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ザシュ、あっけない最期を迎える

さて、基本的に熱とは上に向かっていくものだ。


これは小学校の理科でも恐らく習うはず。勿論洞窟の中でもそれは同じで、熱は洞窟の天井の岩盤こそ最も集中した。


だが、だからといって地下フロアが大丈夫か?といえばそんなことはない。


まず、入り口付近ではカイト軍が団扇や風魔法を使って熱風を洞窟奥深くまで届くようにしていた。


勿論これだけでは洞窟全体に熱がいきわたるなんてことはないだろうが、それなりの効果はあった。さらに木炭は酸素を求めてあたりの空気を引き寄せる。そうすることで、洞窟内の空気はまさにうねるようにして循環し始めていた。


『くっ・・・暑い・・・熱すぎるぞ!それに心なしか意識が朦朧とするっ!』


ザシュはこれまでに経験のない事態に焦りを感じていた。


前世でも敵襲なんてざらにあった。その都度、洞窟内にやってきた人間どもを血祭りにあげてきたではないか。女と見れば仲間の前で犯し、男はなぶり殺しにしてきた。勇ましく自信にあふれてやってきた人間どもが仕舞には泣き叫び、懇願し、卑屈になる様子をどれだけ拝んできたことか。


それが今回はどうだ?敵の姿はあのゴーレム以外わからず、そのゴーレムも如何ともしがたく、自分たちは洞窟の奥に追いやられてしまった。


周りのゴブリンたちの様子も最悪といっていい。皆、地べたに蹲り、少しでも体力を持たせようと努力している。この最奥のエリアでさえこの有様だ。これより上の層はどのような状況だろうか。


ちなみに、この時ザシュのいたフロアの温度は30度後半にまで達していた。


まだ生きられるレベルではあるが、ザシュのいるフロアより上の層、つまり地下9階から地上までのエリアでは40度以上になっており、ザシュのフロア以外のゴブリンたちは瀕死の状態であった。


『今は耐えるしかない!皆の者、少しでも体力を温存するのだ!機会は回ってくるはずだ。』


ザシュは部下を励まし、熱に酸欠に何とか耐えた。





さて、半日が経過したが、熱と酸欠は一向に収まる気配がなかった。


『まだ・・・続くというのか・・・』


既にザシュ自体も満身創痍の状況だった。周りの部下は反応すらしない。


ここにきてザシュは覚悟を決めた。ザシュが唯一使える魔法、それは肉体強化魔法。言葉の通り肉体を強化する魔法だが、それをかけて上のフロアを目指し、敵と相まみえるしかないと考えるようになった。


幸いなことに、肉体強化の魔法は自分以外にもかけることができた。だから部下に声をかけたが・・・


『おい!埒が明かぬ。出入り口に向かうぞ!行けるものは声を上げろ!』


帰ってきた答えは沈黙であった。


『くそっ!使えぬ者たちめ!』


ザシュは悪態をつくが、残された時間は少ない。


念のため、エルフでも作り出せないか?と思いソルジャーコアを取り出すが、やはり使えないままだった。


ザシュはまさかキャッスルコアが破壊されているとはこの時考えてもいなかったし、キャッスルコアが破壊されるとソルジャーコアが使えなくなるということも知らなかった。




ザシュは踏ん切りをつけて肉体強化の魔法を発動。そして上のフロアに向かった。


『くっ?これは・・・』


地下9階に上がってきたところで、そこは地下10階以上の地獄であった。地下10階よりさらに暑く、そこには大勢のゴブリン達が倒れていた。


誰の声も聞こえないし、息の音すらしない。


『これはまずいっ・・・肉体強化の魔法をかけても、長くはもたん。急がねば・・・』


ザシュは次々と上のフロアを目指す。だが、地下4階にたどり着いたところでそれはやってきた。


『ぐっ・・・?』


はぁはぁ・・・と息をしても体に力はが入らない。


熱い!それに苦しい!体が動かない!熱と酸欠によって既に体はむしばまれていたのだ。既に部屋の温度は70度に達する。


『まさか・・・この俺がこんなところで死ぬ・・・とは・・・』


それがザシュの最後の言葉であった。


前世ではその一帯の人間どもを恐怖に陥れたゴブリンロード。それが敵の相手の顔も知れぬままその辺の雑兵と同じように殺されるとは本人も思いもよらなかっただろう。

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