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主人公、襲撃の準備をする

誰がザシュのアジトを襲撃しているのか?

言わずもがな、それはカイトだった。カイトはストーンゴーレムによって塞がれたザシュのアジトの入り口を見ながら数日前の出来事を振り返っていた。


-----

それは数日前のこと。


「カイト様、報告に上がりました。」

「ああ、どうした?」


報告に来たのは犬族のリーダー格の男だ。名前をブルという。


「以前から目をつけていたゴブリン達の情報が得られました。」


実は、ザシュ達ゴブリンの軍勢の話は10日前くらいから報告が上がっていた。まず、ハーピーのライラから大勢のゴブリンがカイト領の東側10キロ先に相次いで出没しているのが報告されていた。その時から、カイト領の東側を探索するメンバーには犬族と兎族を中心に探索・検知能力を強化した布陣で当たっていた。同時にハーピーの探索は極力控えるようにした。


その目的は相手の捕獲。


ただゴブリンが見つかったというだけなら、それはこの世界の住民かもしれないし、はたまた俺と同じガバナーかもしれない。それを確定させるためには彼らを捕獲して情報を聞き出さなければならなかった。


ハーピーを探索から外したのは、ハーピーは良くも悪くも目立つためだ。ハーピーを相手が捕捉すれば、相手も警戒する。警戒されるということはその分相手の体制も強化されるということだ。


「ふむ、ということは無事捕獲できたわけか。相手にはまだこちらの存在は?」


「勿論、気づかれておりません。見つけた相手は全て捕獲しています。」


俺はほっとした。相手には気づかれず、こちらは相手のことを知っている。現時点ではうまくことが進んでいるようだ。


「よくやった。それで、どんな相手なんだ?」


「首領の名前はゴブリンロードのザシュという、カイト様と同じガバナーです。手勢は1,500人ほどで、人間の兵士が150名程度、残りは全てゴブリンとのことです。」


恐ろしい数だ。兵数だけで言えば、カイト領の実に3倍はいる。恐らく、ザシュというガバナーのMPは俺より数段上なのだろう。


しかし、気になることがある。人間の兵士が150人とはどういうことだろうか。確か初回ボーナスで300人は必ず与えられる。ということは150人は何らかの理由で死んだということになる。それに、全てゴブリンで陣容を固めているというのも解せない。


ゴブリンは確かに大量生産するには向いているが、何かに優れた種族というわけでもない。とにかく手勢が必要だという時以外はあまり需要はないように思えた。


「うへぇ。人間の兵士150名というのはボーナスの兵士のことかな。なんで数が減ってるのか気になるところだけど・・・それにしても、全部ゴブリンで固めるというのは何でだろうね?」


「もしかしたら同族意識が強いのかもしれませんね。」


「同族意識ねぇ・・・」


地球で言うところの民族主義のようなものかと考えたが、実際のところはどうだろうか。なにか ゴブリン至上主義的な考えの持ち主なのだろうか。いずれにせよ、単一の兵種しか持たない存在のほうがこちらとしては対処しやすい。それだけ戦闘のバリエーションも限られてくるというのだから儲けものだ。


「しかし、ゴブリンだらけだったら、魔法はおろか、武器・防具もろくなもの持ってないんじゃないの?」


そう、東の森といっても環境面ではカイト領と大差ないはずだ。木材は豊富にあるだろうが、金属はおろか、石だってなかなか見つけるのに苦労しているはず。


「はい。その通りでして、武器はこん棒に石槍、弓、その程度のようです。ザシュは魔法が使えるようですが、ザシュが魔法を使っているところを見たものはいないとのことです。」


ああ、転生して直後のカイト領の状況を思い出す。懐かしいな、石斧。勿論無駄にはしていない。だいぶ鉄製の武器に置き換わったとはいえ、一部ではまだ運用している。


だが、それはバティスタをはじめとするドワーフの卓越した鍛冶スキルによって生み出されたからであり、ゴブリンが作った武器は恐らく粗末なものだろうとは思う。


「ちなみに、ザシュのガバナースキルは分る?」


「はい。それも聞き出せました。なんでも、一度犯した女性を支配下に置くことができるというスキルのようです。なんとも下劣なスキルですね・・・」


「ああ、まぁ一部の男には羨ましがられそうなスキルではあるけどな・・・」


何ともまぁ、コメントに困るスキルもあったものだ。しかし、対女性に対しては天敵とも言えるスキルだ。そんなスキルをカイト領で使われた日には目も当てられない惨事になるのは明らかだ。


