ザシュ、洞窟からの突破を試みる
奇襲の知らせを部下から聞いたザシュは出入り口の一つを目指した。
しかし、ザシュがいる部屋から出入り口までは相当遠い。
ゴブリンの洞窟というのは相当拡張されている。なんたって1500人を収容できる規模だ。元々の洞窟はせいぜい300人程度入ればいいという程度の広さだったが、洞窟拡張用の部隊まで編制して昼夜問わず掘り続けさせた。だいたい、一つの部屋の広さは10メートル四方、高さは2メートルだ。かなり低く作ってある。その部屋にだいたい10名程度が寝泊まりする。
つまり、計150室の部屋があり、ちょっとした広間や物置を含めると部屋数は200近くになる。1フロアの部屋数はおよそ20としており、つまるところザシュの部屋は地上から数えて地下10階ほどの深さということになる。
ザシュは部下を押しのけてどんどん地上のフロアへ向かっていき、ついに出入り口付近まで到達した。しかし、異様に暑いことに気づく。だが、それがなぜなのかが分からない。
『ええい、お前ら邪魔だ!出入り口をどけろ!』
ビクンと震え、一斉に出入り口付近を離れるゴブリンたち。そしてはっきりと見て取れるようになった出入り口を見てザシュは驚いた。
『なっ、なんだ?あの巨大な岩は・・・ゴーレムか?』
ザシュが見たのは巨大な岩のゴーレムが出入り口を塞いでいる光景だ。ゴーレムの存在はザシュも前世の知識として知ってはいたが、見たのは初めてだった。ゴーレムで塞がれた出入り口にはわずかばかり穴があるように見えるが、そこには大量の木炭が燃やされていた。
さらに、出入り口付近では既に死に絶えた部下たちもいた。どうやら木炭の日がボロ切れの服に引火して全身火傷になったようだ。
そして、この出入り口付近の異様な暑さもその木炭が原因だということを理解した。そして、燃えている木炭を持つことなんてザシュでもできない。ただ火傷して終わりである。もとい、持ったところで入り口を塞がれている以上洞窟の外に頬りだすこともできない。
であれば、まずはあのゴーレムを何とかするのが先だと思い、部下たちに命じた。
『あの入り口を塞いでいるゴーレムをどかせ!押し出すのだ!』
そういって、部下のゴブリンに命じるが、ゴブリンたちはうろたえるばかりで中々実行しようとしない。しびれを切らしたザシュはこん棒をブンと振り回し、脅しをかける。
『さっさと行かぬか!グダグダしている奴はこの棍棒でたたき殺すぞ!』
殺されてはかなわぬと、ゴブリンたちは一斉にゴーレムめがけて駆け、そして押し返そうとするが・・・
『ぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁ』
『ぐっ、ぐがっ?』
ゴーレムに触れた途端、ゴブリンたちはあまりの激痛に苦悶の声を上げる。
理由は簡単だ。ゴーレムの股下あたりで木炭が轟々と燃えているのだ。当然ゴーレムはその熱を吸収しているわけで、既にゴーレムの体の温度は数百度にまで達していた。そんなゴーレムに触れるわけだから、無事であるはずがない。
だが、ゴーレムと直接触れるゴブリン以外には、そのゴブリンたちの苦痛が分からないので、当然後ろから次々とゴブリンたちが押し寄せ、半ばサンドイッチ状態になり、体の表面はゴーレムに押し付けられる格好となる。
さて、人間もゴブリンも体の大きさも構造もたいして変わらないのだが(とはいっても、ゴブリンのほうが得てして小柄ではある)、数百度の鉄板もとい岩板に押し付けられて何秒生きられるだろうか。
周囲には、「ジュー」というゴブリンの皮・肉が焼ける臭いにおいが充満する。
まぁ、先頭に立ったゴブリンはいい肉壁というか肉盾というか、そういう役割になっていた。ある意味、そのおかげで後続のゴブリンはゴーレムを押し出そうとすることができたわけだ。
しかし、いくら押してもゴーレムはびくともしない。
それもそのはずで、洞窟の外ではストーンゴーレムをウッドゴーレムが押し付けているのだから、ストーンゴーレムの重量とウッドゴーレムの重量にウッドゴーレムの押し付ける力を加えた以上の力をぶつけないと、当然押し出すことなんてできない。
『ぐがぁぁぁ』
『ぎゃぎゃ・・・』
ゴブリンたちは苦しさのあまりうめき声を出す。
ただでさえ木炭の燃え盛る熱い空間のなか、懸命にゴーレムを押し出そうと力を振り絞っているのだから無理はない。
そして、どんどんゴブリンたちは倒れて動かなくなっていった。既に入り口付近の温度は100度を超えている。そして木炭はどんどん酸素を消費していく。倒れ死んだゴブリンにもやがて引火して入り口付近は大炎上した。
『くっ!ええい、引け引け!』
ザシュはその光景を見て己の判断を誤ったことを悟った。あれでは焚火に身を投げ出して自らが薪になるようなものではないか。そしてそれが一層熱を放ち、自分たちを窮地に陥れる。
『皆の者、入り口付近から撤退せよ。洞窟の奥に避難する!』
あの燃えている木炭とて無限ではない。いずれ火は消えるだろう。ザシュはそう考え、洞窟の奥に向かっていった。




