を大量に買おう!というのはそうなのだが、一つだけ心の中で誓ったことがある。
それは、このインターネットスキルが無くてもカイト領の生活が成り立っていけるようにすること!ということだ。
例えば、塩を例にとって考えてみよう。
俺が塩を大量に手配することは可能だ。安いものであれば、1kgで200円もあれば買える。ということは、AP1ポイントで50kgは買えてしまう。今のカイト領にとっては十分すぎるほどの量だろう。だが、これに頼ってしまえば、カイト領では塩を作るということをしなくなる。そんなときに俺がAPを使えない状況になったらどうする?カイト領は大変なことになるだろう。
魔法にせよ、ガバナーのスキルにせよ、それはそれで大事だし有効に活用すべきなのだが、そればかりに頼っては危ない。
とはいえ、最初のうちはしょうがない。まずは、みんなに何が欲しいか聞いて回ることにした。
まず、向かった先はドワーフのバティスタのところだ。大勢のドワーフたちが工房で鍛冶仕事に精を出していた。エルフのウーネが錬金魔法で作り出す鉄を元手に鉄製の道具を日々作り出してくれている。みな、熱い窯の周りで汗を流しながら鎚をふるっていた。
「バティスタ、精が出るな。」
「おお、これは主。どうしたのじゃ?」
そういって、バティスタは手を止めて俺のところに足を運んだ。
「いや、実はね…」
ということで、一通り新たなスキルのことを話し、何が欲しいのか聞いてみた。
「そうじゃなぁ。やはり、1にも2にも鉄が不足しているから、鉄を出してほしいのじゃが、ライラの偵察の話もあるじゃろう?それがうまくいったら鉄不足は解消するかもしれんからのぉ。」
実は、ライラからカイト領の近くに山があるという報告をもらっていた。勿論、山がある=鉱山がある、と考えるのは早計だが、可能性はある。その可能性を探ってからでもいいのでは?というのがバティスタの考えなのだ。
「なるほどな。じゃあ道具だと何か欲しいものとかないか?」
「そうじゃのぉ。ああ、砥石に金切り鋏、それにグローブとかが欲しいかのぉ。」
「良し来た!」
というわけで、二人でショッピングサイトを見ながら品定めをした結果、いずれの製品も手に入った。合計約15万円ほどのお買い上げだ。
「いやぁ、助かるわい!それにしても、いずれの道具も見事なものじゃな…主の元いた世界にぜひとも行ってみたいものじゃ。」
「ああ、俺もバティスタを連れていきたいと思ったところだよ。じゃあまたな。」
というわけで、工房を後にした。
今回勝った工具の中では砥石が威力を発揮してくれそうだ。これまでの鉄製の武器は鎚でうまくたたいて刃を作り出していたが、やはりたたくだけでは限度がある。砥石が使えるようになれば刃の切れ味は各段に優れたものになるだろう。
次に向かったのはデュークのところだ。
デュークが担当している範囲は広い。農場、牧場、土器を作る窯、レンガを作る窯、家の建設だ。少し前まではカイト領周辺の探索もお願いしていたが、ワイルドボア牧場ができてからはカイト領周辺の探索は主にブルを中心とした獣人部隊に任せるようになっていた。
「新しいスキルですかい。いやしかし、ずいぶんと良いスキルを得ましたなぁ。」
既にデュークには新しいスキルの話はしてある。
「まぁ、すぐにはアイディアは出てこないだろうから、まずは農場に行ってから考えてみるか?」
「ですなぁ。じゃあ行きますか。」
そうして二人で訪れた先はバナナ農場。この世界のバナナは成長が早いのか、栽培を始めてわずか2週間たらずで足のすね程度の高さだった苗は既に俺の肩くらいの高さまで成長していた。
しかし、ずいぶんと広大な畑を作ったものだ。東京ドーム約4つ分の広さにバナナとタロイモを植えている。いずれ森でとれるヤシの木も植えようと思う。
「そういえば、野菜を育てていないよな。」
「まぁ、森で野菜を見つけられていませんからな。」
バナナもタロイモも主食(つまり主に炭水化物)だ。だが、果たしてバナナとタロイモが並ぶ食卓に合う野菜とは何だろうか?