「え?・・・まさか、カイト様も?」


「・・・ノーコメントで・・・」


まぁ、願望が全くないか?と言われれば、答えはノーだったりする。ただ、そんなスキルに溺れたら確実にまともな精神ではいられそうにない。そういう点では俺はインターネット閲覧というスキルでよかったと思う。


「しかし、人間の兵士の数が減ったことには何か情報はなかったのか?」


ブルは少し険しい顔をした。どうやら何らかの情報はあったようだ。


「これが事実かどうかはわかりませんが、ザシュ達は洞窟をアジトにしているようです。それで、人間の女性達は洞窟内の生活になじめず、体調を崩すものが多いらしいのです。それで死んでいったといっています。」


「なるほど。想像はつくけどな。」


ボシュは目を丸くした。


「洞窟での生活で体を壊すというのは私にはわかりませんが・・・カイト様は分るのですか?」


「ああ、ちょっと待っくれ」


そういって、インターネットのスキルを発動し、洞窟での生活で検索すれば、情報が出るわ出るわ。


「まぁ、簡単に言うとな、洞窟というのは空気の循環が悪く、かつ、人間の排泄物や食べ物のカスといったものの処分が難しい。人間の排泄物や食べかすには人間の体にとって有害な菌やウィルスが繁殖しやすいからな。かつ、空気の循環も悪いと来た。それで疫病に集団感染とかしちゃうんだよ。ゴブリンはそのあたりは耐性が強いのかもしれないね。」


「流石カイト様・・・博識でいらっしゃいますね・・・」


ボブは俺の知識に感嘆しているが、大したことじゃない。ある程度は地球における一般常識でその一般常識の情報を補強するためにインターネットのスキルまで使っているのだ。別に俺がすごいわけじゃあない。


「だが、おそらくザシュは自分が作った女性たちも犯して楽しんでいたんだろうな。」


恐らく、死因のいくつかはザシュによるものだろうとも推測する。


「どうしてそう思うんです?」


「だって、ボーナスで作れる人間の兵士300人全員を女性にするなんて、それ以外理由がないからな。」


ちなみに、俺は男女半々で生産している。


しかし、とりあえず対処についてカイト領の方針を決めなければならない。


「よし、一度対策会議を開こうか。ミヨ、申し訳ないけど各種族のリーダーを集めてきてくれ。」


「承知しました、マスター」


さて、しばらくして各種族のリーダー達が集まってきた。


カイト領には既に多くの種族で成り立つ他種族国家だ。いや、国家とは大それたものだな。他種族村?そんなところだろう。

人間、ドワーフ、エルフ、犬族、猫族、兎族、ハーピーの計7種族が住まう。その各々のリーダー達が一同に会した。


「さて、忙しい中集まってくれてありがとう。大まかな話は聞いているな?俺と同じガバナーがカイト領の東にいることが分かった。相手の戦力はおよそ1,500。150が人間の兵士でいずれも女性。そして残りがゴブリンだということだ。」


大まかな話はミヨを通じて各リーダーに伝えている。

すると全員が押し黙る。おそらく1,500という人数に圧倒されたのだろう。現在のカイト領の総数は500程度だから、実に3倍近くの兵数差がある。


数は力だ。いかにゴブリンといえど、こちらの数倍もの数となれば十分すぎるほどの脅威である。そして、この場にいる者達は多かれ少なかれ戦闘に関してある程度の理解度がある者達ばかり。表情が晴れないのも無理はない。


「で、カイト様はどうするんですかい?和睦ではなく、戦うと?」


口を開いたのはデュークだ。それにしても和睦と来たか。確かに勝算が低ければば和睦という選択肢も考えうるか。しかし、


「和睦という考え方はないな。つまり戦うの一択だ。」


「ほう?」


俺が戦うという選択をしたのには理由がある。それは


「捕虜の話を聞く限り、ザシュが生み出された最初の人間の兵士300名は全員女性で、今では150人に数を減らしているらしい。死因は分らないが、おそらくザシュがアジトとしている洞窟の劣悪な環境と、ザシュによって犯されたことが原因じゃないかと思う。ちなみに、ザシュのガバナーとしての能力は犯した女性を支配下に置くというものらしい。つまり、一度奴の手にかかれば、カイト領の女性たちも奴の支配を受けることになる。そんな相手と和睦なんてできるか?」


