主人公、凱旋する
グリーンスライムが戻ってきたのを確認したカイトは、一度全軍を終結させた。カイトの元に集まってくる兵士、その数は260人。
今回の戦闘では味方の損害はゼロだったようだ。喜ばしい限りだ。
「戦勝おめでとうございます!マスター!」
「「「「おめでとうございます!」」」」
「いやぁ、大勝利ですな」
「うむ、ここまで完勝するとは思わんかったわい」
「私もまさかここまでうまくいくとは思っていませんでした。でも皆無事で何よりですわ」
ミヨの祝言を皮切りに、みな思い思いに感想を述べあう。だが、浮かれてはいられない。
「今回は相手が愚かすぎたから良かったが、これはラッキーだったと思ってもらいたい。今後も戦いは続くから、またみんなで頑張っていこう。」
大日本帝国海軍の名称、東郷平八郎の名言「勝って兜の緒を締めよ」である。
いや、実際に敵はバカだった。
その敗因を上げればきりがないが、思いつくだけでも
1.キャッスルコアを手元に置かなかったこと
2.兵種をほぼ1種類に絞っていたこと
3.洞窟という密室空間を根城にしていたこと
4.周囲の情報収集を怠っていたこと
などがあげられる。
これはカイトの感想ではないが、これらの敗因の背景を語るとすれば、やはりゴブリンという種族の問題点なのかもしれない。
ゴブリンという種族は人間のように文字を持たない。知識の伝達は親から子供へ、そして仲間から仲間へ、というもので、その中にはせっかく経験した情報もロスしてしまう。
さらに、洞窟を好むというのも情報の収集の阻害をする。洞窟という閉じた世界の中で生きるゴブリンにとって洞窟と精々狩猟をする洞窟周辺の山野が彼らの世界であり、そこから得られる情報しか入ってこないのだ。
つまり、情報はうまく伝わらず、蓄積されず、それでいて入ってくる情報も少ない。
その結果、井の中の蛙ともお山の大将ともいえる状況になった。井の中の蛙もお山の大将もさぞ心地よいものだろう。閉じた世界の中では自分が頂点なのだから。
そして、だからこそ、自分たちの知りえない存在に出くわしたとき、彼らは弱い。
彼らはこれまでの知りえている情報や経験から、敵はわざわざ自分たちの洞窟に攻め入ってくると考えていた。過去の人間の兵士も冒険者といわれる者達もそうしてきたのだから。その通りであれば、確かに洞窟というのは要害だ。
だが、今回はそうはならなかったし、火責めに会うなんて経験はないから対処のしようもなく、呆気なく殺された。
それだけである。
「さて、カイト領に戻るか。」
「そうしましょう。マスター」
こうして、俺たちのガバナー同士の初戦は呆気なく終わり、俺たちはカイト領に凱旋した。
カイト領では皆歓喜で満ち溢れていた。
「カイト様万歳!」
「みんな、よくやった!」
「食事の準備はできてますよ!お疲れさまでした!」
「怪我した奴はいないか?」
などなど、カイト領で待機していた面々が駆け寄ってくる。
そんな中、シーラが俺に近寄ってきた。
「カイト様、おめでとうございます!」
「ああ、そちらもキャッスルコアの破壊ご苦労だったな。」
シーラはブルと一緒にキャッスルコアの破壊に向かったから、ザシュのアジトに攻め入る陣容には入っていなかったのだ。
「それで、カイト様?後でお話があります♪」
「ああ、わかった。一息ついたら頼むよ。」
内容は薄々わかっている。
ガバナーを倒したことによるキャッスルコアのレベルアップと俺自身のレベルアップだろう。
この世界に転生して1か月だが、今回の戦いによって一つ峠を越えたような気がする。だが、まだまだだ。この世界には1万近くのガバナーが転生してきたという。明日にでも新たなガバナーが襲ってこないとも限らないのだ。のんびりはしていられない。
「勝って兜の緒を締めよ」
歴戦の偉人の言葉がカイトの心に重く響いた。