良く調べればわかりそうではあるが、インターネットの閲覧もAPが必要なので、とりあえずいくつか苗や種を買って試しに栽培してみることにした。
買った野菜は、ピーマン、トマト、ナス、オクラ、大根、ニンジン。そしてこれは野菜ではないが米。まぁ、あまり多くに手を伸ばしても元も子もないから、まずはこのあたりでやってみようということにした。計10万円の購入。うまく育ってくれればまた買い足せばいい。
「あとは、やはり農具ですかねぇ。徐々に鉄製の農具も作られてはいますが、数が足りないっすわ。それにまだ先でいいんですけど、収穫物を運ぶ籠とかね。」
「確かにな。まぁ、必要なものだから買っておくか。」
というわけで、鍬、スコップ、鎌、籠、枝切ばさみといった道具を30万円分購入した。計40セットである。これだけ用意すれば、バティスタ達の鉄器作成も農具とは別のものを作るのに割り当てられそうだ。
「まずはこれで様子を見てくれ。」
「いやぁ、本当に助かりますわ。それにしてもどの道具も見事なもので…本当にこんな良い道具を使ってもよろしいので?」
「道具は使ってなんぼだからどんどん使ってくれ。」
さて、次は牧場だ。
「ブルルルルル」
ワイルドボアがのんきにえさを食っている。農場と同じく東京ドーム4つ分程度の大きさの牧場にワイルドボアが20頭生活している。いずれカイト領の食卓にあがる貴重な蛋白源だ。
「ああ、ワイルドボアの屠殺が結構面倒なんですよね…手持ちの獲物じゃ中々あっさり殺せなくてね…」
「ああ、わかるわかる…」
手持ちの獲物といっても、鉄製の槍かナイフ、または石斧しかないのだ。これでワイルドボアを瞬殺しろというのが無茶がある。いや、ワイルドボアは俺がMPで生み出した俺の配下だから、別に襲ってこない。だが、だからこそここの連中も少しワイルドボアに情が移り、瞬殺できないことにストレスを感じてしまうのだろう。
「ふむふむ、俺の元の世界では牛の場合だとノッキングという手法をとるようだが…売ってるところが見当たらないな…」
「ノッキングとは?」
「うん、中々説明するのが難しいから、一緒に見ようか。」
というわけで、インターネットの閲覧である。
ノッキングというのは、電動式の針を打ち付ける道具だ。ノッキングガンとも言われる。牛の場合はこれを牛の頭に打ち付け、頭蓋骨にわずかな穴があき、牛が気絶しているところを一気に殺して血抜きする、というものらしい。
とはいえ、仮にノッキングガンがあったとしても、やはり精神的につらい仕事であることには変わりないと思う。
これを見てると、屠殺所で働く皆さまには頭が上がらない。誰かがやらねば肉は食えない。だが、決して喜んでやりたいと思えるものじゃないだろう。だが、それでも使命を持って日々精神をすり減らしながら対応してくれていたのだろうと思う。
翻って見て、カイト領ではどうだろうか。今屠殺を受け持ってくれているものも同じだ。彼らには最大限精神的な苦痛から解放してあげたい。
そう思うと、ちょっとAPを使ってでもノッキングガンを手に入れたいと思った。
そしてたどり着いた結論は…
「これは何ですかい?」
「これはくぎ打ち機といってね。本当は大工道具なんだけど、強い力で釘を木に打ち付ける道具だ。これならノッキングガンの代わりになるかもしれない。おそらくワイルドボアは気絶するのではなく死んでしまいそうだが…少しは精神的な苦痛から解放されるのではないか、と思う。」
「ありがたく使わせていただきますわ。」
ちなみに、5万円という結構高いものを購入した。ただ、電池式だからいずれ発電機などを用意しないといけない。
次は土器づくり用の窯に足を運んだ。