ここまで話すと、ビシスやヌイは一斉に首を横に振った。


「あっ、ありえませんわ。ゴブリンに犯されてさらに隷属させられるだなんて、死んだほうがましです!エルフの誇りが許しません!」


「私は既にカイト様に身も心も捧げているのです。ザシュとやらに弄ばれるなんて許せません!」


「「「えっ?」」」


ヌイの発言にその場の一同が驚く。おい待て。俺はまだお前に何もしてないぞ?

誤解を招く発言はやめろと・・・


そしてなんだかミヨの視線が痛い。


「まぁ、ヌイの話はともかく、それは捨て置けませんな。カイト領の女共がゴブリンに傅く光景なんて考えただけでも殺意が湧く。」


というのはデュークだ。そうだろうそうだろう。


というわけで、みなの意見はあらかた固まったように思う。

戦略を考えなければならない。


「王様の話によると、奴らは洞窟で寝泊まりしているらしいが、1,500名も寝泊まりできる洞窟とはま随分と頑張って作ったものじゃわい。まぁ、穴を掘るならドワーフの次に上手じゃからなぁ、ゴブリンは。」


「しかし、攻めるとなると洞窟というのは厄介だぜ?そもそも相手の数が多いうえに洞窟内は暗く、それに足元も悪い。不意打ちなども厄介だ。装備はこちらのほうが多少ましとはいえ、かなりの損害は想定しなきゃな。」


デュークの発言はもっともだ。1500人もゴブリンがいる洞窟に攻め込む?しかも寡兵のこちらが?そんなの全滅しても不思議ではない。


というわけで・・・


「それについて思ったのだが、何も洞窟に入っていく必要はないんじゃないか?」


そう、何も相手に合わせる必要はない。洞窟を城と見立てて攻城戦と考えれば、攻城戦は必ずしも城に攻め入る必要はないのである。兵糧攻め、火責め、攻城兵器による破壊などなど、手はいくらでもある。


むしろ、洞窟なんてものは入り口をふさげば密室空間だ。密室空間に閉じ込めた敵を倒すことはそう難しいことじゃあない気がしてならない。なのに、わざわざ洞窟に降りて行って敵を倒すだって?そんなものはただのファンタジー世界の戦いの話だ。


「え?」


しかし、俺以外のメンバーはそこまで考えが至らないらしい。


「いや、洞窟って、出入り口以外は密室なわけだろう?」


「そうですな」


「では、例えば出入り口で火を起こして熱風を洞窟内に送り届けたらどうだろうか?」


ゴブリンも生き物である。インターネットで調べたところ、42度以上の高熱が長時間続くと意識障害、過呼吸、ショックなどの症状が重複して発生する。さらに重篤になれば体内の血液が凝固し、全身の臓器で多臓器不全となり、死亡に至る危険性が高いとのこと。洞窟内を100度以上の高温にするのは難しいと思うが、40度程度ならできないだろうか?


「洞窟の入口で大量の木炭を燃やし、その熱を洞窟に送る。洞窟全体の広さがどの程度かわからないが、かなりの数のゴブリンを死に至らしめるだろう。それに、生物の体は酸素がないと生きていけない。出入り口で木炭を燃やせば酸素は消費され、二酸化炭素が発生し、洞窟内のゴブリンたちは酸素を補給できないはずだ。」


そう、熱によるダメージに加え、酸欠というダメージを与えることもできる。洞窟というゴブリンにとっては快適な空間を熱と酸素不足の地獄の空間に変えてやれば、奴らとて相当なダメージを負うことだろう。


だが、それだけでは確実に殺せるかどうかは確かではない。


「そして、止めとしてグリーンスライムを大量に洞窟内に侵入させる。グリーンスライムは生産のためのMPがわずか3ポイントで済む。大量に生産したグリーンスライムを洞窟に侵入させて、途中の死んだ、もしくは瀕死のゴブリンを喰らい成長させ、最奥を目指す。グリーンスライムは魔法には弱いが、棍棒や石槍で倒せる相手ではない。」


ここまで一気に話し終えると、周りはシーンと静まり返った。

みな、目が点というか唖然としているというか、ちょっと引かれているような気もする。


「カイト様、結構恐ろしいことを考えますな・・・」


「そっ、そうか?」


だが、誰からも異論はなかった。大筋OKということだろう。


「ああそれと、シーラ、ストーンゴーレムについて確認したいのだが、この材料でもストーンゴーレムは作れるか?」


手に持っていたのは窯で作った耐火煉瓦だ。


この作戦のかなめは、入り口をいかにうまく塞げるかという点にかかっている。ゴブリンに入り口を突破されては洞窟内に熱風を送るどころの話ではないのだ。そのためには頑丈さで最高クラスのストーンゴーレムがどうしても必要だ。


だが、残念ながらカイト領では岩が産出されない。そこで考えたのが煉瓦でストーンゴーレムが作れないか?ということ。例えば、砂が堆積したものは堆積岩という岩になる。煉瓦も方法は違えど粒子の細かい砂や泥を焼き固めたものだから、石や岩と同等と考えてもいいのでは?と思っている。


「あ、はい。問題なく作れると思いますねぇ。」


良し来た!俺の考えは間違ってはいないようだ。


ちなみに、耐火煉瓦を考えたのはもう一つ理由がある。耐火煉瓦は1500度程度までは耐えることができる。木炭を燃やしても最大で約1,000度にしかならないはずだから耐火煉瓦で作ったストーンゴーレムはその熱に耐えられるだろう。


「ブル、確かゴブリンの洞窟の出入り口は合計5か所だったよな?場所は分るか?」


「はい。捕虜からすべて聞いています。」


「念のため確認だが、まだ連中はこちらの存在に気づいていないんだよな?」


「はい。計3回捕縛していますが、いずれの捕虜もこちらの存在を知る者はいませんでした。」


よし。相手はこちらに気づいておらず、こちらは連中のアジトの様子を理解している。戦争は情報を握っているほうが有利だ。勿論、兵力も重要な要素だが、歴史の戦争を紐解けば情報をうまく使い寡兵で大軍を破った例は数多い。


「それともう一つ、気になる情報があります。」


「なんだ?言ってみろ。」


「捕虜にキャッスルコアが洞窟にあるのか?と聞いてみたところ、洞窟にはキャッスルコアがないとのことです。そしてキャッスルコアの場所も知っていると・・・」


確かに、キャッスルコアは一度大地に根付くと移動できなかったはず。洞窟をアジトにしているという話だが、転生直後に洞窟を見つけてそこでキャッスルコアを使ったのか?というと話が出来すぎている気がする。


「なるほど。ちなみにその場所を捕虜は案内できるのか?」


「おそらく可能かと。」


「よし。それと誰か知っていたら教えてほしいんだが、ゴブリンというのは洞窟を好む種族なのか?確証を持ちたい。」


「ああ、あいつらは洞窟が大好きですぜ?」


そうなると、おそらく俺の考えはあっているのだろう。ザシュは元々洞窟とは距離が離れた場所に転生し、その場所でキャッスルコアを使った。だが、やはり洞窟での生活がいいのか、キャッスルコアから離れた場所にあった洞窟に本拠地を移した。ただ、キャッスルコアは移動できないので、キャッスルコアは隠すかどうかしたのだろう。


これが本当なら、本当にバカな男だといわざるを得ない。自分の命の次に大事なキャッスルコアを手元に置いておかないなんて正気とは思えない。その重要性を理解していないか、またはよほどうまく隠せると思ったのか?いずれにせよ愚かであることに変わりはない。


「よし、ではブルは獣人族を20名ほど連れてキャッスルコアの場所に向かってくれ。見つけ次第破壊して構わない。ああ、シーラもブルに同行してくれ。キャッスルコアがきちんと破壊されたかどうか確認してほしい。」


「分かりましたぁ!それくらいならガイドの私も問題なくできます。」


「俺は3日間かけてストーンゴーレムを6体作ることにする。バティスタ、すまないが耐火煉瓦の備蓄をすべて俺にくれ。計6トン必要だ。足りない分は岩でも石でも、普通のレンガでも構わない。そろえてくれ。」


「任された。」


さぁ、忙しくなる。

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